第73話 遠征
中央棟で行われている会議には、第1師団を除く第2師団から第5師団の責任者4名、及びそれぞれの師団の報告者4名の計8名が参加し、各師団で地域を分担して行った魔物調査の報告がなされていた。
元々ラカラリムドルでは魔物の種類や数、生息地域は概ね一定しており、また共通しているのは、ある時期に魔物はオーステインに戻り(もしくは行き)そして再びそれぞれの領域に向かう(戻る)という点であった。そしてそれは同じ種類の魔物なら個体が違っても、まるで記憶を共有しているかのように同じルートを通ることも広く知られている。
しかし会議の報告では魔物がこれまでのルールに従って動く個体とそうでないもの。つまりこれまでとは違う動きをする個体が存在すること判明。また現状ではそれに関しての法則がわからないことも各師団の報告によって明らかになり、各師団の責任者は報告が終わるたびため息をついた。
第5師団の説明が終わり4名の報告者が退出した後、責任者4名で今後の対応についての検討に入った。
調査の継続が必要なことは4名全員がすぐに同意した。しかし各師団共に通常業務と並行して行っていたため、金銭的、人的な負担大きく、また場所によっては兵士を1割程度失った師団もあり、さらに話し合った結果、現在行っている大規模での調査は一旦休止、これからは特に介入が必要だと思われる地点に各師団で200名前後を送り込むことを軍部の意志とし、議長である第4師団が国に報告することが決定した。
検討すべき項目がまとまって会議が終わる頃、「そういえば第5の2名が死んだ件と、その場でモドキを殺した男がいるっていう話を知っているか?」と第2師団の責任者が唐突に話始めた。
「その話はわたしの耳にも入ってる。が、なぜ今それを?」
第4師団の責任者であるスツリツトは、嫌な予感を胸に第2師団の責任者に告げる。
「知っているなら話は早い。そっちは東部だろ? 今回の遠征で確認してくる必要があるんじゃないかと思ってね」
「2人死んだだけでわざわざ? それにモドキを簡単に殺しただのという不確かな情報のために時間と人を割く必要はないと思うが」
こいつ何を急に言い出すんだ? と思いつつもスツリツトはできるだけ平静を装って返した。
「あるね。国が把握していない人物がモドキを一瞬で殺したんだぞ。それに元々東部はそっちの専門だ。色々と都合もいいだろ」
「おいおい、だからと言って」
スツリツトが立ち上がろうとすると、まあまあと。第5師団の責任者が間に入る。
「元はうちの揉め事だ。こっちも人を出すよ。ニガレルンで40名程合流できるよう手配はしてあるんだ。だからそうだな、今回第4は150でいい。その分他に回せるじゃないか」
こいつら……。元々話を合わせていたな。スツリツトは第5と第2の責任者を一瞥した後、じゃあ、と第3の責任者の様子を確認すると、我関せずといった風に報告者が作ったリストを凝視していた。
やはり第3のことはいまいちわからないな。しかしわざわざ40名も出すだと? しかもニガレルンに駐屯している兵を? 第5の責任者はバカではない。第2はバカだが。その第5がそんなことを提案するっていうことは、それ以上の価値か負担っていうことだ。そうか、実際生き残ったやつらがいると聞く。第5は直接そいつらから話を聞いているんだろう。もしかしたら思っている以上に。
スツリツトは様々な可能性を考えたが、結局拒否したとしても合議制による投票で賛成2反対1棄権1になるのは目に見えており、これ以上揉めても無駄だと判断し、了承する旨を伝えた。
「行くのは行くが、そっちの生き残りの3名を貸してくれ。実際現場を見ているやつがいたほうがいい」
「ああ、それはかまわない。動けるようにしておくよ」
「じゃあ、よろしく頼む」
第5師団の責任者が笑みを浮かべながら手を差し出すと、スツリツトは無表情で握手をしすぐに手を離した。
「わざわざオーステインまで行くんなら、始祖の確認もしたいんだが」
「いいんじゃないか。定期確認には少し早いがそれはまかせるよ」
「わかった。では確認にはニガレルンの40名を使わせてもらう」
「おい、何を言ってるんだ? それは元々お前らの仕事じゃないか!」
第2の責任者は席を立ってスツリツトに詰め寄るが、「うんうん、まあいいじゃないか」と第5の責任者がいさめる。
「そうだね、どうせあそこまでいくんならついでにやっておきたい気持ちもわかる。それはこっちで通しておくよ」
ほら、もう終わりだ。第5が第2の腕を引きながら部屋を出た後も、第3はぶつぶつと何か呟きながらリストを見ており、スツリツトは、この辺でよしとするところだな。と席を立った。
会議を行っていた中央棟は、第1師団の区域にある数百人が収容できる建造物で、その上部に第2と第3、下部の街側に第4と第5師団専用区域と分けられている。
また第1師団から第5師団までを総称して軍部と呼んでいたが、各師団で秘密裏に行う業務もあるため、同じ軍部といえど師団員同士が区域を行き来することはめったになかった。
調査の継続は必要だ、それは間違いない。中央棟を出たスツリツトは月明かりの下、自らの第4師団区域までの道を歩いていた。
今のモドキの状態は明らかに不自然だと思う。しかしさっきの調査は別だ。確かにモドキを殺せる等おかしな話であるが、今さら行ったところで意味がないだろ。仮にそんなやつがいたとしても……。まあいい、もう決まったことだ。とりあえず今の1,000人から150人を選別だな。兵の反応を思うと最初に1,000人を選ぶ時と同じぐらい、いやそれ以上揉めるな。モドキの動きがわからない調査など誰がやりたがる? 今後の業務との調整も必要だしな。
スツリツトは第4師団8,000人前後からの1,000人の選別と調整を任せた副師団長補佐とその部下の顔を思い浮かべた。
あいつらなら上手くやってくれるはずだ。結婚して家族がいる者も多いと聞く。集団を維持するにはその辺りも無視はできないだろう、まあわたしには縁遠い話だが。
13歳で師団に入隊したスツリツトは21歳で副師団長、翌年には師団長に抜擢され、現在28歳になっていた。女性の師団長は珍しいことではないが、その年齢は40、50代が多い役職者の中では前例がなく、そのせいでスツリツトにとって不快な出来事が多くあり、それは今も継続している。
とにかく今日はもう遅い。このまま師団で寝て明日詳細を考えよう。
第4の区域に入ったスツリツトは、玄関先にいる見張りの兵士に軽く挨拶した後、明日の朝食をどうするかを考えながら自室がある師団の建物に入った。
会議から翌々日、編成を終えた第4師団計150名、第5師団の3名はニガレルン経由で38名と合流し、計191名でオーステインに向けて進んだ。




