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一話 Xデー

ノリと勢いって大事だと思うんです。


俺にとってのXデーはある日突然訪れた。

いつもより早く起きていつもは見る余裕のないニュース番組を見ていた時のことだった。


『女優の荒垣優さんとシンガーソングライターの星川天さんが結婚いたしました! おめでたいニュースですね!』


 俺の開いた口は塞がらず、書き込んでいたシリアルは口から全て出た。


「あら、おめでたいわねぇ。ていうか六輔、あんたあの荒垣? っていう女の人のこと好きじゃなかった?」

「――」


 母親がキッチンから呑気にテレビを見ながら何か呟いているが、俺はインターネットで大勢の呟きを検索し、これが真実なのかを調べる。


『まさかあの二人が結婚するとは』


『ドラマで共演してたもんね』


『やばい、ガッキーロスが凄い、死にそう』


「ガチなのか……」


俺は高校に登校した後もガッキーロスから抜け出せずにいた。

ガッキーは通学校の頃ガチ恋した女優の一人、今は別のアイドルに気持ちが移ったとはいえ、好きだったころの記憶が消えてなくなるわけじゃない。

 俺は放心状態で学校に向かった。


「もう、六ったら好きな女優さんが結婚したぐらいでそんなにショック受けること?」

「ああ、そりゃあもう……な。周りの男子を見れば分かるだろ?」


 項垂れているところに話しかけてきたのは北村遥。俺の幼馴染で同じクラスの女の子だ。


「まあそりゃ男子みんな口数少ないとは思うけど……」

「それだけじゃない、あそこを見ろ」


 俺はおもむろに前方の席を指さす。


「え、ま、まさか!?」

「そうだ、今まで一度も学校を休んだことのないあの田中君が今日欠席しているッ! アイデンティティのすべてを無遅刻、無欠席だった関わらずに、だ」


 俺はクラスを見渡し、改めてガッキーの結婚が一大事であることを確認する。


「でもさ、六の好きなアイドルの女の子もいつかは結婚するんでしょ?」

「――え」


 遥の何気ない一言が俺の脳に電撃を走らせた。

 そうだ、俺は何を油断していたのだ。

 なぜ自分の好きなアイドルだけは結婚しない、いや男性経験すらないまま生きていくと思っていた!?

 今自分が最も推しているアイドルの笑顔が脳裏に浮かぶ。

 そこからの決断は一瞬だった。


「決めた。俺決めたよ遥」

「え、な、何を? っていうかこういう時の六って勢いでとんでもないことを言いそうな気が……」


 俺は今一度アイドルグループ、『HALSION』の秋元七海を思いクラスに響き渡る声でこう宣言した。


「俺はアイドルと結婚するために、芸能界に入るぞぉ!」

「「「ええええええええ!?」」」


 クラスの男子と遥の驚嘆の声が聞こえる。


「ちょっと、六! 絶対無理だからやめた方がいいよ!」

「どうして無理だって分かるんだ、俺は出来ると信じてるぞ!」

「だって演技とかしたことないでしょ?」

「これからする」

「事務所とかどうするの?」

「なんとかする」

「大学行かないの?」

「それは分からない」

「でっ、でも!」

「とにかく! 俺は芸能界に入ってまずななみんとお友達になる。そこを目標にするんだ」


 俺は縁起の経験も芸能界のルールも、礼儀だってまだ知らないけど、それでも、俺はアイドルと結婚するために芸能人になるんだ。


「いいぞ六ー!」

「そうだそうだ、お前ならきっとできる!」


 クラスの男子は声援を俺に送ってくれる。


「よっしゃあ! それじゃあ諸々練るために俺一旦帰るわ!」

「六、流石にそれは怒るよ?」

「はい……」




 殴られるのは嫌だったので大人しく授業を受けるふりをして、ドラマや映画、舞台のオーディションの情報をかき集める。

 しかし調べて分かったことだが、やはり事務所などの後ろ盾が無ければオーディションにすら参加できないんだな。

 そんな中たった一つだけ一般人から募集しているオーディションを見つけた。


「『ハチ恋』の友人役か……」


 ハチ恋とは『ハチミツみたいな恋をする』の略で、最近女子高生の間で話題の少女漫画であり、それに加えて男性にも非常に人気が高いことで一躍有名になった作品である。

 

「へぇ、ハチ恋キャンペーンっていうやつか」


 しかしそのオーディション、なかなか一筋縄では受けさせてもらえないらしい。

 SNSの情報によると『ハチ恋』とコラボしている清涼飲料水を買って、当たりが出れば晴れてオーディションに応募できるというものだった。


「よし、ポカリ買いまくるぞ!」


 それからの日々、俺の飲み物はすべてポカリに変わった。

 学校の自販機も、家の食事も全てだ。

 そんな生活を続けて一週間経ち、購入本数が65本を超えた頃だった。


「こ、これは!?」


 俺は思わず大声を上げる。

 ペットボトルのラベルの裏に記載されているのは『ハチ恋オーディション応募券』の文字。


「来た来た来た来たー!」


 印刷されたQRコードをスマートフォンで読み取ると、オーディションの応募を一瞬で終わらせる。


 その日から俺はオーディション当日まで付け焼刃で演技の練習をこなした。

 それらが全て水泡に帰すとも知らずに……。

読了お疲れさまでした。

続きが気になって頂ければ幸いです。

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