31、
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その日の放課後から、私達の憩い場の探索は、アルヴィン君達に任せる事にした。
なぜならば、私には、グリーンヒル先生に出された課題があったからだ。
そもそも、このボーグワース総合大学は、バイト等による各自の収入源確保が推奨されている。
その中には、各種ギルドでのクエストを達成する事も含まれている。軍事学校が母体である以上、我々学生は、戦闘的な依頼を受ける事も普通の事として認められている。クエスト、という実践を通して、実力を磨くのもまた学びであるからだ。
危険過ぎて死なない様にしたり、力を過信し過ぎて闇に捕らわれたりしない様にする事もまた、それぞれ自己判断の下に行うべし、とされている。
中々に厳しい教訓があるのだ。
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その日、私が受けた依頼は、戦闘をサポートするアイテム係としてのポジションで。
さして難しいクエストでは無かった筈なのだ。
けれども、小さな綻びを追いかけて行く内に、事件は大きく、深く、その深刻性を増してゆき。
散らばった剣の欠片を集めるだけの簡単そうに見えたその事件は。遂には私達を、神話の中にだけあると思われていた【闇の鎖】の前へと向かわせるに至った。
何故ならば、私達が集める様に求められたその『剣』は、聖書に記されていた【アルカナ】の一柱の力を宿した〖魔剣〗であり。【アルカナ】の力でもって砕いたとされていた【闇の鎖】が既に七割も復元されつつあったから。
戦い慣れたベテランへの報告や増援を待っていられる程の時間は残されていなかった。
故に、私達は、裏で糸を引いていた魔神の招くがままに、【奈落】へと赴く事になった。
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【奈落】での戦闘は、現世への強い想いが無いと自身の魂が闇に取り込まれる程の危険が付きまとう。
刹那でも【闇】に魅入られると、神話のアルカナ達の様に、【闇】に堕ちてしまう。
【闇の鎖】に捕らわれてしまう。
ココに時間の概念は無く。
唯、濃い、神話の気配が漂っている。
私はその時、とても必死で。
パーティーを、組んでいた皆さんが、どんな戦いをしていたか、細部までは覚えていない。
唯ひたすらに、【あの日の制約】を果たそうと必死だった。
※※※※※
馬鹿か、貴様は。何度も言わせるなよ!?私はお前に面白味を感じたから、態々反りの合わないアルヴィンなんぞと行動を共にすることもあるのだ。せっかくこの未来の名軍師たるこの私『が』お前『を』観察してやっているんだ。勝手に消えるな。死のうとするな。それから、いくら消えたいと思ったとて、間違っても、『奈落』に行こうなどと考えるなよ!例え、行けたとしても、だ。其処に留まるな。必ず我々の処に戻ってこい。自分から死のうとするな。絶対だぞ。
※※※※※
そう、熱心に言ってくれたから。
『出来の悪い妹』を心配する心で、本心をぶつけてくれたから。
優しい【あの日のあの場所】へ戻ろうと、私は全ての意識を其処へと集中させ続けていた事だけ。
それだけを、覚えている。
☆
【奈落】での戦い。
それは、とても激しくて。
とても、時間がかかって。
現世とは、理の違う中でのものだった。
故に、一瞬の様な、永遠の様な、体感と現実では違う時の流れの中での出来事で。
けれども、私達は、いつ果てるとも知れない戦いの果てに、【神々の欠片を宿す者】としての使命を全うした様だった。
集まった【アルカナ】の大きな力の欠片は、一部なりといえども、意識の無い【アルカナ】様そのものの力でもあり。
神話の再現の様に、【闇の鎖】を再び砕いたのだから。
でも、現世に生きる、小さなヒトとしての私達は、ここからが大変だった。
時の流れの違う【奈落】から、正しく元の場所へ戻るのには、魂に刻まれた座標の様なもの、『絆』とも『執着』とも呼べる、強い想いが必要だったのだから。
それが生半可で曖昧なものなら、時の狭間で迷子になる可能性があるらしいのだ。
その知識が何処からもたらされたのか。
その知識をどうやって知り得たのか。
その時の私には、理解出来なかった。
認識出来なかった。
勿論、パーティーの他の誰にも。
けれど、確かに、その『確たる現世への存在』という認識こそが、正しく元の場所への帰還方法だと。それだけは、歪められる事の無い、共通の理だと。
【世界】が定めているのだと、思い返す今ならば、確信出来る。
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【闇の鎖】が砕かれる衝撃で、【奈落】から弾き飛ばされた存在は、必然的に、自我の消失の恐怖にさらされる事になる。
【奈落】とは、輪廻の輪に還れない魂が呑み込まれ、闇へと吸収される場所だと言われているのだから。
今書けてる所までだけでも投稿してみます。
中途半端なのは理解しているのですが、取り敢えず。




