Li:再び始める異世界生活 7.オレの名は。
『無限転生』という仮説を立て、落ち着いた俺はほかのことをかんがえる余裕ができた。そこで一つの疑問が生まれた。
「そういえばオレの名は、なんなんだ?」
オレはあのゴウ・ジヤマダに名前を教えてもらってない。
「名前……?」
まさか前世や前々世の名前が引き継がれているとも思えない。よくある異世界転生モノ異世界人に憑依したパターンの小説はほとんどが現実世界にいた時の名前を捨てている。
それに、この身体でクロノスはともかく太郎はおかしいだろう。ならば新たなオレの名があるはずだ。
異世界だから女に男の名前を付けたなんて日本の感覚は通用しないなんて言われればそれまでだが。
「うむ。」
もしかしたらこの異世界こそが、オレを主人公として認め、オレとベストマッチする予定の世界かもしれない。そうだとすれば、街中で突然オレを呼ぶ声が聞こえるかもしれない。その時に迅速に対応できなければ主人公としての名が廃る。
「自分の名前知らないの?」
ミズナミが不思議そうな顔をする。当たり前の話だろう。いくら奴隷でも自分の名前ぐらいは知っていて当然だ。
「残念ながらな。」
だが俺は名前も知らない奴隷少女に転移してしまったのだ。この少女の名前などわからん。
ミズナミは席を立って振り返り、タンスの中をあさり始めた。
「う~ん……血統書に書いてあるかな?」
「オレは犬か。」
奴隷には血統書なんてあるのか。
「いぬ? なにそれおいしいの?」
この世界には犬は存在しないらしい。
ミズナミは薄っぺらい一枚の紙を取り出した。それが血統書なのだろう。藁半紙じゃねぇか。ゴウ・ジヤマダ本当に大丈夫か?
「うん。名前欄に『E501』って書いてあるわ!」
「オレは電車か。」
キーワードの伏線回収! よく考えたら『塩害魔王』も伏線回収してやがったのか! 要らねえよ、そんな伏線回収!
あのゴウ・ジヤマダふざけんなよ。記号じゃなくてちゃんとした名前つけとけよ。
「電車? そんな電車いたっけ? あたし電車詳しくないけど。」
「電車はあるのかよ!」
犬はいないのに電車はいるのかこの世界。異世界スゲーな!
「気に入った? E501って名前。」
ミズナミが真顔でオレのつぶらな瞳を見つめる。
「気に入るか!!」
出生届の名前欄に『E501』って書いて提出したら、役所の人間どういう反応するよ? てか、受理されねぇだろ、知らんけど。
「うーん。気に入らないかー。じゃあ、、、あたしが名前をつけてあげる!」
「どうしてそうなった。」
「メアリーなんてどうかな!?」
メアリー……? 女じゃないんだからそんな名前……ああ、今オレロリになってしまっているのか。
「……悪くはない。」
さっきの鏡に映った自身の姿が脳裏に浮かぶ。あのケモミミとしっぽが生えた可愛い姿の少女なら、メアリーという名はピッタリではないだろうか。自身の名ではなく、この少女の名であるとしたら割り切れるしな。
「……気に入った。」
「そう? それならよかったーっ!」
そこには太陽のようなまぶしい笑顔があった。
こうして新たなオレの名は、メアリーになった。




