【幕間:■■■の裏側】
【幕間:■■■の裏側】
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普段は静寂に包まれ、静謐な空間である筈のその場所に、音にならないほどの衝撃と共に揺らぎが起こつた。
ドサドサドサッ。
音を立てて、書架から本が落ちた。
バラバラと、綴じてあったページが散乱する。
異変に気付き、近寄る人影は、この惨状を見て、ガックリと肩を落とした。
『あちゃあ~…これ全部元に戻すの?うそでしょ?うそよね?誰か嘘だと言って、お願い。』
『嘘じゃないわよ。現実見なさい。』
『分かってるわよぅ。大姉様に見つかる前に片付けないと怒られると思うと怖かっただけだもん!それに、これは私のせいじゃないもん!』
『慌てないの。だいたい、ほとんどの本は自己修復機能があるから、交じらないように管理するのがお役目でしょう?姉様もよっぽどの事がなきゃ怒らないわよ。』
『そ、そうだよね。中姉様、ありがとう。』
そう、彼女等が話している内に、落ちた本達は、時を巻き戻すかの様に、元のカタチに戻って行く。
気を付けなければならないのは、その途中。
時々、遊びの様に賽を振るダイスの女神や、運命を紡ぐ盲目神によって、物語が変化する。
大幅に変われば、それはまた、新たな【世界】の分岐として、新たな【本】が出来上がる。
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それらはとても似ているけれど、異なる別物である。ならば、それは、新たな【世界】として編纂し、保存していかなくてはならない。
混ざったりすれば、それは【世界】が変わってしまうという事と同義である。
これは、重要な仕事である。
そして、【世界】の住人にとっては、知られてはいけない禁忌でもある。
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『まさか、認知されてはいないわよね?』
『心配なら、ちょっと何時もより念入りに修復しなさいよね。』
『え~面倒ねぇ。』
『お役目でしょ?面倒くさがらないの。』
『はーい。』
『でも、問題なんて、早々起きる?』
『…。殆ど起きないわね。そういう風に、プロテクトも掛かっているし。』
『定期的にデバッグも行ってるしね。』
『でも。まあ、注意して覗いておきましょうか。本が増える、なんてここでは些末な事だけど、不都合が起きたら対処はして貰わなくちゃいけないし。』
等と雑談を交わしながら、いそいそと本の管理を遂行する、三姉妹。
さして時間も掛からず、その場所は元通り。
小さな差違など無かったかのように、その場所は、平静な状態へと戻っていく。
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沢山の【セカイ】を管理するこの場を任された、三女神としての権能を駆使して、沢山の平行世界や、平行次元。捻れた時間すらをも一つの【世界】として纏める、そういう、存在。
それがこの場所であり、それが彼女等である。
無論、彼女等は知っている。
己らがここに居るのは、更に外よりこの場を整えている高次の存在によって任されているに過ぎない事も。
数多に存在する【世界】は、各々が独立しつつも干渉し合い、交じり合ったり、拒絶し合ったり、微妙に変化していたりする事も。
唯、彼女等が管理するのは、【世界】を為す事象が【本】という形を模して、保存されている、情報保存の場である事も。
秩序を保つのが、彼女等の役目なのだという事も。
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だが。焦る彼女等は、気付いていなかった。
全ての裏側たる虚無の主が、僅かな隙を見逃さないと言う事を。
創造主を筆頭とした管理者達の思惑を。
静かなる、彼らの攻防は、その時には既に、幾度も繰り返されていて。
遥か先への布石は、幾度も幾度も、既に打たれていると言う事を。
説明回です。
この三姉妹、出番はこれだけかも。
本筋には余り関係の無い裏方さんなので。




