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トリスの日記~私の世界の歩き方~  作者: 春生まれの秋。
10/37

10、

この回は、長いです。

短い時もあります。

安定?

多分、無理かな(゜-゜)(。_。)

10、

☆トリスの実家に行こう




ケホッケホッ。


 頭がぼ~っとして、ふらふらする。

 グリーンヒル先生に相談してみた。

 先生によると、どうやら私、トリスは、大学での慣れない他人(大勢)との共同生活で、心身共に疲れ果てている状態らしい。

 生気を養う為にも、2週間の自宅療養が必要なのだそうだ。

 そんな訳で、私は急遽、母の手により、自宅まで搬送された。


 相変わらず、お母様の相棒(機構馬・セキト号)は素晴らしいスピードだった。

 馬車で2日の距離を5時間で移動してしまうのだもの。

 それはそうと、頭が痛くてしんどい。

 屋敷まで持つかしら、と考えているうちに、私の意識は遠退いていくのだった。





 トリスが体調不良で自宅療養の為に、大学から姿を消した後。




 大学では…。



「おめぇがそんな事言うからいけねぇんだろッ」


と、アルヴィン君。


「あら、アルヴィン君こそ、悪いんじゃありませんの?」


と、レヴィちゃん。


「はっ。馬鹿か、貴様らはッ。」


と、アリ君。


「君達にはついていけないよぉ。」


と、リースさん。


「ちょっと揉めるのはやめましょうよ。」


と、クレアさん。


 こんな感じで、連携はバラバラ、雰囲気は険悪になっていた。

 そんな状態を改善すべく、彼等は話し合った。

 そして、ある一つの結論にたどり着いた。

 それは、則ち、「トリスが居ないから自分達はまとまりが無いのだ。何故なら、自分達は、彼女の行動に注目して集まった集団だから。」という事である。


 そこで、彼等は決めた。

 彼女のお見舞いに出向く事を。




 トリスが自宅療養に入って一週間後。彼女の実家の扉を鳴らす一団が居た。


カツンカツン、カツンカツン。


 剣と盾のレリーフが意匠されたドアノッカーを叩く音が響く。


 ノックしているのは、勿論、アルヴィン君、レヴィちゃん、アリ君、リースさん、クレアさんである。


ギギィ~ッ


 重そうな扉が開き、中から執事服の男性が出てきた。


「いらっしゃっいませ 。どちら様でいらっしゃいますかな?」


 丁寧に応対したのは、執事のヨゼフだ。




「こんにちは。私達は、トリスティーファ・ラスティンさんの友人です。私はレヴィア・ターニッツ。右から順に、アルヴィン君、アリ君、リースさん、クレアさんになります。本日は、トリスさんのお見舞いに参りました。」


 レヴィちゃんが丁寧に挨拶する。


「トリスお嬢様の御学友の方々でしたか。ようこそ、ラスティン家へ。まずはこちらへどうぞ。」


 そう言ってヨゼフが案内したのは、応接室だった。





 応接室で待ち構えていたのは、趣味の良いドレスを身に纏った、輝く金髪の、上品な立ち居振る舞いの淑女だった。



「ようこそおいでくださいました。残念ながら、今現在ラスティン家当主である父と、その妻である母が、共に出かけておりますの。そこで、おもてなしさせて頂きますのは、わたくし、エリスティーファ・ラスティンですわ。あなたたち、トリスちゃんのお友達ね。どうぞよろしく。」


 トリスをもう少し年上にしたらこんな風になるんじゃないか、と思わせる姿。間違いなく彼女の血縁である。

 彼女は、皆を座らせると、ヨゼフにお茶の用意をさせた。


「まずは、トリスちゃんのお部屋に案内していいか判断するためにも、トリスちゃんの大学での様子何かを教えてくれると嬉しいんだけど…。」


 そう言って、彼女はそれから1時間近く、レヴィ達の話に耳を傾けるのだった。





「うふふふふ。トリスちゃんってば、楽しいお友達が出来たのねぇ。おねぇちゃん、嬉しいわぁ。みんな、あの子と仲良くしてくれてありがとうねぇ。じゃあ、あの子の部屋に案内しましょうか。」


 散々大学での妹の様子を聞くと、嬉しそうにエリスはそう言って、レヴィ達を館の奥へと案内した。

 館の中には、あちこちに、一目で貴重だと分かる武器や防具が飾られている。

 このラスティン家には、玄関ホールには型式が同じで、色違いの一対鎧が、応接室には立派なグレートソードとバトルアックスがクロスして架けられており、廊下の両側にも、手入れの行き届いた、無数の武器や防具が、まるで絵画を飾る感覚で飾られているのだ。

 勿論、コレはコレクションの一部である。



 そうして2階の角を曲がり、幾つかの廊下を進んだ先に、赤い首輪をした黒猫のレリーフがある部屋があった。ここがトリスの部屋らしい。


コンコンコン。


 エリスが扉をノックし、


「トリスちゃん、大学のお友達がいらっしゃったわよ。入るわね。」


と声をかけた。

 そして、トリスの返事を待たずに扉を開けた。





 バサバサと翻るカーテン。

 開け放たれた窓。

 そして、無人の部屋。


「エリスさん、あの、すみません。トリスさん、いらっしゃらないみたいですが…。」


レヴィが尋ねる。


「あらあら?何処に行ったのかしら?」


エリスも困惑顔である。


「え?トリスが行方不明なのか?」


アルヴィン君が呟くと、すぐにアリ君が反応した。


「む、それは調査せねばなるまい。エリスさん、我々にトリスの行方を追わせては頂けまいか?」


「友達のピンチなんだろ?俺らに任せてくれよ。」


 アルヴィン君が言い募ると、とうとう折れた様にエリスは言った。


「そう?そうしてくれるのは、助かるわねぇ。お願いできるかしら?」



「「「「「「はい、勿論です。」」」」」



 こうして、長話で暇を持て余していた悪友5人による、トリス探索が始まるのだった。





「まずは部屋の調査から、だな。」


 アリ君が言うと、皆、それぞれに部屋を漁りはじめようとした。






 だが、しかし。





 余りにも明らかに、窓からシーツで作った紐が垂れている。更に、他を調べる迄もなく、窓の下に点々と足跡がある。


「おい、アリ。調べるまでもなく、あいつ自分で、窓から外に出てねぇか?この布の結び方、それに壁の足跡、一度や二度のもんじゃなさそうに見えるゼ?」


アルヴィン君が言うと、


「うん。窓辺の摩擦も、年季が入っているよ。」


リースさんも肯定した。


「うふふふふ。気づきました?トリスちゃん、また森に行ったのねぇ。」


 やれやれ、という風にエリスは苦笑している。


「あの子、昔から人が苦手でねぇ。家庭教師の授業が終わるとすぐにこうして屋敷を抜け出してたのよ。そしてそのまま、森で気が済むまで過ごして戻って来るんだけど。今回はちょっと長いわねぇ。悪いんだけど、お迎えに行ってくれないかしら。勿論、今夜の夕食と寝床、それから帰りの馬車はこちらで用意しますわ。」



「せっかく会いに来たのに、会えないのは残念ですものねぇ。」


「仕方ないな。」


「飯つきなのかっ。」


「馬車代まで浮くのは嬉しいですわね。」


「どういう所にいるのか、気になるしね。」


と、いうわけで、五人はトリスを追って、裏庭から伸びる森へと入って行くのだった。






 一方、その頃。


トリスはというと…。


 森の最奥にある、古びた洋館の入口にいた。トリスは、キィ~ッと扉を開けて、中へ踏み込んだ。

 玄関ホールに入ると、2階へと続く階段の奥から男の声が響いた。


「ふははははははっ。よく来たな。トリスティーファ・ラスティン。貴様の命、貰ったー。」


 シャンデリアの上からドスンという音と共に、漆黒のフルプレート姿の人物が降ってきた。

 トリスは、ぶつからない様にさっと半歩後ろに下がって、


「…。何してますの?お父様。」


と、声をかけた。


「いたたたた…。ちょっと待ってね。」


 痛がる男。


 律儀に待つトリス。




 3分後。



「で、どうしましたの?」


「いや、新しい甲冑が手に入ったからね、こういう登場をしたら、カッコイイかなって思ってね。こほん。まぁ、それはおいて置こう。私はお前の父などではない。」


 バサリとマントを翻して、男は言った。


「ほう。では、どなただと言うのです。そんな事をするのは、私の父以外におりませんわ。」



「ええいっ。私は謎の男だっ。私の正体が知りたくば、力ずくで聞くのだな。」



「ばればれですわよ。お父様。」



「とっ、とにかく、戦って私に勝てばよいのだっ」


 そういうと、漆黒のフルプレート男は、トリスに切り掛かって来たのだった。



 漆黒の甲冑を纏った男を相手に、私はグリーンヒル先生の教えを思い出した。


『いいか、トリス。いくらダメージが強くても、当たらなければ、そもそも話にならん。だから、先ずは相手の隙を突いて当てる事を考えるんだ。』


 私は、教えられた通り、基本に忠実に相手の隙を探る為の剣を繰り出した。

 一合、二合と、剣を交える。


 そうして、どれくらい打ち合っただろうか。


 見えた!


 私は、


 キィン!


と、男の剣を弾き飛ばした。

 そして、男が飛ばされた剣に気をとられている間に、私は男の首筋、兜の繋ぎ目に自分の剣を突き付けた。


「はぁはぁッ。勝負、ありましたね。用件をおっしゃってくださいな、お父様?」



「トリス…。もうちょっと『情緒』とか『お約束』ってものをだね…。『ここまでよ!貴方は誰なの!?』くらい付き合ってくれたっていいだろうに…。」


 ボソボソと抗議の声を上げながら、しょんぼりする男。というかお父様。仕方がないので、付き合ってあげた。



「仕方無いですわね、お父様…では、仕切り直して。」


 私はもう一度気合いを入れて問いかけ直した。


「さぁ、私の勝ちです。正体を顕しなさい!貴方は誰なのですか!?」


「フハハハハハハ。よくぞここまで成長したな、トリス。私は、お前の父だ。」


 そう言って兜を脱ぐ男。中からは、やっぱりお父様のお顔が出てきた。


(知ってましたわ。)



心の中で呟く。


「…どうして、この様な仕打ちをなさるのですか?お父様…。」


 お父様は、ごそごそと懐から紙を取り出した。そして、私と紙を交互に見ながら、話始めた。


「トリス。強くなったな。試す様な事をして済まなかった。私は、これからお前に、衝撃的な事を伝えなければならない。その話に耐えられるか、心配だったのだ。」



 そうして、お父様に告げられたのは。


「トリス。心して聞きなさい。お前の家族は私達だし、お前に注ぐ愛情は、間違いなく本物だと、信じておくれ。これは、まごうことなき真実だからな。本気でお前は、我々ラスティン家の一員で、私の大切な家族で、愛する娘だからな。」


 お父様はくどいくらい重ねて、そして語り始めた。





 トリスティーファ・ラスティンが3歳の頃、何者かに拐われた事。

 彼女は自分で脱出した事。

 けれども、家族の目の前に着く寸前で、不幸にも、通り掛かった馬車に轢かれた事。

 両親が駆け付けた時には、心臓は既に止まり、死亡が確認された事。

 その躰は、まだ生きているかの様に、暖かかった事。




「…だけどな、トリス。私は、いや、私達は、お前を、大事な娘を喪いたくなかった。だから、私達の持てる技術を結集させた。そのかいあって、何とか躯の生命活動を維持させる事が出来た。だが、私達夫婦に出来たのは、そこまででな。悔しかった。」



 心底悔しそうに、お父様は顔を歪めた。だが、それも一瞬だった。パッと明るい笑顔になり、お父様は続けた。


「幸運にも、親切な旅の方が通りかかってな。手助けしてくださったんだ。そうして、お前の躯は人工生命体(クレアータ)のものになり、…魂も定着した。目覚めるのに、2年を要しはしたがね。」


 ふぅ、と息を吐いて、お父様は言った。


「私達は、嬉しかった。お前がまた、生きて目の前にいてくれて。それは、今でも変わらない。お前は、私達夫婦の、大事な娘だ。私達家族の、大事な一員だ。忘れないでおくれ。」


 私は、茫然とした。


「お父様、それでは、この躯は…。」




「私の娘のモノを使った、ホムンクルス型の機械生命体(クレアータ)だ。」


「では、この心は…。」


「トリス。トリスはトリスだよ。その心は、お前のモノだ。私達夫婦は…どんな形であれ、娘に生きていて欲しかったのだよ。」



 お父様は、私を抱き締めると、


「愛しているよ、トリス。お前は大事な私達の娘だ。それを、忘れないでおくれ。さあ、私は先に館に戻っておこう。ちゃんと帰って来るんだよ。」


と言って、家へと帰って行った。



 再び、私は愕然とした。


 生人形を使ったクレアータへの魂の定着は、この世界の科学技術…技術者の神の御使い(アルカナ)である発明人(デクストラ)がもたらしたと謂われる『デクストラ技術』…や魔法使いの神の御使い(アルカナ)魔術師(アクシス)が使っていたとされる、今は失われし魔法体系である…『秘技魔法』の粋を集めた、最高峰の技能。謂わば神代の時代の『伝説』でしか成し得なかった失伝の技法である。

 と、同時に、私の魂は、本来の『トリスティーファ・ラスティン』のものとは別の『モノ』である、と言う事でもある。

 何故ならば、死体に魂を定着させる事は不可能であり、出来たとすれば、神話に残る、『神の器』だけなのである。

 だから、気付いてしまった。

 『私』は、本来の『トリスティーファ・ラスティン』を乗っ取って生きている、『略奪者』なのだ、と。








 アルヴィン君を先頭に、トリスの足跡を辿っていく一行。

 窓から外へ、シーツを伝って裏庭に着地。その後、手入れの行き届いた裏庭を抜け、鬱蒼と繁る獣道の方へ。そのまま奥へと進むと、深い森に入っていく。

 途中、熊と戦い、撃退したり、キツイ岩場を抜け、蔦で出来た橋を渡り。

 ここはホントに裏庭なのか、と、一同が思い始めた頃、水音と、人のいる気配が漂ってきた。


ぱしゃん。


ぴちょん。


 サラサラと流れる川音に不規則に混じる滴の音。


「おぉい。誰かいるのかぁ?」


 アルヴィン君が声をかけながらガサガサと藪を抜けようとする。


ザバッ。


 そこには、


 思いっ切り川に顔を浸けたトリスがいた。



ぷは。


 プルプルと顔をあげ、トリスは、アルヴィン君達の方を見た。


 ニコッと笑い、


「おや?こんな所で何をしているのですか、皆さん?」


と、元気に聞いてきた。


「いやな、グリーンヒル先生の話でな、お前が弱ってるっていうから、見舞いに来たんだよ。そしたら部屋に居ないってんで、探しに来たんだ。」



「何だか、すごく生き生きしてますわね。グリーンヒル先生の嘘でしたの?」



「うん?確かに弱ってたよ?大学は人が多くてキツイから、自然が恋しかったんだよ~」



「その結果があの窓からの脱走なのか!?お前、貴族で、深窓の令嬢、だよな!?」



「はい。そうですね。そう言われているらしいです。それはそうと、此処まで来るの、大変だったデショ。楽な近道教えますから、屋敷に帰りましょうよ。」


 ニコニコしながら、友人たちに背を向けて歩き出すトリス。


 ふと、思い出したように、


「お見舞い、わざわざ来てくれて、ありがとうございます。」


と呟いた。

 その耳は、後ろから見ても分かるくらい、真っ赤に染まっていたのだった。







おまけ。




 ラスティン家の夕食は、貴族にしては変わっている。屋敷の者全員で食卓を囲むのだ。そこには、使用人と雇い主や、身分の上下は無い。

 勿論、お客様がいても、それは変わらない。

 トリスは、我が家流で申し訳ないと、しきりに謝っていたが、レヴィ達は気にしなかった。

 むしろ、トリスの身分に対する頓着の無さは此処からくるのか、と納得する思いだった。



 そんな夕食も済み、各自湯浴みもし終えて、もう寝るだけになったころ。

 お客様は、男女それぞれに、一部屋ずつ、二部屋を宛がわれる事になった。

 トリスは、一人だけ除け者は寂しいから、と、女子部屋(皆のところ)で寝る事にした。



「今回は、お見舞いに来てくれて、ありがとうございますね。ふふふ。私、皆さんとこうしてお話出来て嬉しいです。」


 枕に頭を埋めながら、足をバタバタさせてトリスは言う。


「いいんですよぉ。トリスさんだって、私達の内の誰かが病気とかになったら、お見舞い、するでしょ?」


「そうそう。」


「当然でしょう?」


「それは、そうなんですけど、やっぱり、嬉しいものは嬉しいです。だから、ありがとうございます。」


「改まって、変な子ねぇ。そんなだから、お子ちゃまなのよ。」


「むぅ。クレアさん、お子ちゃまじゃないってどういう事を言うんですか?」


「それはボクも気になるな。」


「私も、気になりますわね。」


「それはね…。」


 クレアさんによって、色恋のイロハを説明される一同。


 その内容は、トリスには刺激が強すぎた。お蔭で、悩み事とは別の意味で、眠れない夜を過ごす事になったのだった。









ターニングポイントの一つ、な話。

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