35、
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「ええっと、カーティスさん、私からお話しさせてくださいな。」
カーティス君の後ろから、小柄な人影が顔を覗かせる。彼女が徐にフードを外しす。
先ほどからのカーティス君とアルヴィン君のやり取りが、自分に関する事だと分かって落ち着かなくなったからだろう。
カーティス君に一礼すると、彼女は居ずまいを正した。おっとりと右頬に片手を当てて小首を傾げながら、アルヴィン君に向き直った。
「そちらの方は、アルヴィンさん、と、仰ったかしら。ごめんなさいねぇ、こんな得体の知れないお婆ちゃんを、いきなりここに連れてきて貰っちゃって。カーティスさんはね、わざわざこの右も左もわからないお婆ちゃんの相手をしてくださったんですよ。そもそもね、暫く前から私、気が付いたらここの近くの森の中に居てねぇ。自分が何者かも思い出せないし、身分が分かるものも、所持品も持っていなくてね。自分でも、怪しい奴じゃない?様子をみないと危ないかしらねって考えたのよ。何を信じていいかも分からないじゃない?だからね、何日かは、自分でどうにかこうにか自炊とかしなきゃって、頑張ってみたの。そしたらね、不思議と道具を持たない状態でもどうにか命を繋げちゃったのよ~。でも、やっぱりお婆ちゃんだからかしらねぇ。何日か人に会わないとね、人恋しくなっちゃうのよねぇ。どうしようかしら~って途方にくれてたら、カーティスさんがね、私の前に現れたのよ~。そしてね、彼、私の記憶が無いってお話を信じて下さったのよ。それでね、安全な屋根のある場所に案内してくれるって言うから、お言葉に甘えて連れてきてもらったのよ。」
怒涛の様にすらすらと語られたのは、彼女のここに辿り着くまでの状況だった。
彼女はそれをあっけらかんとさも軽い調子で、カラカラと笑いながら語ったのだ。
そして、躊躇いを見せる事無く、
「ここで、雨露を凌がせてもらってもいいかしら?」
と、可愛らしく小首を傾げて訊ねてきた。
「勿論ですよ。慣れない方の野宿は大変疲れますものね!どうぞ、ここに居て下さいな。あ、暖かい飲み物をご用意しますので、取り敢えずこのソファーに座ってくださいな。」
アルヴィン君達の回答を待たずして、私はさくっと彼女を自らが座っていた席へと案内し、お茶の準備を始めた。
カーティス君はにこにこしながら、アルヴィン君達を見ている。アルヴィン君達は、目を丸く見開きながらも動けないでいた。
なぜなら、カーティス君の連れて来た人物は、この大学で最も有名にして、普通ならば中々直接会話する機会の無い筈の、ウララ理事長だったのだから。




