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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
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第97話 ほんとそっち系の話好きだよな

 

「遠方っていうのは具体的にどこに行ってたんだ?」

「ちょっとオーステインまでね、そういえば」

 ミナトロンは首をぐるりと回し、ススリゴの事務所内を見渡した。


「あの2人はどうしたんだい? 仕事かな」

「ああ、あいつらなら」

 ススリゴはテーブルに置いてあったみきが処理していた紙をパラパラとめくる。


「あいつらなら数週間前に突然姿を消した」

「へえ、なぜ?」

「わからんな、見当もつかない。ただ荷物らしきものは住んでいた2階に置いてあったし、やりかけの仕事もそのままだった」

「なるほど、突然、ね」


 時期的にはわたしがラカラリムドルを出た前後か。ミナトロンはボトルを手に取りグラスに注いだ。


「いなくなったやつらのことはいい。それで用件はなんだ?」

「いいじゃないか。大事な話の前なんだ、少し前置きがあってもいいだろ」

「わざわざ朝から果実酒を飲みながらする話が大事なのか? おれにも予定があるんだ」

「わかったよ。しょうがないな」


 ミナトロンはグラスの果実酒を一息で飲み欲した後、オーステイン周辺での出来事を話し始めた。



「おい、それは全部本当に起こった話なのか?」

 話の途中からススリゴも果実酒を飲み始めており、ミナトロンの話を聞き終えた後、新しいボトルの蓋を開けた。


「ああ、そうだよ。わたしもあそこまで大量に殺したのは初めてだ。しかし自覚できるほど能力が向上してる感じはないね」

 ミナトロンは左手の指を動かした後、手のひらを開きそして閉じる。


「そんなことはどうでもいい。もし国がさっきのことを知ったらお前だけじゃすまないだろ。コミュニティに所属しているやつらも」

「だろうね。その近親者も見せしめのため処分の対象になる。それは間違いないよ」

「おれはお前が無事で済むとは思えんがね。国だって馬鹿じゃないだろ」

「そうだね、絶対とはいえない。しかしそれは普通に生きていてもそうだし、今回のはその範疇に含まれると思うよ、それに」

 ミナトロンに含み笑いを浮かべる。


「まったくの偶然なんだよ。実際わたしのつてを最大限に使ったとしても師団の詳細な行動は掴めなかった。あいつらそこだけは強固だからね。だからわたしが師団員を殺すためにオーステインに向かったっていうのは少し無理があるんだ。また今の所はわたしがあいつらを殺す理由がない」

「お前が恨みを抱いていたとかでもいいだろ。それでたまたま出くわした師団をこれ幸いにとばかりに殺した」

「はっは、それこそ」

 ミナトロンは途中で買ったひき肉と卵のパイ包みを切り分ける。


「国はそこまで馬鹿じゃないよ。きみだってわかってるだろ?」

「どうかな」

 ススリゴは反射的に頭の中に浮かんだ過去の映像をかき消した。


「さて、じゃあ続けよう。始祖がいなくなったことを国が把握したらどうなると思う?」

「いなくなったら、ね」

 ススリゴは近くにあった紙を1枚手元に引き寄せ、パイ包みを手掴みでその上に置く。


「防衛するものが無くなった以上師団の役割が変わって来るだろうな。一時的に予算は減り人員は削減されるだろう」


 一時的にか。ミナトロンは満足げに果実酒を飲んだ。


「じゃあその後は?」

「他の国、そうだな。位置的にはツグエグラ、ジョリゴ辺りとの交流が盛んになるんじゃないか。だがまあ」

 ススリゴはグラスの果実酒を一口飲み、パイ包みを食べた。


「そう遠くない将来に争いに発展するだろう。誰かが仕掛ければすぐだ。どうせお前がそれをやるんだろ?」

「はっは、そこもわかっているか。出来ればやりたくはないんだけど」


 一応わたしの計画をきちんと説明するとだね。ミナトロンは果実酒をグラスに注ぐ。


「これから第4師団行方の確認のため、どこかの師団が向かうだろう。しかし始祖関連となるとみんな行きたがらないからねえ。場合によってはうちに命令が来るかもしれない。まあそれはどちらでもいいんだ。わたしの読みでは師団の選定、オーステインへの派兵、そして帰還だ。この過程を経て国が状況を把握するまでに数ヵ月掛かると考えている。その後、議会できみの言う通り予算削減と人員整理が行われるだろう。そうなった場合、わたしとしては行き場を無くした兵士達を引き取るつもりだ。そしてしばらくの平穏の後、次は他国との戦争が始まる。絶対にそうなるんだよ、人っていうのは。師団の連中も自分達の存在意義を示すことでしか居場所は作れないからね。そこで、そこできみなんだよ」

 

 ミナトロンは手に取ったパイでススリゴを指す。


「今わたしのところで動かせる金が9,000万トロンぐらいある。兵士達の人件費とかコミュニティの運営費も含めだけどね。それをきみの事業で増やしてもらいたいんだよ。人はこちらから出すからさ、管理を任せたい」

「事業? たった1人で金貸しをやっているおれに使う言葉ではないな。それに管理するだけでは金は増えない」

「まあまあ。これを渡すからさ」


 ミナトロンは持っていた鞄の中から数枚の紙を取り出してテーブルに置いた。


「金に困ってそうな連中のリストだ。わたしが個人的に集めていたもので額が大きそうなのを抜いて来た。ただ誤解しないでくれよ? 確実に回収できるやつらばかりじゃない。その辺はきみが判断して動かしてくれ。そうだな、月終わりに最低6,000は確保しておいて欲しい。運営もしないといけないからさ」

「お前はおれが」

 ススリゴは紙に書いてある文字に目を落とす。


「うまく金を増やすことを前提で考えているようだが」

「きみはやるよ、出来なくても出来るようにする。それはわたしが一番よく分かってる。だから今後きみは金を増やし、わたしはその金を使う準備をする。人と物を置いておく場所が必要だ」

「物?兵士だけではなく値が下がった武器も買い漁るつもりか?」

「きみは。いや、きみもいいねえ。そういうことだよ。師団員が削減された場合、わたしはすぐに雇わないからね。一旦、職を失ってもらってからやる予定だ。そして全体の人件費を下げ、上手く行けば工業地帯で余る武器、簡易的な保存食、医療品を買う。どれぐらい値が落ちるかは見てのお楽しみだ」


 なるほどな、こいつの意図していることは大体わかったが。ススリゴはミナトロンとの会話を反芻する。


 おそらくミナトロンと同様に他国との戦争を考えるやつらも多くいるだろう。ゆえに防衛の費用は下げるべきではないと。しかし、その考えはより多くの「脅威がなくなった。これでもう安全だ」の意見にかき消され、そして口当たりのいい思考とそれを上手く利用するやつらに市民が従う、と。しかし一見理にかなっているように見えるが、そこまで単純な話か?他の国々と協力して共に生きるほうがどう考えても手間が掛からないんだが。大体ミナトロンは他人を信用しなさすぎる。こいつの言う、ああ、まただ。妙にこういうときに浮かぶ、あの時の。


 ススリゴは何度も繰り返している作業、以前一度だけ会った男の言葉を思い出す。



 それは数十年前、イイマの食堂(当時はイイマの父がやっていた)でススリゴとミナトロンがカウンターで飲みながら話していた時、横に1人で静かに飲んでいる男がいた。


 その男は奇妙な服装をしており、カウンターの椅子で足を組んでいたが、足先は裸足で爪先だけを引っ掛けているような履物をふらふらと揺らし、また上半身に至っては肘から下が露出している布を1枚だけ着てるだけだった。


 ススリゴとミナトロンが店に入った時から既にいたが、ミナトロンがいつも通りの理想を話し始めた時、突然話たどたどしい言葉で話し掛けてきた。


「きみたちのいっておるこどはわかる。であこのせかいにはふびいっぽんでぜんいいんをころすこともどうぐもないし、たいりくでんぶのひとがきょうゆうこともできない。だからころしあうしかあい」


 その男はそう言った後、店主に挨拶し金を払い店を出た。


 ススリゴとミナトロンが2人の記憶を繋ぎ合わせ、文脈から解釈したのはこうだ。


『君たちの言っていることはわかる。でもこの世界には指1本で国中の人間を殺す道具もないし、全世界の人と考えを共有しあえるものもない。だから殺しあうしかない』


 ススリゴは妙にその言葉が印象に残っていたので、後日ミナトロンに話したが「そんなやついたか?」と怪訝そうな表情で返された。そして「仮にそんな世界があったとしたら」ミナトロンは笑いながら言った。


「それが不幸か幸福なのかを判断できるやつなんていないんじゃないか?」



「おい、どうした?」

 ミナトロンは眉をひそめ俯いているススリゴに話し掛けた。


「いや、ちょっと考えていただけだ」

 ススリゴは台所にあった水差しを持ってテーブルに戻り、空になったグラスに水を入れる。


「おいおい、大丈夫か。数ヵ月なんてあっという間だからな。そしてわたしはどの師団よりも力をつける。まあそうなった場合、おそらく完全に国の管理下に置かれることになるとは思うがね。それでもいいよ、とりあえずは師団長と同等の権力が得られれば」

「お前はそんなに戦争がしたいのか?」

 ススリゴは答えがわかっていても聞かずにはいれなかった。


「はっは、ばかな!」

 ミナトロンは大げさに両手を上げる。


「目的はそこじゃない。前から言ってるだろ、今の議会制の無意味さは耐えがたいものがあると。大体師団以外の代表者半分は市民? ありえないね。優秀かどうかわからない市民が優秀かどうかわからない市民を選んでどうするんだ。それに年に1度の投票にいくら掛かるか知ってるかい? 途方もない金額だよ。そこまでしても大体のやつは金と保身に飲み込まれる」

「しかしお前はこの手の話が好きだな、何十年も前からずっとだ。いつもに増してさらに饒舌になる」

「ああ、はっきり言おう、好きだね。人生で一番盛り上がる話題だ。より良い未来の話だぞ。だからその未来のために必要なのは」

 そう言ってミナトロンはグラスの中の果実酒を揺らす。


「知ってるよ。意思決定権の集中だろ?」

「そう! さすが数十年来の友人だ!」

 ミナトロンは大きく手を叩く。


「無駄を出来る限り省き命令系統をより単純化する。選挙、市民の意志の代弁、そんな非効率的なもの明日にでも無くしたいんだよ。大体時間が掛かって善行をしたとしてもそれはまったく意味がない。全員にとって一番大事なのは時間なんだ、そうだろ?それを無駄にしている時点で何をやったとしても悪行だ。だからわたしはその仕組みを変えたい。そのために今回の好機を利用して力をつける」

「200人近く殺してやる意味があるのか?」

「ああ、あるね。これからはモドキがいなくなるかもしれないんだ。ということはだよ、わたしやきみの能力はこの世からすぐに消える。わたしがきみを殺しても等倍にならない以上ね。故に他国に先んじるため急ぐ必要もある。数十万人の有益な時間のためだ。数百人の一生より重いよ、しかしその辺は」

 

 ミナトロンは言葉を区切ってススリゴを見る。


「完全に後付けだ。前から言ってる通り、わたしはわたしの理屈が通る世界にしたい、それだけだよ」

「おれへの見返りは?」

 ススリゴは自分への確認のためミナトロンに尋ねる。


「おいおい、わかってて聞かなくてもいいじゃないか。もちろん今の体制を変えることだ。それ以上にきみが欲しいものはないだろ? じゃあそろそろ行くよ」


 ミナトロンはドアの前に立った後、「そういえばきみに」と思い出したように振り返った。


「オーステインできみに似た男がいてねえ。まあもういないんだが。なかなかいい男だったよ、もったいないことをしたな」

「ならそいつにも手伝わせればよかっただろ」

「わたしの予定では、きみとあの黒髪の2人にやってもらうつもりだったんだよ。あてが外れたねえ、いないなら連れてきてもよかったな」


 人は明日にでもこっちによこす。安心してくれ、ちゃんと選んだやつらだから。ミナトロンはドアを開けてススリゴの事務所を出た。


 ふう、また面倒なことに。ミナトロンが去った後、ススリゴは椅子にもたれて金を貸す予定のリストを眺める。


 果たしてあいつの思い通りには運ぶかどうか。そしておれにはやるしか選択肢はない、あいつと離れなかった時点で。これまで何度か機会はあったがおれはそれを選ばなかった。あいつに理屈があるようにおれにも理屈はある。それから言うとあいつは外れているんだがな。


 ススリゴは自身が保有している金も含め貸付の検討を始めた。


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[良い点] 濡れ手に粟じゃなくて 今思いついた例えですが、 金融業はハチミツまみれの手で 磁石を持って砂鉄を集めるようなもの 砂鉄はあまり儲からないし アリ塚に当たった日には 腫れ上がってしまう …
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