~最終幕?~
俺はVRゴーグルを外すと周囲のスタッフへ笑顔をみせた。
「これはなかなか難しい。でもやりがいのあるゲームだ。世界をあっと言わせてやろうじゃありませんか」
周囲のスタッフは拍手喝采でテストプレイの完了を祝福した。
俺が開発した「ドリーム・アウト」は瞬く間に世界で売れた。ゲームの世界へプレイヤーの身体がそのまま入る感覚を身に着けるスーツと連動し、また設定に応じてマントラが出現する場所、修行する場所や主人公に主要登場人物の事等、ありとあらゆる世界観で夢の世界を体感できるという品物だ。この開発には各種多種方面から支援を要した。しかしゲームの売り上げをみるに、充分すぎる程の興行収益を生んだことに疑いの余地はなさそうだ。早くも俺には会社の幹部役の話まで舞い込んでくる事となった。
しかし嬉しい話ばかりでもなかった。このゲームがゲームの世界と現実世界の混合を起こさせてしまうのでないか? なんていう意見が各種SNSで拡散をされて、俺はその都度「そんな危険性を孕んだ品物ではありませんよ。大袈裟な批判です。だから僕は“桐谷慎吾”という架空の太った青年男性を登場させた。それは他のプレイヤーも一緒。桐谷慎吾という人物は現実にいないのです。ただの幻なのです。これでも文句があるって言うのならば、ぜひ桐谷慎吾さんという人物を僕の目のまえに連れて来てくださいよ」だとかコメントするに他ならなかった。
しかし俺の開発は何かとんでもないものを呼び込んでしまったみたいだ。
俺は趣味で息子と通っていたジムの帰り道である人物から声をかけられた。
「あの、魚住純一さんですよね?」
「はい。そうですか?」
「あの、僕の事を覚えています?」
「見覚えがあるような気はしますけど……」
「そっかあ、覚えてくれていないのか……」
「パパ。誰? この人?」
「知り合いだよ。すいません、我が家に帰らなくちゃいけないので。これで」
俺はすぐさまに引こうとした。すると髭モジャのその男は大きな声で「これだけ言わせて貰えませんか!」と発言した。俺は振り向かずにはいられなかった。
「今、この世界は好きなだけ電子粒子を使っている。やがてそれはこの宇宙に存在する万物の怒りを買う事になるでしょう。そうなれば貴方が創られたマントラという怪物、この10年のうちにどこかで出没する。これは恩返しをする意味で私からの忠告です。貴方にも出来ることはある。それだけはお忘れなく……」
男は深々とお辞儀する。そしてそのままパッと消えた。
俺と彼は確かに知人ではある。いや本当は友人であったと言っていい。
縁を切ったのはお互いに「宇宙人」であるからだ。
マントラを倒す事ができるのは俺だけなのか?
俺は苦笑いするに他ならない。あれから数年経って人類は未知のウイルスと戦っている。
残念ながらそのウイルスは多くの命を奪って今なお世界に蔓延る。
その夜、俺は悪夢をみた。今まで何度も見てきたウンザリするような悪夢を。
夢から覚めると自室のベッドの上だった。テレビがついているままだ。
そっか。ずっとテレビをみている筈だ。
俺は今日起きるかもしれない怪奇現象を事前に知っているのだからな――
∀・)読了ありがとうございます!!本作、実は僕初のVRゲーム作品でございます。そして僕のなろうデビュー作品である『ICEISLAND』の続編でもございます。丁度こういう感じの夢をみまして(ラジオ番組・第22回RGPでそういった話もしてます)、これを作品にしようと思って出来上がったのがこの作品です。文学感覚というよりもゲーム感覚で書いたところがあって、そういったギミックを楽しんで貰えたら何よりです。この続編?どうかな?作るかもしれないし作らないかもしれない。ではまた他作品でお会いしましょう☆☆☆彡