第77話 実際これは前にもあった
新横浜駅に着いた吉井は駅周辺を探したが、みきのこれまでの言動からやはり横浜という地名に強いこだわりがあるという考えに至り、新横浜駅から横浜駅に向かうため案内掲示板を見ながら地下鉄の改札に向かった。
いやあ、着くには着いたんだけどさ。これ無理だろ。
横浜駅に着いた吉井は、地下と地上階を行ったり来たりしつつみきを探したが、18時過ぎの人通りの多さと通路の複雑さに数分で心が折れ、地上に登って駅構内を出た。
曇り空ではあったが街の明かりで視界に困ることはなく、吉井は近くにあった柱にもたれながら、目の前のビルと視界を通過する人々をぼんやりと見ていた。
しかしさっきの百貨店もそうだけど、電気まじで1/4ぐらいで十分だって。全然周り見えてるよ。というか駅直結のルミネって吉本の劇場だと思ってたんだけど、普通のよくある駅前にあるいろいろ入ってるビルなんだな。ジャルジャルの番組で千葉の幕張に劇場あるの知ってたから、関東って結構あるんだー、ぐらいに思ってたけど。まあいいや、つええ使って今度どっかでゆっくり観よう。
水滴が体に当たる感覚で、雨が降って来たのを感じた吉井はパーカーのフードを被る。
でもさ、おれ一番苦手なんだよ。こういう一旦分かれた状態になってみきだけ向こうに残ってるとか、おれが諦めて帰った後にあいつがこの辺うろうろするとか。それだけはまじでやめてくれ。読んだり観たりするのすら苦痛なんだぞ。実際なったらどうなるのか自分でも想像がつかない。そして今のおれならそういう展開にムカついた場合、ホテル一棟ぐらい壊せるからな。やったことないからわからないけど。おっといかんいかん。つええの乱用は避けないと。普通の生活に戻れなくなる。そうだな、やみくもに探しても駄目だ。消去法で。いや消去じゃないか。まあいい、何法かはわからんが考えを進めて行こう。吉井は傘を買うために近くのコンビニに移動した。
コンビニで傘とビール、ファミチキを買い、イートインスペースに座った吉井は、飲酒喫煙はお控え願います。という張り紙を見てビールをリュックにしまい、再び店内でコーラを買ってイートインスペースに戻った。
まず見た感じルミネにはいない。あいつが今の状況でここに来たとしたら買い物はしないだろう。あっ、ちょっとまてよ。吉井はコーラの蓋を開ける。
あいつが3年前に戻ってる可能性って。えー、でもそれだと辻褄合わないっていうか、記憶の感じおかしくなるもんな。うん、大丈夫それはない。おれもそうだったし。よし、この辺は問題ないということで。
吉井は一度コーラを置き、ファミチキが包まれた袋の上部を点線に沿って丁寧にちぎる。
うーん、向こうが知ってるおれの情報って滋賀県と年齢が29歳だけだろ。あんだけ一緒にいてそれだけかよって気もするが、でもおれだってみきのことは横浜生まれ、横浜育ちの17、8歳。そしておじいちゃん依存。それぐらいだもんな。そうだ、あいつが滋賀のほうに来る可能性は、っと。うん、ない。「なんでわたしが新幹線が停まらない場所に行かないとだめなんですか? 無いほうが来るのが自然だと思いますけど」ってなる、多分。
あー、でも空港があったのは気になるかも。同じタイミングで向こうに基礎ごとごっそりいってたからさ。何となく未来変わってる感じにだな。例えば現在は公園とかになってて、戻ってきたおれはジョギングしてる人に起こされるとか? まあいいや、とりあえず空港は一旦保留で。
えっと、まとめると。吉井はファミチキを点線部分まで一口で食べた。
新横浜でもない、ルミネでもない、さっきけっこう確認した改札前でもない。そして構内のどっかだと探せない、あれは無理。となるとやっぱり駅のホームしかないか。
地下鉄のとこはいなかったけど電車でも来れるからな。気持ち地下鉄より電車のほうが待ってる時に絵になる気がする。あいつはそういう所も気にするはずだ。よし、駅のホーム、新横浜駅から来る方に行ってみるか。
吉井はファミチキを頬張りながらコンビニを出て、来た道を戻る形で東口へ向かったが、ルミネの入り口を見つけると流れるようにビル内に入り、近くにあったフロア案内図の前に立った。
と、言いつつも。一応ルミネにいるという逆のパターンも押さえておく。これが大人のやり方だよ。えー、あいつがいそうなのは、と。普通に考えたらレストランのとこだよな。6Fと7Fね、ふむふむ。ちなみにどんなのが。吉井はフロアの店舗を確認する。
まっすぐいったら、イメージ的にはソバキチかどんぶりのマルモキッチンだな。とりあえずこの2つだけチェックしとくか。
吉井はエレベーターの前に移動したが、想像以上に混雑しており、またエレベーター自体も一向に降りてくる気配がなかったので、エスカレーター側に移動し能力を使って人を高速で避け、そして飛び越えつつ登った。
よし、こっちもいないな。2つの店舗内を確認した吉井は再びエスカレーターを使って人を避けながら一気に下に降りる。
一見無駄に思えるこの作業。ここを怠ったことでどれだけの人間が後悔してきたかおれは知っている。ゆえに無駄ではない。
ルミネを出た吉井は、この距離だったら傘いらなかったな、と購入を少し後悔しつつ駅構内に向かった。
改札の前に着いた吉井はそのままホームに入ろうとしたが、防犯カメラが気になったのでホームに入るための切符を買うため列に並んだ。
おいおい、カメラはルミネにもあっただろう。なぜここでは並ぶ? まあいい、それが人間。理屈ではないってことだ。
改札を通った吉井は案内板を見て場所を確認し、エスカレーターに乗ってホームに向かった。
ええと、こっち。いや逆か。まあいい、とりあえずここを探していなければ待っていよう。
進行方向側から確認しながら進んでいると、中間地点辺りでケンタッキーの匂いがして吉井は立ち止まった。
気持ちいいな。こんなにすぐ自分の予想通りになるっていうのは。大勢の乗客が行き来するなかで、ベンチに座ってケンタッキーを食べている女子高生は異様に目立っており、なぜ制服なのかという疑問を抱えたまま吉井はみきの前に立った。
「よかったよ。戻って来てて」
吉井がそう声を掛けると、みきはケンタッキーを両手で持ったまま顔を上げる。
肩まであったみきの髪は耳が少し見える程度まで短くなっており、また丸みを帯びた形で丁寧に整えられていた。そしてオーステインやラカラリムドルでは標準であった体形も、現代にいる周りと比べると幾分ほっそりと見え、そのためか顔の造作自体は変わっていないが吉井にはまったくの別人に見えた。
ええと、こういう髪型はいわゆるボ、まあいいや。おれみたいな疎い人間が説明っぽく言っても恥ずかしくなるだけだし、制服につっこんだらそれはそれで何か言われそうだから、その辺はまとめてみきから喋るのを待とう。
「それってケンタッキーだろ。早速食べてるんだな」
「ねえ、吉井さん。会ってすぐ人の趣味に口を出すなんてどうかしてますよ。あっちに常識を置いて来たんじゃないですか?」
みきは食べかけを箱に入れて丁寧に手を拭く。
なんか趣味って言われるとしっくりこないな。吉井はそう思いながらも、多少配慮が足りなかったかもしれない。と詫びた。
「まあいいでしょう。戻って来ても寛大な心で見逃しますよ。さて、とりあえず移動しましょうか。積もる話もあるでしょう、わたしもあります」
なんか前もこんなんあったな。そしてあっちにいたみきだ。あー、よかった。地味にびびってたんだよ、は? だれ? って言われるかもって。
吉井は先に歩き出したみきを追いかけ、並んで改札に向かった。




