マナと魔族と魔王と
「ゴーレム!?」
『って確か魔法で動くやつっすよね!?』
『マナが枯渇して使えなくなったはずヨ!?』
『どういう事だよ!隊長!!』
驚く四人に対し、きわめて冷静にジャック隊長が言う。
『落ち着け!詳しい話は後だ!
今の俺達では勝てん!!一時撤退!急げ!』
撤退指示に、どれだけ危険な敵なのかを理解する。
「了解です。撤退します。」
(あの隊長がそこまで危険視するゴーレム。
一体何が起こっている?)
「どういうことだよ!隊長!!」
基地に戻ると、
バン!っと勢いよく机を叩きせめるベネットに、
隊長は落ち着いた様子で話しだす。
「落ち着け。
これから話すことは重要機密だ。いいな?」
無言で頷く四人を見て、隊長は続ける。
「………お前らも知ってのとおり、第一次次元融合現象により、
異世界の大地はマナの変異により、空中に浮かぶ浮き島となった。
ここまでは知ってるだろう?」
コホンと咳払いをすると、更に続ける。
「変異したマナは、浮き島を維持するためだけに、
そのエネルギーを使ってしまった。
これにより、エルズ人を含む異世界側の連中は、魔法を使えなくなってしまった。」
一呼吸置いて、ため息混じりに、
「だがな………いるんだよ。唯一魔法を使える奴らが。」
「それは、どんな………?」
つい催促してしまったと思ったドゥーだが、
隊長は気にしなかったようだ。
「<魔族>だよ。」
その一言に、ソールとカカイが反応する。
「魔族!?
それっておとぎ話じゃなかったんすか!?」
「噂でしか聞いたことがないワ!」
「まぁお前らの世代ではそうだろうな。だが、
俺がガキの頃は普通にいたんだよ。
魔法ってのはな、普通は自分のマナと、
それぞれの属性のマナと反応してエネルギーとなって、使えるもんなんだ。
だから浮き島にのみエネルギーを使用している、
今の世界じゃ魔法が使えねえ。
よってゴーレムも動かねえんだがな。
だが、魔族だけは違う。
連中は、自分達のマナだけで魔法が使える。
特に………魔王と呼ばれる魔族の王は、
格別に膨大なマナを内包しているんだ。」
「………つまり隊長。今回の敵襲は、魔族によるものだというのですか?」
ドゥーの問いに頷くジャック隊長。
「ああ、それも、魔王が関わっているだろうな。」
その言葉に、
今まで黙っていたベネットが口を開く。
「仮に、今回のが魔族含む魔王の仕業だったとして、
どうして今なんだ?
それに、業魔とどういう繋がりがあるんだ?
だいたい!魔王ってなんだよ!」
やつぎばやに疑問をぶつけるベネットに、
冷静さをそのままにジャック隊長が答える。
「どうして今なのか、業魔とどういう関係か。
そこまでは俺にもわからねぇが、
魔王の仕業だってのは、わかる。
なぜなら、俺が昔、
魔法使いとして魔王討伐に参加していたからだ。」
衝撃発言に、四人全員が固まった。
「驚くのも無理はねえ。俺が魔法使いだったのは、
1000年以上も前の事だしな。
まぁそいつはいいだろう。つまりは、な。
俺が、
俺達が1000年以上も前に封印した魔王が、
何らかの理由で封印が解け、
今!再び世界を手に入れるために動き出した!
そういうワケだ。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
ドゥーが慌てて言う。
「魔法使いだったからって、
なんでそこまでわかるんですか!?」
「そりゃあ、俺の経験と枯れかけのマナ、
そして何より上から、かつての魔王討伐の事を聴取されたからな。
俺としちゃあ、ここまで情報がそろえば、さすがにわかるってもんだ。」
ジャック隊長の告白に、一瞬の静寂が訪れる。
「とにかく、この件はそういうことだ。今後の対応については、上と話す。以上だ!解散!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!
俺達、撤退してきてしまったんですよ!?
敵がこの基地まで来るのも時間の問題です!
悠長にしていていいんですか!?」
ドゥーの言葉に、ジャック隊長は、
「わかっている。その対応も含めて俺が動く。
お前らは待機していろ!いいな!」
全員がおしだまったのをみて、隊長は満足げに目を細め、待機室から出て行ってしまった。
残された四人は、
それぞれに疑問や不満があったが、
大人しく待機せざるを得なかった。
なぜなら、
ジャック隊長が冗談を言うタイプではないからだ。
(俺達は一体、どうなるんだ?いやどうするんだ?)