表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリスの日記~私の世界の歩き方~  作者: 春生まれの秋。
5/37

5、初めての[揚先生の『戦術』と『戦略』の授業]。

5、



 再びしんと静まり返った教室。

 授業開始のチャイムとともに、ガラリと扉を開ける音がした。


 と同時に、手にした出席簿で黒板消しをかわす人影。


「ふむ。黒板消しが見えたから、落とし穴でもあるかと思ったけど、無かったね。」


と、落ち着いた声がした。

 入ってきたのは、揚先生。にこり。と笑っている。

 レヴィちゃんの情報通り、揚先生は、黒髪で落ち着いた雰囲気の、知的な容姿をした、30代くらいの方だった。

 揚先生は、続けて言った。


「で、誰かな?こんな事をするのは。誰が仕掛けたかは、この際問わない。だけど、トラップを仕掛けるなら、もう少し先を読まないといけないよ。」


ニッコリと微笑み、これくらい何でもないと躱した楊先生。当たり前の様に繰り広げられた光景に、私は驚愕した。



 学園生活とは、こういうトラップとかを仕掛けるのも、仕掛けられるのも普通なのか、と。



 その衝撃はすさまじく。人間社会の奥深さに感嘆した私は、この講義は外しちゃいけない、学ぶべき、未知なる知が此処にはあるぞ、と直感した。




 揚先生は何事も無かったかのように、さらに続ける。


「さて、それでは授業を始めようか。まず、注意事項の説明から。私は出席はとりません。それから、基本的に私のテストには、ノート等の持ち込みオッケーです。ですから、真面目に授業をしたくない者は出ていって構いません。授業を受けなくても、テストの点数が良ければ単位をあげます。」


 半分くらいの学生が、この時点で教室を出て行った。

 授業が楽しみで目を輝かせる私とは対照的に。


「さて、もう出ていく人は居ないかな?もし受けたくない人が居たら、遠慮なく出ていってくれたまえ。」


 揚先生は重ねて言った。


「参加します。是非参加させてください!!」


思わず立ち上がり、右手をピンとのばして私が宣言すると、


「俺も。」


「ボクも。」


「私も。」


と、アルヴィンさんにリースさん、更にはクレアさんも同意した。


「私もです。揚先生、師匠と呼ばせてください!!!」


 レヴィちゃんに至っては、師匠と仰ぐほどの感銘を受けたらしい。大絶賛で参加を表明した。

 参加の表明をしないで残る人も幾らかはいたが、私達の賑やかさに呆れたのか、


「こんな奴らとは机を同じくしていられるか、バカらしい。」


と、席を立つ人もいた。


 そうした騒ぎが治まると、揚先生はボソリと呟いた。


「予想以上に残ったな。めんどくさい。」


私の鋭い聴覚は、うっかりその呟きを聞き取ってしまった。


(え?教師って、そんな態度をとっても大丈夫なの???これ、普通なの?それとも、この先生が非常識なの????)



軽く混乱していると、ちょっとめんどくさそうに小さくため息を漏らした楊先生が、姿勢を正した。これから授業が始まる様だ。

そう察した私は、少しでも多く学ぼうと、意識を先生に向けた。



「さぁ、今度こそ授業を始めようか。よく残ってくれたね。まず皆は、『戦術』と『戦略』の違いがわかるかな?」


 揚先生は皆に向かって問い掛ける。


 私は物語の本(マニュアル)にあった事を思い出し、実行する事にした。

 つまり、すっとまっすぐ手を伸ばし、


「はい。先生。全く区別がつきません。そもそも、それって何ですか?」


と、質問したのだ。

 物語の本(マニュアル)曰く、『分からない』又は『知らない』ことを放っておくのは良くない。自己理解の為にも、分からない事は、積極的に尋ねるべし。である。

 すると周りから失笑が漏れた。

 私は気にせず、


「全く分からないので、是非詳しく教えてください。定義とかあるんですか?」


と続け様に質問した。

 すると揚先生は、くすりと笑って、


「君は確か、トリスティーファ・ラスティン君だったね。君の言う通り、知らないことを明確にすることは重要だ。知っている人の復習にもなるので、まずはそこから説明しようか。」


とおっしゃってくれた。


 知らない事を知る事の喜びが私の中を満たした。私は、一言たりとも揚先生の言葉を聞き漏らすまいと、目を輝かすだった。




「では、『戦術』とは何か。『戦術』とは、実際に戦場に於いて兵を動かしたり、計略を練る事を言う。それに対して、『戦略』とは何かと言うと、実際に戦争になる前に、自分が有利になるようにする技術の事を言う。相手より多くの兵を集めたり、有利な地形に相手より先に陣取ったり、同盟相手に援軍を求めたりする事だね。」


 落ち着いた声で、淡々と語る先生。

 ノートを録りながら、揚先生の言葉の意味を反芻する。


「はい。質問です。」


と、手を挙げる。


「どうぞ。トリス。」


と、指名されたので、遠慮なく疑問を口にする。


「例えば、隣国と戦争にならないようにする為に行う交渉、外交なども戦略に含まれるのですか?」


 揚先生はにこりと笑って答えた。


「それは、『謀略』という、また別な分野だねぇ。」


「え、違うんですか?びっくりです。」


 そう呟いた私に、隣からレヴィちゃんが言った。


「そうですよ。トリスさん。『謀略』は、宰相とかの文官が行う、知的な駆け引きです。戦争とは別な戦場になります。私は『謀略』の方が得意ですが。」


「俺、『謀略』って大嫌い。胸糞悪いし。」


アルヴィンさんが言う。


「私も苦手ねぇ。出来なくはないけど。」


クレアさんも言った。


 そうこうしているうちに、第一回目の揚先生の授業が過ぎていくのだった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ