第66話 6個の壺、2の壺3の壺
1時間程度サンドイッチ屋で過ごした吉井とみきは、ギルドの人の出入りが多くなってきたのを確認した後、今行きたいのはわかるが、やはりテンションが上がって判断能力が下がっている可能性が高いので、もう一つ注文して半分ずつ食べてから行くのがちょうどいいのではないか。というみきの提案を吉井は了承し、さらに15分程度経ってから2人は席を立ち、ギルドに向かった。
「ねえ、吉井さん。お使い系のいいのあります?」
ベンチに座って一枚ずつ依頼が挟まっている形式のリストを読んでいる吉井は、これぐらいかな。とみきに渡そうとしたが、あぶないあぶない。これをやったらまた文字がどうのこうので時間がとられると気付き、ページを開いたまま横に置いた。
「結構前と変わってるわ。思ったより更新頻度高いのかも」
「吉井さんの主観頻度感はいいですから、内容を教えて下さいよ。あとできれば近い場所でまとめて欲しいです。あっち行って、また戻るみたいなのしんどいですから」
えー、その辺も考慮すると。吉井は横に置いていたリストをめくり、ページの端を小さく折っていた数件を確認した。
「きみでもできそうなの、は。まずこれ、雨量調査だな。多分ススリゴさんの農場とかああいうとこまでで、街の外には出ないやつ。で、指定されてたポイントに公式で使ってる壺みたいなの持って行って一定期間後に回収するらしい。後は、これいいんじゃない。川の水質調べるやつ。これも指定ポイントで川の水汲んで持ってこいってさ」
「もろに水で被ってるじゃないですか。どっちがどっちなのかわからなくなる気しかしないんですけど」
「いや、さすがに調査ごとで違う壺使うんじゃない。調べる方もわかんなくなるし、それで場所的には」
吉井は1階中央にある都市周辺の地図の前に移動し、ほら、こっちに地図あるから。とリストを見ながらみきを手招きした。
「やっとこの周辺を理解したのに。新しい場所頭に入れたら忘れちゃいますよ」
みきはぶつぶつと言いながらみきは吉井の横に立つ。
「ここが、ええと。水汲み。あとここ、ここもか。で、計3箇所ね。で、ここ。あとここ、そしてちょっと離れたそこが雨量調査。だから、最初の水汲み行ったあと、こことここに雨量調査の壺置いて、こっち2つの水汲むとしたら、もう離れたとこの雨量調査のとこともそんな遠くないし。で、戻ってくればいいんじゃないの?」
吉井はリストを何度も確認しながら地図を指差した。
「ちょっと待って下さい、大体雨量調査って無理ですよ! 一旦置いて何日か後に取りに行った時、壺倒れてたらどうするんですか! ウサギだっているんですよ!」
ウサギだって。って言われても……。ああ、ウサギが倒すってことね。こいつにとってウサギってそういう動物なんだな。
「あ、じゃあ。埋めとけばいいんじゃない? 倒れないようにさ」
埋めとけばって、そんな。みきは両手をぐっと握りしめプルプルと震わせる。
「手間もかかるうえに、あんまり埋めると雨水流れこんで正確なのとれないし、かといってもうちょっと浅くすると壺だと分からずに馬とか人が蹴っちゃいますよ! ちゃんと出しとけば、ああ、壺だな。雨量調査かな? って避けてもらえたかもしれないのに!」
あーあ、完全に入っちゃった。吉井は半ば諦めながらも、「じゃあさ、1個の壺だけじゃなくてさ。2の壺、3の壺を用意しておけば。どれか残ってればいいんだから」軽く折ったリストの端を丁寧に伸ばしながら言った。
「それだとわたし何壺持って行くんですか! 絶対途中で割れますよ! それになんですか、ニノツボ、サンノツボって。当たり前のように言わないでください、そんな壺ないです!」
そういう言い方はしてないけど……。まあ確かに最低6個プラスはきついな。あ、そうだ。ふと思いついた吉井は、個人と書いた窓口を見た。
「ちょっとさ。人雇ってみない? 求人を出してさ」
「ほう、人を、雇う?」
ふうふうと肩で息をしていたみきは徐々に呼吸が緩やかになる。
「最初に受ける求人募集のために求人を出す。いいですね、それ。面白そうですよ」
「よかったよ。きみの面白さの基準には合致したんだな。どっちにしろ、とりあえず先に水の依頼受けて来るわ」
吉井は前回同様、国防(特殊)の列に並んだ。
「……はい。わかりました。これと、これですね」
サエランは吉井が希望する依頼を書類に書き込みんだ後、その書類を吉井の前に置き、登録番号とサインを記入するよう求めた。
あ、そういえば番号ってあったよな。何だっけな、イチローで覚えてたんだけど。吉井は考えたが思い出せなかったので、「すいません、すぐ戻るんで」と言って席を外した。
「ごめん。前言ってたマイナンバーみたいな番号なんだっけ」
吉井はハードカバーに入ったリストを真剣に読んでいるみきに訊いた。
「ありましたねえ。そう、うーん。わたし、は・や・い、で覚えてたんですけど、今となっては何がどう『はやい』のかがさっぱり」
ハードカバーを持ったまま顔を上げたみきは、はやい、はやい、と遠くを見ながら口を動かす。
「あ、そうか。それで十分だよ」
「え? 吉井さん思い出したんですか?」
「おれイチローだけ覚えてたんだ」
「あー、なるほど」
みきはポンと膝を叩き頷く。
「そうだそうだ。ナム君のこと完全に忘れてましたよ」
「おれはイチローの足の速さを忘れていたな」
みきが下を覚えていてよかった。吉井はそう思いながら席に戻り、登録名『吉井』登録番号『769841』と記入し、渡すと、サエランは分厚いリストから吉井の名前と番号を確認した後、受理済と思われる内容のハンコを押して吉井に戻した。
「で、これからの流れなんですけど。横の建物に行ってこの紙を出して、終わったらまた同じ場所で報告するんですよね」
吉井は壁に貼ってあった依頼受注の流れを思い出した。
「そうです。依頼に必要な物品があれば、受注及び報告所から貸与されます。詳しくは窓口で聞いて下さい」
うーん、これ訊いたら怒られるかなあ。明らかに担当違うんだよなあ。吉井は少し迷った後、「あの例えば自分で依頼を出すときって、そっちの個人の窓口に並べばいいんですよね。先に紙に何か書いておくんですか?」そう言って遠慮がちに向かって左側にある窓口をちらりと見た。
「ああ、はい。それなら」
サエランは後ろの棚から紙を一枚取り出して吉井に渡す。
「これに必要事項を記入して窓口に提出して下さい。こちらで確認後、個人用のファイルに入ります。そして希望者がいた場合はこの建物の裏口にある掲示板に張り出されます。期限は1週間ですのでそれまでに掲示されなければ希望者がいなかったと思って下さい」
おお、助かった。これで大体わかった。吉井は丁寧に礼を言った後、みきがいるベンチに戻った。
「これに書いて出すみたいだな」
「ほうほう、そういう感じなんですね」
みきは持っていたハードカバーを棚に戻して吉井の横に座る。
大体は書けそうだけど。吉井はざっと記入欄を確認する。
「募集の内容ってあってさ。『壺を運ぶ仕事です』でいいかな」
「いいんですけど。あ、それだったら『壺を運ぶだけの簡単なお仕事です』にしません?」
「ああ、いいね。それでいこう」
後は、あー、金だ。吉井は自分が受ける依頼の紙を見た。
「おれらが受ける雨量調査が2,000トロン、もう1個の水質調査が1,200トロンなんだよな。で、『壺を運ぶだけの簡単なお仕事』の依頼の金額も決めないといけなくてさ。貰うのが合計3,200だろ? もう半分でいいんじゃないか。目的はランク上げだし」
「そうですね。1人1,000ぐらいが600になってもそん、まあ結構変わりますけど。でも高い方が人来ますよね。そうなった場合、つまり人が殺到した場合は面接ですよね?」
「まあ1人でいいからな。選ぶことにはなるんじゃない」
「ということは遂にわたしも選ばれる側から、選ぶ側に! えー。どうしよう。何聞こうかなあ」
ふ、ふふふ。みきはニヤニヤしながらメモ用紙と鉛筆を取り出す。
「じゃあそっちは任せるからさ。おれ申請出してくるわ」
多分、みきが面接のときにしたい質問って「これまで影響を受けたアニメは?」「敵側と聞いて思い浮かんだキャラクターと、その人物が言った印象的なセリフは?」とかだろうけどさ。無理だよ、だってこっちの人全員知らないもん。
吉井はみきを横目で見た後、個人の列に並んだ。




