21、
時期外れですが。
21、
☆
閑話.バレンタインデー
私、トリスティーファ・ラスティンは、割りと季節のイベントを楽しむ方である。
何故なら、参考にしている物語の本(マニュアル)では、それぞれが、各種イベントの過ごし方を示唆していたからだ。
私だって、元服した女の子である。
そんな楽しそうなイベントは、是非、友人達と楽しみたい。友人以外に話しかける勇気は無いので、まずは、身近な人で慣れるべきである。
そんな訳で、2月に入り、私は、どきどきしていた。
生まれて初めて、家族以外と過ごすバレンタインデーが、すぐそこまで来ているのだから。
バレンタインデーといえば、諸説あるが、
・女性が好きな異性にチョコレートを渡して告白する日。
・女性に限らず、異性にプレゼントを渡して愛を伝える日。
・上記に加えて、親しい人にチョコレート等を渡し、親睦を深める日。
…等がある。
他にもあるのかも知れないが、どういったモノが大学で流行っているかは、私には推測不可能だ。なので、身近な人たちにリサーチして廻ることにした。
私は、まず、レヴィちゃん、クレアさん、リースさんに話を聞いてみた。
以前の女子会の時の様な反応が返ってきた。
レヴィちゃんは、
「楊先生にチョコレートボンボンをあげますわ。ウィスキーがお好みみたいですので♪」
と回答を貰えた。
(なるほど、相手の好みに合わせるのですね。)
リースさんからは、
「アルヴィン君にいたずら込みのスパイス入りチョコレートを渡そうかと思っているよ。トリスにならアルヴィン君を渡してあげてもいいと思っているけどね。」
と回答を貰えた。その瞳は、挑戦的で、情熱を秘めた様な色を讃えていた。
私は、どきりとした。
クレアさんからは
「アリ君は駄目だわ。アタックしてみたけど、モーションかけても気づきもしなかったわ。だから、渡すなら皆に友チョコね。」
私は、またも、どきりとした。
どきどきがしすぎて、自分の気持ちが分からなくなってしまった。
私にとって、アルヴィン君もアリ君も、大事な位置にいる、年上の異性。声をかけられると嬉しくて、構って欲しくなる、気にかけて欲しいと自然に思う相手だ。
先生方に気にしてもらうのとも、ちょっと違う感じで、気になるのである。
なので、リースさんとクレアさんの回答を聞いて、どきどきが高まり、顔が真っ赤になり、言葉が出なくなったのだった。
私は、二人をどう想っているのだろうか?
分からなくなって、グリーンヒル先生のところに向かう。
「先生、気になる相手が二人同時に存在する事ってあるんですか?」
率直に聞いてみた。
「あるぞ。そういう時は、片方を潰して憂いを断ち、もう片方にあたるんだ。難しく考えず、一人ずつ相手をすると良いぞ。」
…。グリーンヒル先生は、戦闘的な面での回答をくれた。
私は人間関係も同じかな、と解釈して、納得することにした。
お世話になっている皆に、お礼がしたいとの気持ちを優先して、エクセター産のカカオからチョコを作る。
本命なのか、義理なのか、友チョコなのか、はっきり分からないけれど、感謝だけは本物の気持ちだ。
だったら、迷わず渡そう。
そう吹っ切って、一生懸命作ったチョコレートは、なかなか美味しく出来上がったと思う。お店で売っても遜色無い仕上がりになった。
そのチョコレートをキャンディー状に包んで、籠一杯にした。
明日はいよいよ、バレンタインデー当日。
気持ちを込めて渡そうと思う。
「グリーンヒル先生、いつもありがとうございます♪どうぞ。」
にこやかな笑顔で、チョコレートの包みを渡す。
「ロイド兄弟子にも、渡してくださいね♪では、失礼します。」
「ジョン先生、いつもありがとうございます♪感謝の気持ちです♪」
弾む声で、ジョン先生にも渡す。
さあ、気を引き締めて、最後の大一番。
コンコンコン。
ドアをノックする。
「どうぞ。」
楊先生の声がする。
いつも通りを心掛け、扉を開ける。
「失礼します。先ずは楊先生。いつもありがとうございます。一生懸命作ったチョコレートです。感謝を込めて作りました。どうぞ♪」
と言って、手渡す。楊先生は、
「ありがとう。」
と受け取ってくれた。
くるりと振り向き、
「年の順に、次はアリ君ですね♪お兄ちゃん1号です(笑)いつもありがとうございます。どうぞ♪」
アリ君に渡す。
アリ君は、一瞬、目を見開き、面食らったと言うように受け取った。
「あ、あぁ。ありがとう。」
そのまま勢いを殺さず、アルヴィン君に向き合う。
アルヴィン君は、
「もしかして、俺にもあるのか?」
と聞いてきたので、
「もちろんです♪お兄ちゃん2号(笑)どうぞ。」
笑顔でぽんっと掌に乗せる。
「ひゃっほい♪ありがとな、トリス♪」
そう言うや否や、彼は包みを開け、ぽいと口の中にチョコレートを放り込んだ。
「ボクからもあるんだよアルヴィン君♪」
にこやかにリースさんも、一口大のチョコレートをアルヴィン君に渡す。
「りーふもあひはほう。モゴモゴ。ゴクン。」
立て続けに、アルヴィン君は、ぱくりとリースさんのチョコレートを口に入れた。
「ぎぃやぁぁぁあ」
甘いチョコレートのあとには、リースさんのチョコレートは、ちょっと辛すぎたみたいだ。
そんなやり取りを見て、思った。
リースさんとアルヴィン君は、お似合いだな、と。
そこには、ちくりとした、何だか苦くて切ない、どろりとした感情を感じたのだった。




