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トリスの日記~私の世界の歩き方~  作者: 春生まれの秋。
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すみませんm(_ _)m

大分遅くなりました。

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結局、多少の罠はあったけれども、私達は、全く苦もなく禁書庫に入れてしまった。

そう、()()()()()()()のである。


禁書庫の中身は、素晴らしいモノで溢れかえっていた。

『禁書庫』とは言うものの、入ってみたこの部屋は、総合大学の教授が存分に研究するに値する様々な貴重品や研究資料、学術的に価値の高い物、学生に触れさせるには危険な可能性のある品々等が、外部に出ない様に保管してある持ち出し禁止の『資料庫』としての側面もあるらしい。

そこかしこに、魅力溢れる不可思議な品々に溢れかえっている。



そんな場所に、私達は、()()()()()()()のである。重ねて言ってしまうくらいに、この事態は、由々しき問題なのだ。



そもそも、このボーグワース総合大学は、各国の軍部に有能な将官候補生を送り出す事を創設理念に持つ教育機関である。

紆余曲折あって、今(西方歴1072年現在)は、軍部だけでなく、各国の様々な機関に、即戦力として送り出せる有能な人間を育てる為の教育機関として、その立場を確立させている。

よって、講師の先生方は、何かしらに名を馳せた一廉(ひとかど)の人物達である事は間違いない。




その先生方が、私達のこの行動に何の反応もしてこないのである。


私は、不安を感じた。


「ねぇ、皆さん、こんなに簡単にこの部屋に入れてしまって、大丈夫でしょうか?」


言い出しっぺのアルヴィン君の裾をクンクンと引っ張って、恐る恐る声をかけた。


「ん?問題無ぇだろ?そこは、俺の罠解除の腕が良かったからだって。」


「トリスは心配性だなぁ。平気だよ。ボクの知覚にも引っ掛かるモノは無かったし。」


「まあ、今は気にしても仕方あるまい。目の前の資料を漁ることの方が先決だ。」


「トリスさん、そんなに気にしてたら、時間が足りなくなっちゃいますわよ?先生方が気付かない今のうちに、自分の興味対象だけでも調べてはいかがかしら?」


私の不安に対して、皆は各々私を諭す言葉をかけながらも、いそいそと自分の目的のモノを物色していた。それはもう、生き生きと。


「うう~ん…いいのかしら…?」


先生方が直ぐに反応しないという異常事態に対しての私の不安は、彼らには、ルール違反を犯して怒られる事に対する不安、と受け取られているようだった。確かに、そちらの不安もあった事は事実だったので、私も、気になる品物を確認する事にした。




色々、私の気になる分野は広いのだが、如何せん、時間が足りない。だから、後で皆の集めた情報も教えて貰う約束をして、せっかくなので、調査対象を一つに絞る事にした。

それは、『意思を持つ武具』である。一般的に、魔剣と呼ばれたりする、魔力を帯びた武器…。(意思を持つ防具もあるが。)

私なりの調べ方は簡単。話しかけてみるのだ。人と話すのと、同じ様に。

話し掛ける対象は、これは経験によって培ってきた勘によるところが大きいのだが、何となく、気配を消して此方を伺う何者かの意思を感じた物品に対して、である。


この部屋には、存外沢山のそう言った品物が在りそうだった。


そこで、私は、感覚を研ぎ澄ませ、一番大物そうな一品を探る事にした。

どうせなら、経験豊富な大物と対峙して、見識を深めたいでしょう?


そうして、見つけたのは、部屋の隅に立て掛けられた沢山の剣の山。その中でも、一番見つけられたくなさそうな雰囲気を醸し出している地味な一振の剣である。


私は、恭しくそっとその剣を手に取り、両手で大事に持ち上げた。神に捧げる様に、胸の上まで掲げ上げ、片膝を付いて、剣に頭を下げる。


(おもむろ)に顔を上げると、御簾ぼらしそうだったその剣の存在感が増していた。

どうやら、当たりだった様だ。


その事に気を良くして、剣に声を掛けてみる。



「はじめまして。私はトリスティーファ・ラスティンと申します。この剣に宿りしお方、どうぞ、私に、あなた様と話す栄誉を賜れませんか?」



丁寧に、丁寧に。最大限に礼儀を払って話し掛ける、


すると、


「お嬢さん、『契約』、でなくて構わないのかね?」


と、試すような、からかうような、楽しそうな声が、剣から反ってきた。


「剣さん、私は、あなたの銘を存じませんし、この場所は、大学の管理する禁書庫の中です。当然、目録にあなたの存在は記されていると思います。其処から勝手にあなた様を持ち出してしまうと、学生としては大変問題になると思うのです。実は、此所に居るのも、内緒で忍び込んでの事ですし。」



「ハッハッハ。面白い事を言うお嬢さんだなぁ。では、何故、私を君は選んだのかね?」



「はい。この部屋の中で、一番物知りそうな方だったので、お話ししてみたかったのです。」



「態々、擬態までして隠れていた私を、見つけ出してまでかね?」


「はい。多分、中々入れないであろう貴重な場所で、此方を気にしながらも自らを隠すその行いが、既に何かしらの『事情』や『来歴』を持ったお方ではないかと思いましたので。」


「うむ。本当に面白いお嬢さんだね。気に入ったよ。確かに私にはある種の事情がありはするが…。それよりも、お嬢さんには既に、素晴らしい先人を相棒としているね。その剣が何かは、もう知っているかい?」


「ええ。私の持つこの剣は、『名も無き(ナーズィル)王の剣(イェーガー)』だと、信用のおける専門家(妹のサラ)に聞いています。」


「そうだよ。銘はそれで合っている。だが、大事になのは、剣その物よりも、鞘を大事にしろ、という事かな。」


「鞘、ですか?」


「そう。鞘。君がその剣に選ばれたのは必然。だから、必然の、その奥にある、大事な事を伝えよう。君が危機に瀕した時、一度だけ、主を助ける鞘だからね。」



「え?それは、どういう…?」



「おっと。話しすぎてしまったな。そろそろ私の活動限界も近い。」



「待ってください、最後にひとつだけ教えて下さい。あなた様は、『何』ですか?」



「私かい?私は、()を守護していたモノ達の成れの果て(一振)さ。だからこそ、君が気になるんだろうね。今回は縁が続かない様だが、また何処かで会えるのかも、知れないね。では、運命神(ヤァン)の織り成す糸の先が、良きモノであることを祈っているよ。(我が、古の主君殿)」



次第に遠くなる声が途切れると共に、すっと、剣に宿っていた意識が沈黙するのを感じた。

この剣は、わざわざ私と会話するためだけに、無理矢理意識を起こしてくれていたらしい。


銘は分からなかったけれど、名剣である事は確かなこの剣が、あまり人目につきたく無さそうだったので、私は、彼をもとあった場所に戻しておくことにした。




私が振り向くと、他の皆も各々に調べたい事、知りたい事を満たし終えた様だった。


「お、そっちも終わったか?」


アルヴィン君が、此方に気付いて声を掛けてくれた。


「ええ。素晴らしい品々が沢山あって、何時までもいられそうな場所ですね。」


ほぅ。とため息が漏れる。


「な、忍び込んで良かったろ?」


ニシシと笑うアルヴィン君。


「悔しいですが、そうですね。」



「だろだろ?こういうご褒美の為に、スリルはあるんだぜ!」


「私の見たところ、アルヴィン君の場合、スリルの方がご褒美みたいだけどね。」


「クレア、それは…合ってる♪」


「お前なぁ…。」



「楽しそうに会話してるとこ悪いんだけど、そろそろタイムアップみたいだよ。急いで脱出しないと、先生達に見つかっちゃうかも。」



「それは不味いな。急いで出ようぜ。何、帰りも任せろ!ぜってぇ見つからねぇで帰らせるからよ!」




程無くして、私達は、先生方の誰一人にも出会う事無く、食堂に戻って来た。

皆で、ワイワイと、今回の事を振り返りながら、晩御飯を食べる。


『禁書庫に無断侵入する』という冒険の高揚感(ドキドキ)

『無事に帰ってくる』とう冒険の安心感。

更に、皆で楽しく食べる夕食。


そういった沢山の『初めての感情』で、私の心は忙しかった。

ヒトと関わる楽しさも、毎回初めての発見が沢山あって。


とても沢山の経験を処理するうちに、私は、最初に感じていた違和感が何だったのか、分からなくなっていた。











予約投稿分が終わりました。

次回以降は不定期です。


何かしらは毎週上げれたらいいな。と、考えています。

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