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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
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第86話 夜の荒野

 

 夕日が地平線に沈みつつあることに気がついたノリュアムは、ふう、と息を吐き、これまで見てきた場所を確認するため振り返った。


 期間内この周辺を形だけ探せばいいのはわかっているが、それなら早く見つけてしまったほうが効率的だ。ノリュアムは近くにあった自身の数倍はあろうかと思われる岩石を右手で叩き割る。 


 明日はここからだな。よし、合流しよう。ノリュアムは足早に後方に向かった。



 またずいぶんと集まっているな。岩石地帯から少し離れ、比較的開けた荒野で焚火をしている兵士達を見つけたノリュアムは、近くにいた見たことのある兵士に、ここには全隊がいるのか? と尋ねる。


「そうです。全員集まった方が安全だって意見が多くて」

 見たことのある兵士は遠慮がちに答える。


「いや、いいんだ。気にするな」

 ノリュアムは改めて全体を見渡した。


 もし仮にノリュアムにその手の相談が来ていたら、危険はできるだ分散しておいたほうがいいという考えから却下していただろう。しかし権限を委譲している以上、その決定に対しあれこれ指図をする資格はない。

 そう思ったノリュアムは目の前にいた焚火をしている4、5人の集団に近づき、「すまん少しいいか? 」と声を掛けた。



 全ての隊で有益な情報は得られなかった。夜の見張りは隊ごとに交代で行う。その2点は各隊で共有されていることを兵士達との会話で確認し、ノリュアムは少し安堵した。

 そして目の前で揺らめく炎を見ながら明日の予定について考えていると、別の見たことがある兵士が血相を変えて走ってきた。


「あ、あの、すいません。第5師団の兵士が1人そこに。話がしたいと」

「第5の?」

 ノリュアムは隊の兵士の後ろにいるうんざりしていた兵士に目を向ける。


 始祖の確認は終わったのか。しかしそれはいいとしてなぜ1人なんだ? ノリュアムは直立している別のみたことがある兵士に軽く手を上げ楽な姿勢を取らせる。


「おい。お前か? 話というのは」

「は、はい。その機密がありまして人を下がらせてもらえませんか」

「機密? それならおれにも言えないだろう」

「いや、その急を要するもので。だからあちらへ」

 うんざりしていた兵士は少し先にある岩陰を指さした。


 ノリュアムはどこからか集まってきた兵士達に大声で、少し静かにしていろ。と言い、うんざりしていた兵士に向き直る。


「よくわからんがあそこまで行く意味はないだろ。どのみちおれはお前に聞いたことは上に報告する義務があるし、必要なことならこの場でも共有する。それが嫌なら第5の仲間を探しに行くんだな」

「あ、ああ。はい。わかりました」


 うんざりした兵士は周りを取り囲む兵士を気にする様子を見せた後、「すいません。端的に言いますと、始祖が予想外の状態で救援を要請したく」と伏し目がちに告げた。


 予想外? なんだそれは。周りの兵士達がざわつく中、次の言葉を探していたノリュアムはふと背部に違和感を覚えたと同時に、他人の能力に干渉した感触があり意識を拡大させた。



「もうちょっと面倒かと思っていたよ。ノリュアム」



 第4師団兵士の鎧を纏ったミナトロンは、振り返りつつあるノリュアムの背中に剣先を押し込んだ。


 な、んだ。ノリュアムは回避行動を取るため下がろうとするが、ミナトロンは追いかけるように跳躍しながら剣から手を離し、力の限りノリュアムを蹴り飛ばす。


 衝撃に備えて空中で体制を整えながら意識を集中していたノリュアムは、自分が兵士達から離されていることだけはわかった。


 暗闇の中の荒野で地面に叩きつけられたノリュアムは背中を庇いながら立ち上がる。


「おい、お前は。ミナト、ロンか?」

 ノリュアムは目の前に立っている男に気付いた。


「覚えていてくれたのか! そうだよ、久しぶりだな。いつ以来だ?」

 ミナトロンは中腰のノリュアムの顔面目掛けて足を振り上げる。


 駄目だ、これは避けきれない。ノリュアムは反射的に両手でガードするがその上からのミナトロンの蹴りの衝撃で再び後方に飛ばされた。


「おいおい、さすがにもっとできるだろ。やられっぱなしじゃないか」

 ミナトロンは膝に手をついて立ち上がろうとしているノリュアムに半ば呆れた様子で言った。


「もう大丈夫だ。余計な心配はいらない」

 ノリュアムは呼吸を整えながら手を後ろに回し背中に刺さった剣を確かめる。


 これは抜けないな。入っている今の状態でやると悪化する可能性が高い。しかしミナトロンがなぜここに? いや、今それはいい。しかし思ったより初動の差が効いているな。そうか、こいつはあの時おれに会話をさせたかったのか。その間はおれは入れないからな。ということはあの第5の兵士もこいつの仲間か?


「いろいろ思うところがあるようだな。よし、いいよ。同じ場所で学んだ仲だ。少し考える時間をやろう」

 ミナトロンは近くの石に腰をかけた。


「それはありがたいな。あの第5の兵士もお前の仲間か?」

「仲間ね、そう言われると微妙なところだな。でもあれは正規兵だよ。それに第5師団でトラブルがあったっていうのも本当だ」

「なぜここにいる? お前ぐらいだと外に出るときは行動制限もかかるだろうし、そもそもおれたちがここにいるとどうやって知った?」

「ああ、偶然だよ。それは本当だ。たまたま別件でオーステインに用事があってね。途中でいろいろ寄り道してたら巻き込まれたって感じかな」


 巻き込まれた? まあいい、ここは一旦引こう。第5には特に注意するような能力の者はいなかったし、他の兵士とこいつが関わっていたとしても、逃げるだけ、なら、な。ん、お、これは……。


 ノリュアムは再び地面に膝を着いた後、そのまま倒れこむ。


「やっと効いて来たか。ちなみにそれは毒、最初の剣の時だよ」

「お、……お、い。じゃあ」

「一応即効性があるやつなんだけど入ってたら全然回っていかないからねえ。あ、それ1回分で80万トロンだから。その辺の兵士の1年分超えてるよ? 材料費は安いんだけどね。調合がどうもうまくいかなくて外注したら馬鹿高い値段になったんだよ、さらに言うと」


 ミナトロンは必死に手足を動かそうともがくノリュアムの前に立つ。


「入れなくなったら、要は意識が途切れたらすぐ死ぬと思うよ。だから今からきみが気絶するまで」


 ミナトロンはノリュアムの頭を踏みつけた。


「殴れるだけ殴る、やっぱり蹴るかな。少し時間が掛かりそうだし、それまでにこっちの手が壊れそうだ。切っちゃえれば楽なんだけど入ってる状態のきみだと剣とか槍とかじゃあどうしようもないからね。ああ、ごめん。それなら毒いらないか。あー、でも本当ならもっと観察したいんだよ。きみぐらい入れる人間に毒を投与する機会なんてあんまりなくてさ。ここだけの話、何回か飲み物に入れたことはある、うん。でもみんな吐いちゃうんだよなあ、わかるのかね? やっぱり。でも今回は毒の観察は諦めるしかないかなあ、なんかあったら怖いし。だから本当に残念だけどさ、ここで終わりにしよう」


 よいしょっと。ミナトロンは頭を踏みつけたまましゃがみ込んで、ノリュアムの右腕を外側に向けて強引に曲げる。


 が、ぎ。ノリュアムは口から漏れそうになった叫び声を噛み殺した。


 まず、いな。これは折れたか? 見た感じ単純な身体能力ならおれのほうが上だと思うが、初手からの消耗と毒のせいで身体が……。


「やっぱりだめだ。むしろ痛みで覚醒してるよね。あ、そうだ。首の骨っていう手もあるな。そこなら1回で」


 ミナトロンはノリュアムの右腕を離し、両手で首を持って後方に曲げるが可動域以上に動く気配がなかった。


「うーん、微妙にいけそうな気がするんだけど。なんか自分で止めちゃうなあ、やっぱり嘘はだめだ。気になるんだよ、毒。見たいんだよ、皮膚状態の変化とかを。だからどっちつかずのやり方にしよう。あ、でもそっちの応援来たら終わらせるよ」


 こいつは……。ノリュアムはミナトロンを睨みつけた後、我に返る。


 駄目だ、今すべきなのは少しでも意識を保つ時間を長くすること。それ以外に考える必要はない。ノリュアムは目を閉じ、動く左腕で頭部を覆った。


「よし、じゃあ方針も決まったところで、と」

 ミナトロンは一方的にノリュアムの頭部を何度も踏みつけ、ある程度地面に埋まると髪の毛を掴み無理やり座らせた。


「しかし頑丈にできてるね。父親によく似ているよ」


 そう言った後、ミナトロンはノリュアムの頭部を蹴り、倒れそうになると素早く逆側から蹴り返すということを繰り返した。 


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― 新着の感想 ―
[一言] レビュー追伸して更新しました。 つええかどうかよりも 仕組みを知って裏を張るほうが 圧倒的に強いのか。 みきが村長代理になれるわけですね。 村長代理やめて、 つええ使いを使ってますからね…
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