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~第2幕~

 夢から覚めると自室のベッドの上だった。テレビがついているままだ。



 そっか。ずっとテレビをみている筈だ。



 俺は今日起きる怪奇現象を事前に知っていた――



挿絵(By みてみん)



 遡ること数日前。俺は出張で名古屋に来ていた。新しく製作したゲームのテストプレイヤーになるYoutuberの男と会食する予定で。



 名古屋の夜景が一望できる居酒屋で俺は彼を待っていた。しかし一向に来ないなと思っていたら、全く想像していない髭モジャの男がやっていきた。



挿絵(By みてみん)



「貴方が魚住純一さんかな?」

「はい」

「はじめまして。底辺Youtuberのキリヤーと言います」

「えっと、たっくんたっくんさんではないのですか?」

「ええ、今回のお話というのはそもそも仕事の話でないですから」

「えぇ~話が違うなぁ。あなたは本当に私に用があるのですか?」

「ええ、これを確認いただけたら」



 キリヤーは名刺を手渡した。一応とある事務所に所属するYoutuberのようだ。



「座っても宜しいですか?」

「どうぞ」



 桐谷はごく自然に座ってきた。



「しかしたっくんたっくんでない代理の……しかも底辺を自称する人が来るなんて、私もなめられたものですなぁ」

「ええ、まあ、ところで魚住さん、貴方は昨今の電子データが電子粒子を集めて物体を創ることがあるなんて話を聴いたことがあります?」

「はい?」

「巷ではあまりに画期的な科学現象であるが故、闇に葬られていますけどね」

「キリヤーさん、ここが飲みの席だからってやっていい事と悪い事があるよ」

「はい?」

「ふざけた話題で遊ぼうとするな。そしてそういうことがしたいのならば、せめてもっと親睦を深めてからにしなさい」

「やっぱり。いきなり話したって信じては貰えないかぁ」



 キリヤーは手元にあるビールを手に取ると飲み乾した。



「うん、この一杯は美味いなぁ。もっと欲しいなと思ったなら、店員におかわりを頼めばいい。しかしそれを強く念じるだけでおかわりできるとしたら?」

「は?」



 キリヤーはグラスの上に手を翳す。すると、その手元に小さな粒子が集まって、その集まった個体は液体となりグラスの底へ落ちた。



 まるでマジック。だけどそれでは突然発生した謎の粒子が説明できない。




「アンタ、何者だ? ただのYoutuber、いや、人間じゃないな?」

「ご名答。しかし只者ではないのは魚住純一さん、貴方だってその筈だ」



 キリヤーは2杯目のビールをグビグビと気持ちよさそうに飲み乾す。



「俺はただのゲームクリエイターだ。そしてその立場でここに来ただけだ。まさかこんな非日常めいたものをみるなんて……」

「勿論これは誰しもに出来る芸当じゃない。これが出来るのは限られた人間のみ」

「それが俺にもできると?」

「ええ。そういう話ですよ」



 ここにきてやっと俺は一杯を飲むことにした。



 飲まずにやっていられるか。



「おや? 飲まれるのかな?」

「飲まずにはやっていられない。アンタ何者だ? 目的は何だ?」

「1つ1つ答える形になるかな? 答えられる事と答えられない事が色々とある。まず答えられる範囲で私は世間的に底辺Youtuberのキリヤーという者である事。しかし本当は地球でない惑星から地球を護る為にやってきた使徒。救世主に目覚めてもらう役割を担ったね」

「その救世主が俺だと」

「そういうことですね」

「それで? 俺は何をすればいい?」




 俺はキリヤーとの対談後すぐに東京へ戻ることとした。名古屋で詰め込んでいた予定は全てキャンセルして東京へ向かった。



 内容が内容だ。妻に話したところで納得はしてくれないだろう。それに本当にキリヤーの言った事が現実に起きるとも限らない。あれが何かの奇を衒ったマジックだったとして、俺をからかう目的かそれとも――




 キリヤーの話した内容はこうだ。東京の上野動物園に巨大な怪物が現れる。そいつの名称はマントラ。全長5メートルは下らない黄色の怪物だ。奴は地球外生命体からおくりこまれる生物兵器らしい。



 そしてそいつを倒せるのは俺しかいないのだと。俺が能力に目覚める事で奴を倒せることが出来ると。何の偶然なのか……その日、俺の息子が遠足で上野動物園を尋ねる予定も組まれていた。



 これは夢なのか? 幻なのか? そんなことを想像するのも馬鹿馬鹿しいが。



 妻には名古屋で予定していた予定が全て仕事の諸事情でキャンセルになったと説明した。勿論家族サービスに時間をあてたワケだが……



 俺はキリヤーに言われたように自分に力があるのかどうか、妻と子供が居ない間に試してみた。



 ミキサーの上に手を翳す。集中して力をいれる。何も起きないことが続いた。



 しかし俺には何か確信があった。



 キリヤーは確かに言ったのだ「魚住さんにしか救えないのです。この世界はね」と。



 俺がミキサーの前で手力を発揮しようと試みて1時間経った時、遂に小さな青白い粒子が集まった。そして俺がイメージした果物をイメージした形でミキサーの中へ送り込むことが出来た。



 どうやら俺にも力があるらしい。



「あなた、そこで何をしているの?」

「え?」

「ちょっと、いい加減こっちも手伝ってよ。せっかく家にいるのに」

「はは、悪いね。ちょっとやってみたいことがあって」



 俺はリンゴジュースを片手におどけてみせた。今ここで妻に何を話しても混乱させるだけだろう。俺はそれから久しぶりに家事の手伝いに勤しんだ。




 しかし、果物を具現化させるだけではキリヤーのいう全長5メートルを下らないと言うような化物を倒す事など出来る筈もない。何かかめはめ波みたいな攻撃をこの手から発しない限りは……




 夜、俺は用事があると言って出ることにした。



「お風呂は?」

「帰ってから入るよ」

「あなた、せっかくだから子供と一緒に入ってくれればいいのに……」

「悪いね。仕事の関係だからさ。なるべくスグ帰るから。ゴメンなぁ」



 俺は広い公園の物陰に隠れた。手に力をこめるとやはり粒子が集まる。この力にも慣れてきたようだ。果物を湧現させた時よりも容易に光玉を放てた。いける。いけそうだ。



 大きな光弾を放つことに成功すると、周囲が騒ぎ始めたので俺は退散した。





 謎の流星が打ち上げられたとテレビのニュースで話題になった。あの公園から打ち上げられたと特定されたなら、いよいよヤバイことになりそうだと思ったところだが、今日の今日でそんなことが起きる筈もない。



 俺はお風呂に入ってからもテレビに見入った。



 明日起きる怪奇現象に備えて心の準備をするのだ。



 しかし俺は寝てしまった。午前1時だったか1時半だったか。



 気が付けばベッドの上にいた。



 テレビで時刻は午前8時00分を指す。テレビに映っているのは上野動物園で暴れている恐竜、いや、人型をした黄色の超巨大生物“マントラ”だ。スマホにキリヤーから何度か着信が入っていた。



「あなた!? どこに行くの!?」

「茉奈斗を助けに行く!! 黙ってテレビをみていられるか!!」



 俺は制止する妻を振り切って家を出た。既に東京一帯では重い緊急事態宣言が発表されて、地域によっては避難命令や自宅謹慎命令も併せて出されていた。



「もしもし! キリヤーさん!」

『魚住さん!! 今まで何をしていたの!?』

「寝ていた!!」

『何をしていたっていうの!? もう自衛隊が上野動物園を囲っているのに……今更遅いよ!!』

「何とかするよ! 幸運を祈ってくれ!」



 俺はそう言って電話を切った。そして会社の後輩である加藤へ電話をかける。



『もしもし、魚住さんですか?』

「おう、今すぐバイクだしてくれるか?」

『え!? こんな時に!? 魚住さん、テレビ観てないのですか!?』

「こういう時だからだよ!! 頼む!! 手伝ってくれたら、来月の給料全額をお前にやる!!」

『え!? ええ!? マジっすか!?』

「俺はいつでもマジだ!!」

『わかりました!! すぐに準備します』

「恩に着る!!」



 俺は猛ダッシュで加藤の自宅マンションの駐車場へと向かった。そしてそこにはバイクのエンジンを吹かせながら待機した加藤がいた。



「加藤、エンジン全開で頼むぞ!!」

「ラジャ! お子さんを救いましょう!」



 加藤のオートバイは上野動物園を目がけ爆走してゆく。数々の検問を潜り抜けながら、俺達は上野動物園に辿りついた。



 自衛隊にマークされているのだろう。追手がすぐそこまで迫ってきていた。



「やばいっすよ! 先輩!」

「説明は俺が後でする!! 彼らを足止めしてくれるか!?」

「え!? それってどういうこと!?」

「俺が全責任を担うから! お前は彼らに捕まってくれ!!」



 俺は駆ける。上空に見える巨大生物のちかくを目指して。加藤はオドオドしているうちに捕まったらしい。スマン。だけど給料の話は嘘にしないから許してくれ。



 マントラの近距離に入る。



 破損した戦闘機の破片がそこら中に落ちてくる――



 空中戦が行われている――



 俺は手を広げて力を込める。そしてありったけの粒子を集めた。



 そのときにまさか思ってもみなかった声が耳に響いた。



「パパ!!」



 茉奈斗!?



 しかし俺は粒子を集めることを止めなかった。



 茉奈斗は後ろから追ってきた保母さんに保護された。



 俺は彼女へ「安全な所へ逃げて!! 早く!!」と叫ぶ。



 俺が蓄えた光弾は俺の身体と同じぐらい、いや、もはやそれより巨大となる。



「これでも喰らいやがれ!!! バケモンが!!!」



 俺はマントラの顔面目掛けて蓄えた光弾を放った。俺の攻撃は命中して、奴は一瞬で爆散した。



 するとあたりは真っ白になる。



「ゲームクリア、おめでとうございます。人類の英雄よ。永久に」



 やっとだ。やっとクリア出来たのだ――



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