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~第1幕~

 夢から覚めると自室のベッドの上だった。テレビがついているままだ。



 そっか。ずっとテレビをみている筈だ。



 俺は今日起きる怪奇現象を事前に知っていた――



挿絵(By みてみん)




 遡ること数日前。俺は出張で名古屋に来ていた。そのついでに幼馴染というか腐れ縁というか、そんな感じの友人と会う約束を入れていた。



 名古屋の夜景が一望できる居酒屋にて俺は彼を待っていた。しかし一向に来ないなと思っていたら、だいぶ遅刻して彼はやってきた。



「よう、魚住、久しぶりだな」

「おう、だいぶ髭生やしたな」

「ははは、似合うか? それはそうと早速真剣に話したい事があって」

「おう、何だよ?」

「ちゃんと聴いてくれるか?」

「おう、昔の好だろ? 聞く」



 コイツは俺が物心ついた時から付き合いのある友人の桐谷だ。



「座ってもいいか?」

「おう、遠慮するな」



 桐谷は周囲を気にしながらよそよそしく座った。



「しかしお互いにこんな歳になって、こんなリッチなところで酒を飲み交わすなんて夢にも思わなかったな」

「うん、まあ、ところで魚住、お前は昨今の電子データが電子粒子を集めて物体を創ることがあるなんて話を聞いたことがあるか?」

「は?」

「巷ではあまりに画期的な科学現象であるがゆえ、闇に葬られているけども」

「桐谷、お前いつからオカルトにハマるようになった? そういう相談か?」

「まだ話の途中だぞ? 最後まで聞いてくれないか?」

「ふざけた話題で遊ぼうとするな。そしてそういうことがしたのならば、もっと酔いが深まってからにしろ」

「だよな。いきなり話したって信じては貰えないか」



 桐谷は手元にあるビールを手に取ると飲み乾した。



「うん、この一杯は美味いよなぁ。もっと欲しいなと思ったら、店員におかわりを頼めばいい。しかしそれを強く念じるだけでおかわりできるとしたら?」

「は?」



 桐谷はグラスの上に手を翳す。すると、その手元に小さな粒子が集まり、その集まった個体は液体となってグラスの底へ落ちた。



 まるでマジック。だけどそれでは突然発生した謎の粒子が説明できない。




「お前は何者だ? ただの人間じゃないな?」

「ご名答。しかし只者ではないのは魚住純一、お前だってその筈だ」



 桐谷は2杯目のビールをグビグビと気持ちよさそうに飲み乾す。



「俺はただの一般人だ。お前と同じ山口で生まれ育った男。そしてその立場でここに来ただけ。まさかこんな非日常めいたものをみるなんて……」

「勿論これは誰しもに出来る芸当じゃない。これが出来るのは限られた人間のみ」

「それが俺にもできると?」

「まだ目覚めてないようだが……」

「全く変な話だな……」



 ここにきてやっと俺は一杯を飲むことにした。



 これが飲まずにやっていられるか。



「おや? 飲むのか?」

「飲まずにはやっていられない。答えろ。お前は何者だ? 目的は何だ?」

「1つ1つ答える形になるかな? 答えられる事と答えられない事が色々とある。まず答えられる範囲で俺は地球の人間を一度やめて特殊能力に目覚めた桐谷慎吾だ。地球でない惑星より地球を護りたいが為に地球へと戻ってきたところだ。それをまず理解して頂こう」

「ははは、大人になって宇宙旅行にでもいってきたのか?」

「それは答えられないな」

「俺に何をして欲しい?」

「それは……」




 俺は桐谷との会談後すぐに東京へ戻ることとした。名古屋で詰め込んでいた予定は全てキャンセルし東京へ向かった。



 内容が内容だ。妻に話したところで納得はしてくれないだろう。それにホントに桐谷の言ったことが現実に起きるとも限らない。あれが何かの奇を衒ったマジックだったとして、俺をからかう目的かそれとも――




 桐谷の話した内容はこうだ。東京の上野動物園にて超巨大な怪物が現れる。そいつの名称はマントラ。全長5メートルは下らない黄色の怪物だ。奴は地球侵略を企む地球外生命体の手によって生みだされた物らしい。



 そしてそいつを倒せるのは俺しかいないのだと。俺が能力に目覚める事で奴を倒せることが出来ると。何の偶然なのか……その日、俺の幼い息子が遠足で上野動物園を尋ねる予定も組まれていた。



 これは夢なのか? 幻なのか? そんなことを想像するのも馬鹿馬鹿しいが。



 妻には名古屋で予定していた予定が全て仕事の諸事情でキャンセルになったと説明した。勿論家族サービスに時間をあてたワケだが……



 俺は桐谷に言われたように自分に力があるのかどうか、妻と子供が居ない間に試してみた。



 ミキサーの上に手を翳す。集中して力をいれる。



 何も起きないことが続いた。しかし俺には何か確信があった。



 桐谷は言ったのだ「魚住にしか救えないのさ。この世界は」



 俺がミキサーの前で手力を発揮しようと試みて1時間、遂に小さな青い粒子が集まる。そして俺がイメージした果物をイメージした形でミキサーの中へ送り込むことが出来た。どうやら俺にも力があった。



「あなた、そこで何をしているの?」

「え?」

「ちょっと、いい加減こっちも手伝ってよ。せっかく家にいるのに」

「悪いね。ちょっとやってみたいことがあって」



 俺はリンゴジュースを片手におどけてみせた。今ここで妻に何を話しても混乱させるだけだろう。俺はそれから久しぶりに家事の手伝いに勤しんだ。




 しかし、果物を具現化させるだけでは桐谷のいう全長5メートルを下らないと言うような化物を倒す事など出来る筈もない。何かかめはめ波みたいな攻撃をこの手から発しない限りは……




 夜、俺は用事があると言って出ることにした。



「お風呂は?」

「帰ってから入るよ」

「あなた、せっかくだから子供と一緒に入ってくれればいいのに……」

「悪いね。仕事の関係だからさ。なるべくスグ帰るから。ゴメンなぁ」



 俺は広い公園の物陰に隠れた。手に力をこめるとやはり粒子が集まる。この力にも慣れてきたようだ。果物を湧現させた時よりも容易に光玉を放てた。いける。いけそうだ。



 大きな光弾を放つことに成功すると、周囲が騒ぎ始めたので俺は退散した。





 謎の流星が打ち上げられたとテレビのニュースで話題になった。あの公園から打ち上げられたと特定されたなら、いよいよヤバイことになりそうだと思ったところだが、今日の今日でそんなことが起きる筈もない。



 俺はお風呂に入ってからもテレビに見入った。



 明日起きる超常現象に備えて心の準備をするのだ。



 しかし俺は寝てしまった。午前3時だったか3時半だったか。



 気が付けばベッドの上にいた。



 テレビで時刻は午前10時を指している。テレビに映っているのは上野動物園で暴れている大きな恐竜、いや、人型をした黄色の化物“マントラ”だ。スマホを手に取ると、そこには桐谷から何度も着信が入っていた。



「あなた!? どこに行くの!?」

「茉奈斗を助けに行く!! 黙ってテレビをみていられるか!!」



 俺は制止する妻を振り切って家を出た。既に東京一帯では重い緊急事態宣言が発表されて、地域によっては避難命令や自宅謹慎命令も併せて出されていた。



「もしもし! 桐谷か!」

『魚住! 今まで何をしていた!?』

「寝ていた!」

『何をしているっていうの!? もう自衛隊が上野動物園を囲っているというのに……今更遅いぞ!!』

「何とかするよ! 幸運を祈ってくれ!」



 俺はそう言って電話を切った。そして会社の後輩である加藤へ電話をかける。



『もしもし、魚住さんですか?』

「おう、今すぐバイクだしてくれるか?」

『え!? こんな時に!? 魚住さん、テレビ観てないのですか!?』

「こういう時だからだよ!! 頼む!! 手伝ってくれたら、来月の給料全額をお前にやる!!」

『え!? ええ!? マジっすか!?』

「俺はいつでもマジだ!!」

『わかりました!! すぐに準備します』

「恩に着る!!」



 俺は猛ダッシュで加藤の自宅マンションの駐車場へと向かった。そしてそこにはバイクのエンジンを吹かせながら待機した加藤がいた。



「加藤、エンジン全開で頼むぞ!!」

「ラジャ! お子さんを救いましょう!」



 加藤のオートバイは上野動物園を目がけて爆走していった。



 数々の検問を潜り抜けながら、俺達は上野動物園に辿りついた。



 自衛隊にマークされているのだろう。追手がすぐそこまで迫ってきていた。



「やばいっすよ! 先輩!」

「説明は俺が後でする!! 彼らを足止めしてくれるか!?」

「え!? それってどういうこと!?」

「俺が全責任を担うから! お前は彼らに捕まってくれ!!」



 俺は駆けた。上空に見える巨大生物のちかくを目指して。加藤はオドオドしているうちに捕まったらしい。スマン。だけど給料の話は嘘にしないから許してくれ。



 マントラの近距離に入った。



 既にそこには跡形もなく破損した戦闘機の破片がそこら中に散らばっていた。



 今なおも空中戦が行われている――



 俺は手を広げて力を込める。そしてありったけの粒子を集めた。



 そのときにまさか思ってもみなかった声が耳に響いた。



「パパ!!」



 茉奈斗!?



 俺は手を下ろした。そして駆け寄ってくる息子を抱きかかえようとした。



 その時に頭上から何かが落ちてきた――



 最後に耳にしたのは茉奈斗を追っていた保母さんの悲鳴だった――




 夢から覚めると自室のベッドの上だった。テレビがついているままだ。



 そっか。ずっとテレビをみている筈だ。



 俺は今日起きる怪奇現象を事前に知っていた――

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