壁に縫い付けられました。
オルトはやっと、解除魔法を地道に使い網を外して、転移先に飛び出た。
そこは人気のない森の中のようで、更に追跡魔法を使い、緑の矢印を出現させ、後を追えば、
再び魔法陣が現れて、どうもそこから又、転移したようである。
今度は転移先で捕獲魔法にかからないように、転移をすると同時に捕獲網を無効化する高尚魔法を唱えてから転移する。そもそも捕獲網魔法とて、高尚な魔法であまり使える人はいないはずである。油断したといえば油断したとオルトは反省しているのだが。
再び転移した先は狭い部屋のようで、ベットがまず二つ並んでいるのが確認出来た。
そして、浴室の入り口であろう扉から一人の女性が金の髪を拭きながら出て来たのであるが、
「きゃぁっーーーーーーーー。」
凄い悲鳴をあげられた。そりゃそうだ。その女性は裸だったのだから。
オルトはとっさに防御魔法を唱えて展開しようとするが、あまりの衝撃的な光景に
勇者ともあろう男が対処が遅れてしまった。
ナイフが何本も飛んできて、オルトを壁に縫い付ける。
幸い、ナイフは全て服の端や、ズボンの端に刺さっており、身動きは取れないが、
怪我は全くしていないようだ。
女性は真っ赤になりながら、胸を押さえてしゃがみこんでいる。
「見ないでくださいませっ。」
「見てないから、その前に服をきてくれっーーー。」
瞼を瞑って見ないようにするオルト。しかし、しかしだ。目に入ってしまった光景は、
くっきりと脳裏に焼き付いており…
勇者オルト20歳。戦いに明け暮れていたこの青年はいまだに童貞である。
しばらく瞼を瞑っていると、声をかけられて。
「ああ、わたくし、もうお嫁にいけませんわ。これは貴方様に娶って頂くしかありませんわね。」
瞼を開けてオルトは改めて、ネグリジェを着た女性の顔を見る。
この女性はやっぱり、自分が結婚を断った王女シャルディアだ。
シャルディアに問いかけてみる。
「貴方が聖剣を持ち去ったのは私と結婚したい為ですか?」
「オホホホホ。当り前ですわ。わたくし、貴方様と結婚するのをそれはもう指折り数えてお待ちしておりましたのよ。貴方様はわたくしとの結婚を断った。だから貴方様の大切な聖剣を頂いたのです。結婚して下さればお返ししますわ。」
冷静になって自分で呪文を唱え、壁に刺さったナイフを魔法で無効化すれば、ナイフは消えて、オルトは自由の身になり、シャルディアの前に立ち、
「申し訳ありませんが、私は故郷に帰りたいのです。でも、聖剣は女神様から授かった物。
差し上げる訳には参りません。お返し願えないでしょうか。」
ピキッとまた、音が聞こえた。
ああ、やはりこの王女の怒りの音だったのだ。
「交渉決裂ですわね。わたくしは、貴方様の事が大好きですのに…」
そして、シャルディアに抱き着かれた。
い、いかん。なんだかいい香りがする。女性ってこんなにいい匂いがするものなのか…
そして、胸が…押し付けられた胸が…シャルディア様、どうしてこんなわざとらしく胸を押し付けてくるのですか???たまらなく男としてドキドキしてしまうのですが…
俺はっ…俺はっ…
慌ててシャルディアを引き離す。
そしてシャルディアの胸の辺りを凝視してしまった。
金色の長い髪に、ゆったりした水色の長いネグリジェを着ているシャルディア。
胸元が胸元が、あの谷間が…胸…大きくないか??
そういえば、一瞬見た裸の胸も大きかったような…
シャルディアがにっこり微笑んで声をかけてくる。
「あの…勇者様。どうしてわたくしの胸ばかり見ているのです?」
「いやその…あの…」
「今宵はもう、遅いですわ。幸い、ベッドは二つあります。よろしければ隣のベッドで。
それとも一緒のベッドで?」
「隣のベッドで、おやすみなさいっ。」
ベッドに潜り込むオルト。
しかし、なかなか眠れない。
隣に隣に…あまりにも衝撃が…。
胸のドキドキが収まらない。
俺はどこの乙女だ???
しかし、明日こそは聖剣を返して貰おう。
そう、決意を新たにするオルトであった。