第74話 帰還
ん、あれ。壺は? ああ、おれ川から落ちたのか。えーと、2カ所川の水汲んで1個雨のやつを設置したんだ。そうだ、それから1回どうしても戻ることになるし、リアカーを置いて船に乗ってみようってなって。1人200トロン払った、うん。それじゃあさすがに意味が、え……? なにこれめちゃくちゃ柔ら、え……、ひ、人?
床がタイルカーペットになっている室内にいること、そして周りを取り囲む数十人の視線に気づいた瞬間、吉井は能力を発動させ目に付いたトイレの個室に入った。
お、おい! なんだよ。思いっきり戻って来てるじゃねえか!
久しぶりのトイレ個室特有の落ち着く空間を味わった後、吉井は能力を発動させたまま外に出た。
あーあ、急に出てきていなくなったもんな。この人らすげえ表情してるもん。
吉井は改めて周囲を確認し、ガラス張りの室内にいること、そしてそこから飛行場が見えることから空港だと確信した。
なるほど、そういうことね。あ、ちょっとすいませんという気持ちはありますよ。吉井は目の前にいた40代女性の鞄から端末と財布を取り出して再びトイレに戻った。
はいはい、よかったー。そりゃそうだよな。周りからしてわかってたけど日本だ。吉井は財布の中身を確認しつつ端末を操作する。
そして、あー、やっぱり時間経過してるわ。2ヵ月ぐらいか? ほんとまじで思うよ、長いような短いようなって。でも、うーん。このスマホはとりあえずで欲しいんだけど、それはなー、あの人かわいそうだよあ。無くなった時の落ち込み半端ないから。うん、やっぱり返そう。なんかしらんけど、おれつええ使えるしどうにでもなるだろ。つええなかったら完全に貰ってたけど。まあつええなかったら鞄から取れていないという気もするが。
吉井は40代女性の鞄に財布と端末を戻し、改めて周囲を確認すると検査場を過ぎた搭乗口の場所だと気づいた。
なんとなくここは落ち着かないな。怒られそうな感じがする。吉井はその場所を離れ、空港の一番端にあるトイレの個室に入った。
この空間すげえいい。これあっちにはなかったからな。吉井はトイレの天井を見あげた。
それで、うん。そうなんだ、気づいてる、忘れてない。
で、みきは?




