アウティング。
ひどいな。
まず。そう感じた。
ってなんだよこいつら。そんなもんおおっぴらに話す必要がどこにあるっていうんだよ?
本人のいないところでこんな事。
そんなもん。宮本は実は女子だったのでこれから女子として通います、だけでいいじゃないか。
連休最後の日。クラスの緊急集会があるので夕方学校に集まる様にって連絡が来た。
登校してみると。
宮本が居ない。
まあ他にも登校していない生徒が居なかったわけじゃないけれど、それでもこの今日の集会にわざと悠希だけ呼ばなかったんだなって、すぐにわかった。
マイノリティだかトランスジェンダーだか性同一性障害だかしらないけど、そんなのこんなところでクラスの全員に話す事か?
まあ、ただ、周りの反応をみると……。
知らなかったのは俺ぐらいなものなのだろう。皆当たり前のように教師の話を聞いている。
宮本が明日から女生徒として通うことになった事。学校としては宮本を女子として扱う事。
決して差別したり虐めたりしない事。マイノリティだからとバカにしない事。
そして。問題を起こさないように。と。
そんな注意事項が述べられた。
って、そうなのか? こういうのが差別っていうんじゃないのか? 学校は問題が起きるのを恐れて、本人を腫れ物のように扱いたいだけじゃないのか?
理屈ではわからないわけじゃない。知っていた方が同情を買い易く問題が起きにくいだろう事も。
でも。
嫌だ。
悠希が男として生まれたとかそういう事が今更ショックだったわけじゃない。
俺だってバカじゃない。何か事情があったんだろうって、それくらいはわかったさ。
だけどだよ? こんな大勢の前で発表する事じゃないだろう?
悠希がどう感じるか、だって、想像がつく。
自分の知らないところでこんな話をされてるってわかったら……。
言えない。絶対に言えない!
「ごめんね坂本くん」
みんなが帰った後、なんとなく教室に一人残っていたら真綾さんにそう声をかけられた。
「え? 何? 西荻さん?」
真綾さんに謝られる事なんて、何もないはず?
「なんか凄く怒った顔してるからさ。ショックだった? 宮本君の事」
「ああ、いや、ショックとかそういうのじゃないよ。ただ、あの教師らの言い方にちょっと腹が立っただけ、かな」
「うん。あたしたちには前にも同じような話があったからさ。アウティング、っていうんだっけ? ちょっと無いよね? ああいうのは。先生達は問題を起こしたく無い一心なんだとは思うけど、だからってみんなにバラしてまわるのは良くないと思うよ」
ああ。そういうことなのか。
だから……。
「宮本君がかわいそうでさ……。みんな、どう接して良いかわかんなくなっちゃったんだよね」
それがあの、微妙な距離感を産んでたのか……。
「それにね。あの容姿でしょう?
好きになっちゃうのが怖い
好きな人を取られちゃいそうで怖い
あの魔性の魅力が恐ろしい。
みんな、そんなふうに思っちゃって」
真綾さん、舌をぺろっと出して。
「あたしはそんな宮本君を観てるだけで幸せだったけどね? 似顔絵イラスト描いたりして仲間内でファンクラブ作ってた」
そう、ははって笑う。
そっか。
大丈夫、だ。
みんな悠希の事、大好きなんじゃないか。
うん。そうだよ。
悠希は悠希だ。こんな話を聞いたって関係ない。
「ありがとう西荻さん」
「うー。羨ましいな」
「え?」
「坂本くんが羨ましい、の。あ、でも、二人を応援するのもいいのかも?」
そう笑顔で言うと。じゃぁねって帰って行った。
真綾さん。本当にありがとう。なんだか心が軽くなったよ。