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トリスの日記~私の世界の歩き方~  作者: 春生まれの秋。
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28

トリスにとって、グリーンヒル先生は、偉大な師匠です。

28、



その日のグリーンヒル先生の訓練は、珍しく座学だった。

トレーニング中心の授業が多い中、時には体の動かし方や心構えなどの講習も行って下さるのが、グリーンヒル先生の美点の一つであると、私は思う。

例えば何の説明も無く、見本を見せられて、それを真似して、淡々と身体を動かす時と比べるとしたとき。その時の成果を1としよう。そして、どの様な目的で、どうしてそうするのかという事が分かった上で身体を動かす時。その成果の差は人にも依るとは思うのだが、何の説明も無い時よりも、何倍も高いのでは無いかと私は思うのだ。

その事を実際に体験したのは、やはり、グリーンヒル先生が、度々こうしてお話をして、具体的に教えて下さるからだろう。

そして、その教えは、身体を上手に使う以上に大切な、『自分を上手に活かして、自分の人生を自分の意志で生きる』という事にも繋がっているのでは無かろうかと、後々私は何度も振り返る事になる。




「…と、いうわけで。様々な事において、大切なことは、『認識する』という事だ。どういうものであれ、自分が認識するという事。これは、大いなる武器になる。」


「どういう事ですか?」


「自分が、どの様に体を操っているのか、自分の身体の何処をどう動かしているのかを一つ一つ、意識する。例えば呼吸。息を吸う時、腹のどの筋肉を使って、どの骨を動かしているのか。その時の身体の状態はどうなっているのか。吸い込んだ酸素が、今、自分の何処を巡っているのか。息を吐く時はどうなのか。自分の身体を巡る血液の流れはどうか。意識を巡らせる事で、自身の中に巡る氣や魔力の流れを認識する。これがどれだけ大切か、今話しているだけでは分かりづらいと思う。なので、まず、いつも通りに深呼吸をしてみろ。」



「はい、先生。やってみます。」



グリーンヒル先生が、そう仰るので、体育の授業(ボーグワース総合大学は元々軍事学校なので、必修科目として存在する)で教わった様に、大きく息を吸って、ゆっくり吐く、という呼吸を繰り返してみる。


鼻から息を吸って、吐き出す。ただ、それだけ。


「そうだな。それが、何の説明も無い、形だけの呼吸だ。」


「はい、先生。」



「では、次に、身体の中の空気を口からゆっくり、七秒かけて吐き出してみろ。」



「はい、先生。」


私が言われた通り、細く、長く、息を吐き出し続けていると、先生が続けて仰った。


「トリス。お前は今、何処の筋肉を使って息を吐き出している?吐き出す為の空気は、何処からかき集めた?腹の何処に力を入れている?足の位置はどうなっている?背中は?腕は?お前の意識は、何処にある?」



息を吐ききり、自然と鼻から空気が身体に入ってくる。そうしていると、先生はまた仰った。



「空気が身体に入ってくる時の自分の身体はどうなっている?どの筋肉・どの骨・どの器官が空気を取り入れようとしている?取り込んだ空気は、どうやって身体にめぐっている?」


じっと此方を見ながら、グリーンヒル先生は、立て続けに問い掛ける。

急いでそれに応えなければと思うけれども、それよりも早く先生は言葉を重ねる。


「そういったことを意識して、あと10回そのまま深呼吸を繰り返してみろ。目を瞑って、呼吸にだけ意識を集中するんだ。」


グリーンヒル先生にそう言われてしまうと、私にはそうする以外に無い。

なので、私は、目を瞑って、ひたすら、自分の呼吸に集中する。

一つ一つ、丁寧に。集中する為に、自分の身体に意識を向けて。ただ、それだけ。

不思議と、私の意識からは雑念が消える。自分の身体の状態を俯瞰して意識している自分が見える。なのに、次第に。風の音。草木の香り。足を支える土の感触。周囲の温度。そんな自分の周りの事象がはっきりと認識出来てきた。

それだけでなく、自然に拡散して、溶けていく様な自分の意識も。その感覚は。世界と同化するような甘美な心地好さでもって、何処までも際限なく、『自分』が拡がっていくのが解った。








キィンと耳鳴りのするような静寂の中に、私が立っている。

目を瞑っているので、真っ暗である。

その暗闇の中で、暗闇の、奥底で、聞き取れない呼び声が聴こえる。







初めは、ざらついて。


【∀・コ⊂ォ・・・⌒埜ζ・・・マ…ァま♯▦・иセ・・・・カヰ∮・・・〤・・・〧∑∪∫・・・∬∉∇₣・・・♯٥٧►+・・・】






次は、決意を灯し。



〖…すまない。私は、…を、…守らなくては。〗




更には、懐古を含んで。


❬…ア…ス…にい…さん…。…ア…ス…に…いさ…ん…。❭





色んな、声が、途切れ途切れに、響く。




ぐらりと閉じた視界が歪む。

私の中で、ナニかが争っているのを感じた様な気がした。




落ち着いている筈の意識の中で、ごちゃごちゃと混ざり合い、拒絶し合う。

それら全てを受け入れ…










カッと、閃光が満ちる。


《まだ、気づいては、駄目よ。》




優しい誰かの声がして。

暗い筈のその場所が、光に包まれた。















『まるで』どころか、『確実に』。私は世界と一体化出来るのだと、自然と意識の深いところが受け入れた。その時、私の意識は、それを理解していなかったけれど。魂と、私の器は、そうだと、もっと出来ると、貪欲に肯定していた。

振り返った今の私には、それが分かる。



当時の私は、意識の暗闇の中で、遠くに何か聞こえる様な、そんな気がしたことにすら気付かずに、世界に飲み込まれそうな安堵に動揺していた。

グリーンヒル先生の仰る、自分の身体に意識を巡らせる事を実践出来ない不甲斐なさに、悔しさが募った。


悔しいけれど、先生の課題が出来ないという自分の現状を受け入れるのも、大事な修行。そう考えて、深呼吸を終える。

意外と体力を削っていたらしく、身体からは滝のような汗が滴っていた。



「…難しいです…。」



そう呟いた、私に、グリーンヒル先生は、


「それだけ出来れば、始めとしては上出来だぞ。トリス。徐々に出来れば良いんだ。現状を知る事も大事だからな。」


と、励ましてくださった。



更に座学は続き。グリーンヒル先生は、更に大切な事を教えてくださった。



「だかな。良いか、トリス。お前はお前が思っている以上に、色んな事が出来る。お前の持つイメージ以上に、自分がそれを、それ以上をやれる事を知れ。お前のイメージする事は、実現出来るからこそイメージ出来るのだ。お前は、お前が思うより、強い。戦闘でも何でも、まずは、イメージする事が大切だ。そのイメージを越える為に、自分を自分の意志で使う事を意識しろ。鍛練しろ。反復し、鍛え上げ、イメージのその先を、掴み取れ。それが、活きると言うことだ。」



「はい、先生!」



その後、様々な戦闘技術や、鍛練方法を授けて頂く訳だが、この時の座学もまた、私の人生において軸となる教えの一つとなった。



本当に、私は、良いお師匠様に恵まれたのである。





長雨が続きますね。気圧変化による体調不良が続きます。

元気になったと思ったら、直ぐに微熱に魘されます。

精神面もぼろぼろです。



早く元気になりたい。


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