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人伝に語られる伝承。それは、語り継がれる内に、細部が変化していく。
我が家に伝わる古い文献での記録から、私達は、アイルハルト王が持つ『所有者を自ら選ぶ剣』が二振りあると知っている。
だが、年代が下がるにつれて、彼が持つ剣は、『岩に刺さっていた剣』の名だけが有名になり、愛の証であった方の剣は、次第に世間から忘れられていった。もしくは、『岩に刺さっていた剣』と同一とみなされる事となっていった。
私が手にした剣は、『名も無き王の剣』と云われる、忘れられた方の剣だ。
今回、妹と話した結果浮かんできた事実は、『アイルハルト王の魂を見極めて主とする剣』であるこの剣が、『私を選んだ』という事。
其処から判る当然の事実として、『トリスティーファ・ラスティンの魂はアイルハルト王の転生体』だと云う事が確定する。
妖精女王の不思議な力により、この剣はアイルハルト王の生まれ変わりを使い手に選ぶのだから。
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「サラ、ありがとう。私、凄い剣に選ばれてしまったみたいね。」
伝説をその身に宿してしまった事実に、私は少し動揺を感じた。
大した存在でもない『私』が、そんな伝説級の存在だなんて信じられなくて。己の根幹たる魂が偉大過ぎて、『私』という自我が押し潰されそうで。とても、とても。私は怖かったのだ。
しかし、私とは別のベクトルでヒトに興味の無い妹は、私よりも余程ヒトの心情には敏感で。
「大丈夫ですよ、姉様。トリス姉様は、この剣に魅了されたり、前の使い手に押し潰されたりはしませんよ。だって、姉様。姉様は、『姉様の生』を歩んでいらっしゃるもの。大丈夫ですわ。」
と、ニッコリと微笑んでくれた。
「それに、この剣、悪い性根はしておりませんもの。きっと、姉様のお力になりたいとお思いになったから、姉様の元にお力添えに来てくださったのですわ。我が家の家訓にも、ございますでしょう?『真に素晴らしい武器や防具は、武器自身を最大限に生かし、補い合える使い手の元に最適なタイミングで出現れ、使い手と共に成長し、支え合っていくものである』、と。ねえ、トリス姉様。姉様はご自分を信じられないかも知れませんが、ご自分の前に現れてくれた武器は、信じられるのでは無いですか?」
妹の柔らかな気遣いに、私はガチガチだった体の強張りが緩んでいくのを感じた。
「ええ、そうね。サラの言う通りね。私、この剣と一緒に、これから待ち受ける難題に立ち向かって行こうと思うわ。」
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そんなやり取りをして、私は自分の由来を知った。
父からは、この身が生人形を使った人工生命体である事を。
妹からは、この魂が、アイルハルト王の転生体である事を。
普通とは大分違う事情がある事を踏まえて、これから、生きていくのだ。
何処からともなく沸き上がる『消えたい』という消滅願望と戦いながら。




