第63話 先端と点と線と
食事を初めて数分後、吉井が会話の流れを誘導してコミュニティで起こった解答編の話をすると、
「それですか、もう大分前にピーク過ぎてるんですけどね。とりあえず吉井さんの答えを聞ききましょう」とナイフを吉井に向けた。
ああ、だめだ。ナイフの先が気になって。あー、きっつ。なんだこれ、めちゃくちゃぞくぞくして見れない。まじか、やっぱり気のせいじゃなかった。完全に先端だ。おれ先端だめになったんだ。これあれだよな、先端恐怖症ってやつだよな。
吉井は先端恐怖症として過ごすこれからの生活に不安を覚えながら、自分の考えを話始めた。
「……で、最後のDね。あそこで今さら能力の話をしたのは、あいつがあの瞬間に無駄に使う理由付けと、自分に注意を向けたかったんだと思う。だからその辺から考えると」
吉井がふとみきを見ると、布袋から取り出した紙に熱心にメモを取っており、おいおい、ピーク過ぎたんじゃなかったのかよ。と思いつつ吉井は説明を続けた。
「すまん、ちょっと長くなったけど。大体こんな感じだったのかなと」
一通り説明を終えた吉井は果実酒が飲みたくなったが、金を使いすぎると文句を言われる気がしたので我慢することにした。
「いいじゃないですか。うん、よくまとまってますよ」
みきは鉛筆を置きぱちぱちを拍手する。
「特に能力を使った状態で石を握ったら潰れるんじゃないかってところは検証する必要がありますね」
そこかよ……。吉井はいつもの店員が通り掛かったので、終わったよ、下げて大丈夫だよ。というアピールを込めて定食の皿を端に寄せた。
「でもいろいろ言ったけどさ。結局ね、全部仮定なのよ。こうだからこう? そしてこう? みたいな。だからおれ思うんだけど、こういうの答えから考えてもいいんじゃないかって」
「ほう? 答えからというと」
「ミナトロンが何かのために嘘付いたり無駄なことした。これが正しいという前提ね。それをする意味って、ミナトロンが自分に不都合なことを知られたくなかったか、おれの何かを知ることで利益を得たかった。このどちらかしかないと思うんだよ」
なるどど。みきは鉛筆の後ろでトントンとテーブルを叩く。
「確かに過程はどうでもいいですもんね。説明者が嘘の満足でお腹を満たすためだけだし。それで実際その場にいた感じではどっちなんですか?」
「知られたくなかったんなら成功だな。おれよくわかってないし」
「それはどうですかねえ。吉井さんは今はわかってないですけど、今後重大な局面で、あ! あの時のあれがこうだったからこうだ! みたいにうまいことやり過ごして、ミナトロンが「やっぱりお前知っとったんかい!」ってなる可能性も」
「何とも言えないなあ。でも結局今はわからないから気にしないでおくよ。逆におれの何かを知りたかったんだとしたら、つええか日本人かしかないからさ。この辺は最悪ばれてるぐらいでいいと思うよ」
「あー、そうですねえ。良くて今は疑ってて次確かめてくる、って感じですね。じゃあミナトロンと会うときは日本語使わないほうがいいですね」
みきはふむふむと頷きながら書き足した後、紙を折りたたんでテーブルの上に置いた。
「それってさ。きみが昨日トイレの前で考えたのも書いてんの? 点が線になるって言ってた」
「あ、はい。そうですね。まあわたしのはいいじゃないですか。でも吉井さんの考えはわかりました。まあ範囲広すぎだとは思いますが、一応答えとして認めましょう。だから約束通りそろばんと同等、もしくはそれ以上の企画が立ち上がるまではギルドのランク上げ手伝いますよ」
「おお、いいね。んで、それは?」
吉井はみきが持っていた紙に手を伸ばす。
「はいはい、見せますから」
みきは鉛筆を置いてテーブルの上で紙を広げた。
「ここで拒否して後で見られるっていうのは本意ではないですからね。わたしは何も恥じることはしていないですから」
「そうか、じゃあ」
吉井が身を乗り出して紙を見ると、昨日のABCDとEXの後に、吉井が今日言ったことの要点、そして最後に『ミナトロンのつええ、もしくはよええ? 吉井さんのつええ?』と書かれており、吉井は一瞬みきを見た後、再び紙に視線を戻した。
十分だ。点が点のままではあるが、正直内容なんてどうでもいい、結局想像だし。それよりもおれのことを、吉井ではなく吉井さんと書いてある部分。こういう人目につかないところでも敬称を付けている、これは重要なことだ。みきはおれの目の届かない休憩室とかで、吉井ってなんなの? 毎日肉厚定食用意して喜ぶと思ってんの? とかは言っていないのかも、おそらく、多分。
吉井は丁寧に紙を二つ折にしてみきに返した。
「きみも近い部分があるな。要はミナトロンが思ったより強いかもしれないし、思ったより弱いかも知れないということだろ? それと単純におれのつええに興味を持って何かをしようとした。うん、わかるよ」
「なんか言い方が気になるっていうか、イラっとしますね。なんですか、その。えー、その」
「ああ、無理しなくていいよ。いつものアメリカ人例え出てこないんだろ。仕方ないよ、そんな毎回毎回思いつかないって」
「だからそれが! ああ、もういいです。とりあえず帰りましょう」
みきは会計をするためにいつもの店員を呼んだ。
「ああ、いいよ。先行ってておれ払っとくから」
「あ、でも」
いいって。吉井は立ち上がってみきを制し、テーブルに来たいつもの店員に軽く礼を言った後に財布を持っていないことに気付き、いつもの店員に気付かれないよう小声で、ごめん、お願い……。とみきに支払いを頼んだ。
「よかったです。無様な吉井さんを見て多少わたしのイラつきも収まりました。あー、気持ちいい! 調子に乗ってた人が落ちるって最高!」
みきはそう言いながら小銭入れを取り出して支払いをし、早く自分で稼いで下さいよ。と手を振りながら店を出た。
おれはただ、ただうれしくて。それだけなのに……。吉井は、また来いよ!と声を掛けてきたイイマに会釈をした後、悲しみを胸に店を出た。




