Li:再び始める異世界生活 ⑥.チュートリアル
「……お姉ちゃん。」
一瞬ためらったのち、俺はミズナミのことをお姉ちゃんと呼んだ。
「はい、よくできました!」
ミズナミは上機嫌だ。お姉ちゃんと呼ばれたのがよほどうれしいと見える。
ミズナミはオレの頭をなでなでした。悪くない。
「こ、これで、この世界について詳しく教えてくれるんだろうな。」
「照れてる姿も可愛いわよ! ええ、ちゃんとしっかり教えてあげるわ! コッチにおいで!」
ミズナミという名の淑女はオレの手を握りオレを居間に連れて行った。居間といってもこのぼろい小さなたて物の今は寝室と居間が一体化している。ちょうど学生が下宿するような部屋をイメージすればわかりやすいだろうか。
ミズナミは手際よく二つのティーカップを用意し、そこに紅茶のようなもの淹れた(多分紅茶だろうが)。
さて、ようやく焦らしプレイの果てにこの世界がどんな世界なのかを知ることができるのだ。心が躍るな。
・・・
「この国はアストラム王が支配するアストラム王国よ。この世界にはアストラム王国のほかにもいくつかの王国が存在するわ。それに魔王が支配する国もね……。」
「魔王……。」
この世界には魔王が存在するらしい。
「魔王は積極的に他の国に侵攻するわ。そして貴方達獣人は本来なら魔王が支配する闇の国の住人なのよ。」
「だからオレは奴隷として販売されて、お前がオレを購入したのか。」
いくら敵対する勢力の住人とはいえ、捕らえて奴隷にするなんて古代ローマやギリシャのようなことをするんだな、この世界は。俺は奴隷制が悪だと言っただけで、ローマやギリシャが悪だとは言っていないが。
まるで将棋だ。
「いくら闇の住民だからって奴隷にしていいって認められてないわよ。あの男、ゴウ・ジヤマダはこの王国の重要人物と繋がりがあるから、お咎めなしで奴隷商人が出来るの。みんなあの男は煙たがっているわよ。」
なるほど、オレに気合いだ元気だ言いやがったあの脳筋の名前はゴウ・ジヤマダと言うのか。みんな煙たがっているなら、商品として販売されている奴隷のため、この国の住民のため、そして俺の中の正義のために機会があればぶちのめしたいな。
・・・
話を聞き終わった俺は一つの結論に至った。
この世界はゼロダに伝説の世界でも、その他の満点堂のゲームの世界でもない。全く違う異世界だ。俺の今迄の仮説は全くの間違いだったのだ。
俺はマリモの世界で本当に死亡してしまっていたのだ。そして俺はまた別の異世界で奴隷少女に転移してしまった。これで整合性がちゃんと取れるだろう。
たしかにほかの異世界転生ものは現実世界で死亡したのち、異世界に転生してしまうのが一般的であり、そのあと異世界で死ぬことはほとんどない。主人公を殺してしまうと物語が成り立たないからな。一つだけ主人公が死ぬほど死んでる小説もあるが。
だか、俺の場合は話が別だ。俺はスーパーマリモの世界で失態を犯して死亡してしまっている。俺自身がじぶんでもきづかぬうちにあれほど嫌っていたブラック上司になってしまっていたのだ。あの世界の場合はマリモが主人公であり、俺や魔王は主人公に倒されるだけのモブキャラだったのだろう。それならば仕方ない。あの世界が俺に合ってなかっただけだろう。
不幸なことに、俺は一発で自分とベストマッチする世界に転生できなかった、ただそれだけの話だろう。だから別の世界に転生出来たんじゃないか? 知らんけど。
もし俺がこの世界で死亡した場合また別の世界に転生できるかどうかはわからない。この世界で本当にオレが主人公ならば、途中で死亡するという最悪のバッドエンドを回避できるだろう。オレが主人公で無ければ……?
この世界ともオレが合っていなかったことになるから、また転生出来るかもしれない。要するに俺を主人公として認めてくれる、俺とベストマッチする世界を探せば良い、ただそれだけの話だ。それまではいつまでも死の恐怖と死の苦痛を味わなければならないというなかなかハードな旅になるが。
俺はとりあえず、今一番有力なこの仮説を『無限転生』と名付けた。この仮説を一言で表すと、『自身を主人公として認めてくれる世界に巡り合うまで俺は転生し続ける。』とイったところだ。
この仮説が正しいか否かが明らかになるのはまた先のことになるだろう。
現状ではこの淑女に世話になるしかこの異世界で生き抜く術はないのだから、奴隷兼妹としてコイツと一緒に行動することにしよう。




