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聖剣を盗まれました。

ミルデルト王国では、今、パレードが行われていた。

長年、国を悩ませていた魔王が勇者によって倒されたからだ。


無事に王都に帰還した勇者オルトは、黒髪の鍛え抜かれた筋肉を持つ男前で、神から授けられたという銀の聖剣を持ち、馬車に乗って沢山の沿道に集まった国民に祝福されていた。


「勇者オルト様万歳っ。」

「ミルデルト王国に栄光あれ。」

「きゃあ。オルト様、イケメンだわ。とても素敵っ。」


オルト自身の心も無事に使命を果たして誇らしかった。


ああ…これでやっと、故郷の村に帰れる。

帰ったとしても、もう誰もいないが…


故郷の村の事を思うと、晴れやかなパレードとは、裏腹に勇者オルトの心は沈む。


馬車は王都の中央広場に進み、そこにはミルデルト王国の王、そして王妃、娘の王女シャルディアが待っていた。


王女シャルディア、金髪碧眼の可愛らしい美女は、国王夫妻と共ににこやかに勇者オルトを出迎える。


オルトは思う。


国王はこの後、オルトに王女シャルディアとの婚姻を持ちかけるであろう。

しかし…オルトの心は…


ミルデルト王夫妻と王女シャルディアの前に、勇者オルトは跪くと、


「無事、魔王を討ち果たし、帰還致しました。」


と報告を行えば、ミルデルト王は、


「よく、使命を果たしてくれた。兼ねてから宣言していた通り、我が娘、王女シャルディアを其方の妻に致そう。」


「お断りいたします。私は誰も妻を貰うつもりはありません。願わくば、故郷に帰り静かに暮らしたいと思います。」


オルトは不敬に当たるとは思いながらも、ミルデルト王に自分の気持ちを伝えた。


ピキッ。


???


何だろう。何かがピキッと音を立てたような気がする。


オルトは顔を上げる。


何が音を立てたのだ?


王女シャルディアが近づいてきて、オルトに話しかけた。


「それならば、今宵、せめてお食事でも一緒に如何ですか?魔王を倒したお話、

手紙で報告は頂いておりますけれども、直接、お聞きしたいわ。」


ミルデルト王も王妃も、頷いて。


「是非とも、私も聞きたいものだ。そなたの武勇をな。」

「わたくしも、同感ですわ。是非。勇者様。」


断れば、国民の手前まずいであろう。


「解りました。それでは、今宵は食事をしながら、お話を致しましょう。」


承知をしてしまった。


しかし、あのピキッという音は何だったんだ?


何だかとても嫌な予感がした。



王宮で国王夫妻と王女と食事をするのに、聖剣を帯刀していくわけにはいかないようだ。

食事をする部屋に入る前に、咎められて、近衛騎士に預ける事になった。


目の前には国王陛下と王妃、自分の横には王女シャルディアが座り、和やかに食事は始まった。


オルトは両陛下とシャルディアに向かって、


「手紙にも報告した通り、私一人の手柄ではありません。いつも、私が困った時に助けてくれるお助けの聖女と名乗る女性がおりました。高笑いと共に彼女は現れて、私が危なくなった時にすかさず援助魔法を繰り出して、勿論、魔王討伐の時も、彼女はどこからともなく高笑いと共に現れて、私を助けてくれて。ですから、御無礼を承知で申し上げますが、その彼女にも褒美を与えるべきだと私は思うのです。そもそもお助けの聖女ってどなたなのですか?」


ミルデルト王はあきらかに困ったような表情を浮かべ、


「さぁ、私にも心当たりがないのだ。」


ミルデルト王妃も、オホホホと笑いながら、


「それにしてもお助けの聖女とは、どのような装いなのですか?」


オルトは思い出すように、


「顔は仮面ですっぽりと覆われて、マントを羽織り、華麗に黒のドレスを着こなして、

ブーツを履き、金髪をなびかせて。わたくしはお助けの聖女ですわ。さぁわたくしの前にひれふしなさい。がセリフの謎の女性で。ああ、私は私的な事は一切話した事がありません。

援護をしてくれた後は、身を翻して姿を消してしまうものですから。」


何だか明らかにミルデルト王は顔を引きつらせて。


「そ、そうか…。こちらからも探しておこう。」


その間、黙々と食事を隣でしているシャルディア王女。

王妃はオルトに向かって。


「ところで、オルト。我が娘シャルディアをどうしても妻に貰ってくれぬのか?

シャルディアはそれはもう、其方の帰りを待ち焦がれて。」


シャルディア王女は頬を染めて、


「オホホホ。嫌ですわ。母上。勇者様の前でお恥ずかしい。」


オルトの決意は変わらない。


「まことに申し訳ないのですが、私の心に変わりはありません。王女様と結婚するよりも、故郷に帰って静かに暮らしたい気持ちは変わりません。」


その時、また聞こえたのだ。


ピキッという音が。


な、なんだろう。凄く誰かの怒りを買っているような気がする。


シャルディア王女は立ち上がって、


「お食事中、ごめんなさい。用事を思い出しましたわ。それでは失礼致します。」


と、部屋を出て行ってしまった。




食事が終わり、両陛下に食事の礼を述べ、部屋を退席しようとした時、

近衛騎士が部屋に飛び込んできて、


「申し訳ございません。大変です。勇者様の聖剣を持っていかれました。」


国王陛下と王妃は、口を揃えて。


「「やっぱりっ」」


オルトは焦る。


「どういうことだ?誰にっ?」


「シャルディア王女です。手紙をオルト様宛に預かっています。」


差し出された手紙を近衛騎士から奪い取れば、


- わたくしとの結婚を断るなんて、許せないですわ。代わりに聖剣を貰っていきます。

取返したければ追いかけていらっしゃい。-


「どういう事だ???聖剣を盗まれてしまうなんて。」


近衛騎士は土下座する。


「申し訳ございません。」


ミルデルト王はオルトに向かって。


「娘は勇者オルトとの結婚を楽しみにしていた。誠に申し訳ない。」


「いえ…今は、聖剣を取り返さないとなりません。失礼致します。」



追跡魔法を発動させる。


隣の部屋へ緑の矢印が続いていて、隣の部屋に入れば、

部屋に円形の魔法陣が展開された。


「転移したな。王女は転移魔法が使えるのか。」


その魔法陣に飛び込む。


そして飛び出た先で一気に頭から網が降って来て、絡めとられた。


「しまった。罠だ。」


網は魔法で出来ていて、身体に絡みついて身動きが取れない。


解除魔法で、丁寧に外していかないと…これは時間がかかる…

追いかけるのに苦労しそうだな。


仕方がないので、オルトは地道に解除魔法を唱え、網を壊していくのであった。


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