第80話 みきの本当にあった午前中の話
そりゃあもう波乱だらけでしたよ。わたしはつええ使えないし。あ、そうだ。吉井さんは何時ぐらい? ああ、同じですね。わたしもそれぐらいです。午前10時頃だったと。そこら辺も話したいんですけど、あえて飛ばします。え? あー、はいはい。じゃあわかりました。今度話します。なんかをダウンロードしててどうしようもなく暇な時に。ああ、もう! じゃあ言いますよ! 布の服を着ていたわたしは、太陽の光を浴びたら死ぬぐらいの設定で住宅街を逃げまどいましたよ。西へ東へ、東へ西へ! それで途中運よくタクシーに乗れて、運転手さんにこの世の果てってくらい激しく下らない嘘をついて家に戻ったんです!
はあはあ、もう思い出したくないんですよ、あの時間は……。うん、そうです。わかればいいんです。で、わたしは以前住んで家に着きました。家っていうか賃貸のマンションなんですけど、1階です。だって他に行くとこないですし。
で、玄関に小さい鉢植えっていうんですか。それを見つけて確信しましたね、まだ誰かわたし関連の人住んでるって。前から置いてたんですよ、そこに予備の鍵を。あー、そうじゃないんですよねえ。さすがにどけたらそこに鍵がっていう状態ではないです。小さいこうジップロック的なのに入れて土の中に隠してたんですよ。そうそう、なんか錆びそうじゃないですか。土にダイレクトだと。それで鉢植えの中をごちょごちょと探すと鍵はあったんですよ。よかったよかった。
そして家に入ったわたしは着替えを探しました。そりゃあ、そうですよね。まず着替えですよ。こんな布の服着てるから嘘に嘘を重ねて。で、ちょっと探したんですけどなんか部屋の位置変わったのか、いまいちわからなかったんで、居間のソファーに掛かってた制服を持ってシャワーに入ったんです。あ、そうこれです。今着てるのです。なんで制服がって? うん、兄妹はいませんよ。わたし1人っ子っていうかおじいちゃんっ子でしたから。いや、そうなんですけど今じゃないんですよ、わかりますから。次のシーンではっきりしますから。あ、そうだ。すいません。ちょっと飲み物頼んでいいですか。うーんと、じゃあ。なんか炭酸で。
ああ、どうも。ありがとうございます。えー、どこまで話したか覚えてるんでそこから行きます。
まずシャワー浴びたんですけどすごい水の色でしたねえ。ああ、吉井さんも?あれ怖かったですよ、洗っても洗っても薄い茶色が残ってて。そして途中から透明なのか茶色なのかわからなくなるっていう。
そして浴び終えたわたしが初めて着る服に戸惑っている時、玄関が空いたんですよ。がちゃりって。あ、やばい! わたしは本能で感じましたね。これはやばいって。
そして髪も乾かさないで奥の部屋に逃げ込みました。そしてちょっとだけ扉を開けた状態にした後、窓を開けましたね。ここがわたしのえらいとこですよ。逃走ルートの確保です。え、ああ。吉井さんもあそこで? というかコミュニティって、あはは。今聞いたら若干きついですね。その固有名詞のセンス。
それで窓枠に足を掛けつつ部屋を見てると、ちょっとした棚におじいちゃんの写真があったんですよ。あー、部屋の位置入れ替えたのかなって。前そこがわたしの部屋だったんです。まあ3年いなかったから、わたしの部屋がどうとかって問題でもないですけど。
そうしたらトントントン、トントントンって足音が近づいて来たんです。やっぱり思いますよ、やだあな、こわいなあって。その後もやだなあ、こわいなあってやってたら、ぎいいいいって扉が開いてすぐ横の居間に人が入って来たんです。
わたしは声を出さないように必死でした。なんで普通に部屋を出なかった? 出れないですよ! だってきわきわ感すごかったんですから。ちょっと動いたらスパっていかれるっていうか。あ、で! で! ここ大事なとこですよ。わたしはふと窓の外からの風でたなびくスカートを見て気付いたんです。
これわたしが通っていた中学の制服じゃない、こんなスカート知らない。
これ、わたしのじゃない。




