平穏から
旧日本領海域 スルツニウム採掘場
エネルギー資源として突出したスルツニウムは、
通常はスライム状の物質で、淡いピンク色をしている。
採掘され出した当初は、
異世界側と地球側で争うこともあったらしいが、
現在では世界連盟による協定があるため、
違法採掘以外では、至って平和に運用されている。
「おい!ドゥー!
ぼ-っとしてないでコイツを運んでくんな!」
親方に声をかけられ、ドゥーと呼ばれた青年、
ドゥエイン・サージェントは反応する。
「すみません!今運びます!」
作業にいそいそと戻るドゥー。
だが、どこか呆けた様子に親方が再び声をかける。
「どうした?なんかあったか?」
「いえ、なんていうか、平和だなぁーって」
ドゥーの言葉に、親方が言う。
「どうした突然。そりゃそうだ。今のご時世小さな諍いはあっても、戦なんて起こらんしな」
テキパキと作業をする親方に、ふと思った事を聞いてみる。
「親方はドワーフですよね?やっぱ戦いとか興味わくんですか?」
ドゥーの問いかけに肩をすくめると、
「馬鹿言え。俺にゃ家族がいるんだ。だいたいいつの時代の話だぁ?お前、さてはなんか観たな?」
ドワーフには戦闘部族の側面があるというが、親方を見ているとそうとは思えなかった。
「実は………昨日戦争特集を観まして………。」
そんなドゥーにわざと、今度は親方から聞いてきた。
「やっぱりな!通りでおかしいと思ったぜ。
それよか、そういうお前は地球人だろ?昔は戦争が多かったそうじゃねぇか。気にならんのか?」
親方の問いかけに、少しだけ考えると、
「な~りませんね。」
素直に思った事を言う。その答えに鼻で笑うと親方は、
「そういうもんだ。ほら!さっさと作業せい!」
ドゥーの肩を叩き、別の作業員の元へ行ってしまった。
その後ろ姿を見ながら、ドゥーは作業に手をつけた。
午後になり、休憩時間に入る。
「よォ!ドゥー!隣イイか?」
ハーフリングの男性で茶髪に三つ編みの同僚、コルノがやってきた。コルノとは、採掘師になってからの同期であり、良く食事を一緒に取っていた。
「いいよ。」
その返事にニッコリ笑うと、ちょこんと横に座る。
「なァ!親方と何話してたんダ?」
興味深々に聞いてくるコルノに、
「ああ、いや。平和っすねって話してた。」
簡潔に言うと、コルノはガッカリしたような感じで、
「なんでィつまんネ。女の話かと思っタ」
と、思ってもいなかった返答をしてきた。思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになりながら、ドゥーは言う。
「まさか!親方とそんな話しないって」
ドゥーの動揺に、コルノはいたずらっぽく笑う。
そんなたわいも無い話をしていると、唐突にコルノが話を変えた。
「そういヤ聞いたカ?
銀髪に赤眼のエルズ人は魔族だってウワサ!」
「そんなウワサがあるのか?」
首を傾けるドゥーに対しニヤニヤしながら
「眼こそ紫だがヨ、お前も銀髪だロ?案外魔族だったりするかもナ!」
自分の容姿を指摘され、困ったように言う。
「いやいや、俺は純血の地球人だぞ?ないって」
ないないと首を振る。
「そうカ?実は………もあるかもだゾ?」
「ねぇって!………多分。」
少し自信を無くしながら返答すると、コルノは冗談だと笑った。
二人の会話が落ち着いた瞬間だった。
ドゴォォン!!と言う爆音とともに、採掘場の鉄塔が折れる。
「なんダ!?」
「鉄塔が!?なんだってんだ!突然!」
二人して立ち上がる。
すると、折れた鉄塔から覗くように見た事のない怪物が現れた。