第67話 決まった分量で調節してると思う、多分
「もう少し右に角度をつけて。そう、それです。そしてそのまま進んだ後に緩めて。あ! 下の川忘れてた」
やりづれえ。なんだよこの無駄な二人羽織状態は。
個人に依頼を提出した後、これからのギルド生活のため地図を模写している吉井の横でみきが指示を出していると、背後から「おい、邪魔だからどけ」という声がしたので、2人は作業を止めて振り返った。
「お前らランクどこだ?」
邪魔だからどけと言った男は、吉井とみきを値踏みするように見ており、その横で邪魔だからどけと言った男より体格のいい男が地図を眺めている。
「吉井さん。この人達明らかに見えてますよね、地図」
「いや、見えないからどけ。って言ってないから。あくまで邪魔なんだろ、いいよ別に」
みきは横に移動しようとした吉井の二の腕を掴む。
「斜めから見ると角度的に縮尺がおかしくなるような気がしません? やっぱり一定の場所からやったほうがいいですよ」
「まあなあ。じゃあこの人達行ってからやるか」
「先にいたわたしたちが譲る必要ないと思うんですけど」
そう渋るみきをなだめながら、吉井が近くのベンチに座ると、地図の前から移動してきた体格のいい方の男が、「そこはおれが座るからどけ」と言い吉井とみきの前に立った。
2人いてどっちも同じ感じかよ、それはちょっとなあ。吉井は邪魔だからどけと言った男と体格のいい方の男を見比べる。
「あの吉井さん。これ絡まれてるってやつですよね? わたし日本でもこっちでもここまでモロのやつ初めてなんですけど」
「おれも初めてだ。正直動揺しているよ」
「でも2人いたらどっちかは止め役か、同じ絡むにしても違うやり方で、暴力系と精神系っていうか」
「あー、それはおれも今思ったよ。最近ではあんまり、ああー、でもこっち時代背景的には最近っていうのが」
「おい、さっきランク聞いただろ、さっさと言えよ」
邪魔だからどけと言った男がベンチ前に来て、体格のいい方の男と並び吉井達を見下ろして言った後、ベンチを下から蹴り上げた。
おいおい、ベンチに座ってて下から衝撃なんて初めて受けたぞ。吉井はそう思って一瞬腰を上げると、みきも同じように中腰になっている。
「わかった、そっちが言ったら言うよ」
吉井は邪魔だからと体格がいいを手で制しながら、ギルド窓口の方を見ると、目が合った職員は全員視線を逸らした。
そっちね、わかった。じゃあそうするよ。吉井が方針を決めてみきを見ると、あたふたしながらベンチから立つ、そして座るということを繰り返していた。
「しゃあない。外でつええするわ。ミナトロンのせいでこの能力あんまり使いたくないんだよ、なんかいろいろ気になってさ」
「ああ、よかった。つええしてくれるんですね。正直慌てる感じも若干わざとだったんですよね」
吉井は、だろうな。と思いつつ邪魔と体格を外に連れ出すべく話合っていると、いつのまにかみきが横にいた。
「ねえ、吉井さん聞いてるだけで大丈夫なんで。等級当てやりません? この2人のどっちが高いか。ああ、そっか選ぶ方決めとかないと。じゃあ高い方を当てましょうか。もちろんただ当てるだけじゃないですよ、いろいろ当番を賭けましょう。そうですねえ、1ヵ月。うん、1ヵ月で。で、どっちだと思います?あー、そうですね。うーんとじゃあ……。この2人の、そうだなあ。マッチョのほう。あー、でもどっちもマッチョか。んー、じゃあ後から。あ、すいません。最初に声かけた方が高いと思ったら、オッケーサインを右手で作って下さい。わたしと被るかどっちも同じだったら引き分けです。はい、どうぞ!」
「ごめん、日本語が横から混じるとややこしいし、途中からあんまりわかってない」
吉井は出来る限りすまなそうに言った。
「この段階でやっておかないとだめですよ。だって吉井さんつええでわかるかもしれないし。あ、それともパートナーをだますつもりなんですか!」
あれ? 関係性ってパートナーだっけ。丘で話してた時だよな、なんかそれっぽいの。まあいいや、後で思い出そう。吉井は意識を邪魔と体格に戻した。
「こっちは6級と7級だ。そっちはどうなんだ?」
体格がそう言ったので吉井が口を開こうとすると、みきがスッと吉井と2人の間に入る。
「こっちは両方10級。さっき初めての依頼を受けたばっかりです。だからその辺も含めて」
みきは邪魔と体格を見据えたまま、親指で後方の入り口を指した。
「外でやりましょう。ここにいてもしょうがないですよ」
こいつこれ見よがしに決めシーン作りやがって……。吉井はそう思いつつ2人と話し、4人で正面玄関から外に出た。
昼休憩を取るため資料室に入ったサエランが窓を開けると、吉井とみき、また先程窓口で揉めていた計4人が見えた。
道からの視線か、環境的な要因かサエランにはわからないが、ギルドと道の間には木が植えられており、女は建物にもたれ、残りの3人は木の傍の街道側で話している。
揉めるだけ揉めて結局これ? 窓を少し閉めようとサエランが窓枠を見た後、再び視線を戻すと、先程依頼を出した黒髪の男の前に2人が倒れており、座っていた女が小走りで黒髪の男に近づいていた。
え、なんで今さっきまで。え、なにが?
サエランは慌てて窓を閉めた後、2人が喋りはじめたので再び窓を少し開けた。
「いやー、久しぶりに生つええ見たんですけど、改めて見るとやばいですねえ。素早いの概念を超えていますよ。まじで時を止めてるんじゃないですか?」
「いや止めるとかではないんだよ、あくまで止まってる風だな。しかし今日は上手くいった。両方意識失ってないよ。なんかこれまでの失敗を思うとちょっとした達成感がある」
「ちなみにどっちが強かったですか?」
「そうだなあ、6級と7級だっけか。まあ感想としては、正直よくわからなかったという」
「そうかもしれませんねえ。ほらカレー屋さんでも辛さの段階とかあるじゃないですか。そのさじ加減ってやっぱり5と6は違いそうですよね。真ん中だよー、これがうちの味だよーってことで差別化したくなるじゃないですか。でも6と7は作った本人食べてもわかんないですよ」
「そういう感じかもな。この人達どうする?」
「意識あるんなら置いといていいんじゃないですか。わたしたち悪いことしてないのにベンチの下から蹴られたし。あんな位置からの衝撃初めてですよ」
その後、当番をするしない等と喋っていた2人の声が聞こえなくなり、サエランが恐る恐る窓を開けると、先程の2人が痛みを訴えながら立ち上がっている様子が見えた。
サエランは、はあーと息を吐き、窓の下の壁にずるずるともたれかかる。
あの2人ってどういう。なんていうか異常だ。言動の意味が全然わからない上に登録者2人を一瞬で。あれはヨシイと書いてた男がやったんだろうか。
それに6級と7級が違いないって言ってたけど。6級から魔物討伐の依頼が発生する兼ね合いもあって、一番下と差があるって言われてるのに。それがわからないってどういうことなの……?
サエランは今見たことを報告するか迷ったが、2人の得体の知れなさからとりあえず保留することにして午後の仕事に戻った。




