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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
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第65話 それでかわせると思った?

 

「はあはあ、吉井さん。全然動く気配、はあはあ、なかったんですけど」


 みきは自身の上半身と同程度の大きさのギルド玄関の取っ手を、うんうん、やあやあと力一杯何度か引いた後、諦めて玄関前の階段に座り込んだ。


「営業時間外なんだなあ。正直何時から開いてるのかもわからんし、わかっても時計ないから意味ないけど」


 吉井はパーソナルスペースを意識し、いつもより間を取ってみきの横に腰掛ける。


「サンドイッチの店も開いてないんですねえ」

「まあメインの客が役所行く前か行った後の人と、役所の休憩時間の人だろうから開いてる時間じゃないと効率悪いんじゃない」


 あ、ギルドじゃなくて役所っていっちゃったよ。吉井は訂正しようとしたがみきが何も言わなかったのでそのまま流すことにした。


「あの、わたしたちなんとなくいつもの朝って感じで出てきましたけど、よく考えたら新しいことするからテンション上がった結果、多少早起きしちゃって普段より早く出ちゃったんじゃ」

「うーん、どうだろう。それは何とも言えないな」

「ねえ、吉井さん。別にいいじゃないですか。恥ずかしいことじゃないですよ、初めてのギルド依頼で興奮して普段と違う様子になっちゃうってのは。誰だって多かれ少なかれそうなりますから。でも、そんな自分を認めない、その感情を否定するっていうのは恥ずかしいことだと思います」

「でも毎日行ってたっていうんなら、早起きとかの時間の具合も比べられるけどさ。今日だけで判断っていうのは」

「だって何回も行ってるじゃないですか。ギルドには」

「いや、行ってるけど大体午前の仕事終わりだし条件が違うっていうか」

「ふふ、条件、か。平和ですね」

 みきは上空を舞う鳥を掴もうと手を伸ばす。


「ギルド職員がそんなことを考えると思います? 大体昼前に来てた2人がですよ。初回依頼の日に突然開店と同時に来て、まあ多分依頼の内容見ながらわいわいやりますよ、わたしたちは。でもわたしたちの通常運転のわいわい感ギルド職員知らないですよね。そうなってくると、あ、こいつら普段昼前に来るのに初回依頼だから張り切ってオープンと同時に来てる。あー、わいわいやってるよー。初めての依頼楽しんでるよー、しかも見て? 男は結構年いってんのに、その感じってどうなの?ってなるでしょ」


 なるほど、そういう視点ね。吉井は対応者をサエランや何回か見たことある職員に設定して想像した。


「よし、最悪の事態を想定してそれを認めよう。恥ずかしいことに気付かなかった自分が恥ずかしい。ギルドに行く時間は調整が必要だな」

「いいでしょう。お馴染みの寛大な心は今朝もわたしにあります。あ、そこ開きましたよ」

 みきはサンドイッチ屋を指差した。


「じゃあ軽く食べてから行くか」

「しょうがないですね。時に節約より大切なことがあります。そして今回のそれは今後のギルド内での立ち位置の確保だった。それだけです」

 みきは布袋から小銭入れを取り出して中身を確認する。


 その様子を見ていた吉井はみきの考えがなんとなくわかった気がした。


 はいはい、そっちね。おそらくだがこいつはサンドイッチ屋に行きたかったんだろう。でもちょいちょい節約の話をおれにしてたし直接的には言いづらかった。それでこんな大がかりな仕掛けを。

 でも結果的にはこいつの言う通りかも。確かに初回だけに何かが起きておれらは騒ぐし、何も起きなくても多少は騒ぐ、それは避けられない。ならばギルドに入る時間をずらしていつもの雰囲気を事前に出すしかない。それで職員からの冷めた視線を少しでも温めるというか和らげるんだ。


 と、納得しようとしたがそんなことあるか……? 吉井はサンドイッチ屋に向かうみきの背中を見つめながら、自分の考えを一瞬で見直した。



 就業前、ギルド2階の資料室で本を読んで過ごしていたサエランは窓の外の会話が気になり、本棚に置いていた眼鏡に手を伸ばす。


 あの特徴的な話し方。多分黒髪の2人組、また来たんだ。サエランは本にしおりを挟んで窓際に立った。



 以前、資料室は唯一ある窓を本棚でふさいでしまっていたせいで常に薄暗く、そのため資料を探す時は扉を開けて廊下から入る光でなんとか光量を確保していた。

 サエランはふとしたときに見つけた資料室にある長椅子が気に入り、就業時間前と昼休みを資料室で過ごしていたが、この場所で本が読めればとの思いから、現在の資料の探しづらさの改善及び定期的な換気による本の保存状態の向上という名目で、資料室にある窓を活用する提案を直属の上司に提案した。


 上司は、自己主張せず言われたことを黙々とこなすタイプだったサエランの提案に驚きつつも、自分では決められないという理由で上層部に上申し、最終的に支部長まで上がった後に再び下に降りてきた結果、決裁は得られたが作業を行う人員の目途が立たないと直属の上司はサエランに告げた。

 諦めきれなかったサエランは、自分1人で行うことと、それに対する報酬は必要ないと上司に再度提案し、許可自体は降りているので報酬がなければ問題ない。との返答を得たサエランは、資料室の寸法を測って本棚の位置を決めた後、毎日の仕事の後、少しずつ本を取り出して準備を始めたが、棚の移動だけは1人で行うことが出来ず、サエランの唯一の友人であるリュに頼み込み2人で運んだ。


 作業を初めて約1ヵ月後、最後の本棚の配置を2人だけに通じる冗談(主にサエランの友人がサエランの胸の大きさと、年の割りに大人びて見える点を誇張して表現していた)を交えながら終えた2人は、最初に窓を開けるという行為を笑いあい手を叩きながら行った後、用事があるから帰らなければならない、と寂しそうに言うサエランの友人を、サエランは1階の玄関まで降りて見送った後、再び資料室に戻った。


 以前から使用していた1人用の長椅子を、サエランは1人で押して窓際まで移動させ、長椅子に座った時に手が届く位置の本棚を少し空けて、いつも使っている飲み物用コップを置いた後、サエランは少し下がって全体を見た。


 ほんと疲れた。時間も掛かったし、けど。


 日が沈む時間が近づいており、休日に朝から作業をしていたサエランは早く帰って休まなければと思いながら、椅子に横たわって目を閉じる。


 外からは仕事を終えた人達の賑わいと少しの風が入り、数分程度まどろんでいたサエランは光を感じ目を開けると、窓の隙間からの夕日が細い線となってサエランの体の上を通り本棚と天井に沿って折れ曲がっていた。


 けど、やってよかったな。サエランは光が通る位置から体をずらし、今度は眼鏡を取って目を閉じた。


 その後、サエランは資料室で過ごす時間が長くなっていったが、元々古い本の匂いと埃のため他の職員から敬遠されていた場所であったため、必要時以外に近づく職員はいなかったが、資料が探しやすくなったことは皆に喜ばれ、サエランはその度に何とも言えない表情で、役に立ったのならよかった。と返した。



 やっぱりあの2人だ。窓から吉井とみきが何かを話していることを確認したサエランは、再び本を開いて椅子に座った。


 あの人達、前回登録したばかりだから初めての依頼になるんだろうな。でもいつも昼前に来てたのに今日はこんな早い時間から待ってるなんて。サエランはこれまでの初回依頼におけるトラブルを思い出した。


 大抵、複数人で来てて盛り上がってる人達なんだけど。やだな、わたしの所で面倒なことになったら。なんか見ててこっちが辛くなることもあるし、普通にやってくれればいいのに。


 サエランは問題が起こらないことを祈りつつ、本の続きを読み始めた。


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