第60話 ランプの場所
「どうしたんですか? まさか見えないなんてことないですよね、この点が線になっていく様が」
「そうだな。正直に言おう、見えない」
吉井はEXがどういった意味の略語かを考えるのに気を取られ、一連の流れが頭に入ってこなかった。
「まあしょうがないでしょう。わたしの柔軟すぎる思考が答えを呼び寄せたのかもしれません」
「で、どういうことなの?」
吉井は自分とみきのコップにお茶のお替りを入れる。
「思うにミナトロンは何かを隠したかったんですよ。だから理由をもう一つ作ったんです。ほら? さっきの答えはこれだよ。って目の前に出して注目しているところで、本当の答えをポケットにささっと入れたと」
「へえ、何を隠したの?」
「まあ、それは」
みきはコップを持って立ち上がり窓の外を見た。
「言えますよ、いくらでも。どんぶり一杯ぐらい余裕だし、なんなら盛り過ぎて軍艦からイクラもこぼれますよ。でも結局ここで言っても想像の域を出ないじゃないですか。だからミナトロンに直接聞くっていうのがいいと思うんですけど」
「いや、わかってないと一緒だろ。それ」
「いくらでも」の所でイクラの例えを思いついたんだろうなあ。落ち着いてきた吉井はメモに目を落とす。
A:能力の嘘
B:伝達のための時間稼ぎ
C:弓ではなく槍
D:今ここで能力の話する?
EX:廊下の槍
能力の感じ方が同じ、わざわざ場所を変えた、無理やり槍を使った、そして能力の説明をダメ押し。それと廊下のやつ、か。
とりあえずAの部分、要は能力使ったらみんな同じだよっていう嘘ね。つーか、これすぐバレるよ。でもおれ学校団地のとこで2回目だったからなあ。しかも大量にいたからいまいち掴めなかった。ミナトロン的にはあそこを誤魔化せたらいいってことか。
その次が槍ねえ。なんでかなあ。一応は『おれを認識していない行動は把握できない』ことを伝えるっていう理由あるけどさ。あの時は場の雰囲気に飲まれてたっていうか。冷静になってみれば、あいつ人のためにそんなことするかなあ。あ、そうだ。みきも言ってたな、なんで弓じゃないんだって。これはいわゆるあれかい? 槍を投げるために能力を使った、じゃなくて能力を使いたいから槍を投げたってやつかい? なぜなら、ええと、なぜなら、うーん、例えば弓とかだと能力出したら力も入っちゃって、ばーんって壊れるから?いやいや、んなアホな……。それだったら石でも投げればいいじゃないか。それ用にあの部屋に山ほど置いとけばいいだろ。ああー、でも石だったら掃除がしんどい、のか? 掃除、掃除ねえ。しんどいっちゃしんどいけど、槍の先曲がる方が直すのに金掛かるよな。いや、待てよ。力入ってるから石も握ったら割れるのか? まあいいや、今度石握ってみよう。
あのう、吉井さん。みきはメモを凝視している吉井の肩を叩いた。
「深く潜って考えてるところすいませんが、やっぱり明日もう1回コミュニティに行って解答編やりません?」
「いやいや、今が解答編だから。それに今日の感じを受けて明日また行くってどうかしてるって」
「えー、だってここで答え知っておかないと、後で不利になりますよ?」
「そうかもしれないけどさあ。さすがに明日はきつい。近々意外な場所で会うような気もするしそこで聞くよ」
「意外な場所? 例えば?」
そりゃあ、まあ。吉井は意外な場所をいくつか考えたが、ラカラリムドルの土地勘が無いため、イイマ食堂とギルド、今日の燻製屋しか思いつかなかった。
「今は意外じゃない場所しかわからない。でもよく考えろ。意外だぞ。今わかったら意外じゃないから」
「そう言われればそうですね。じゃあわかりました。明日行くのは諦めますけど、これだけは覚えていてください。わたしが、今日、今、この時、確かめておくべきだって言ったことを」
みきは、今日、今、この時と言う瞬間に力強くメモを指した。
「それはずるいって。その感じだとあいつ関連で不都合あったら全部おれのせいってことに。あ、それだったらさ。明日の朝にでもおれが答えを出すから。それで解答編にしてもらって、一応おれも頑張ったから、何かあってもそれはそれでしょうがないと」
「へえ。もしかしてさっき考えてたとき真相に辿り着きそうだったとか」
「割と近いところまでは来てたな。感覚的にはおれよりちょっと前に入った人が名前呼ばれたぐらいだ」
「……何の店ですかそれ?」
「まあそこは重要じゃないよ」
「もう、夕食後だけで2回目ですよ。「じゃあ、わかりました」を使うの」
みきはコップを皿に重ねた後、メモを手に取る。
「では明日の朝に吉井さんの考えを聞きましょう。それが正答だと判断した場合はギルド攻略、想像だと判断した場合はコミュニティに行ってもらいますから」
どっちみち判断が想像だけどなあ。まあいい、ここまで来れただけでよしと。いろいろ当番の吉井は席を立ち重ねた皿とコップを台所まで運んだ。
「それじゃあわたしはこれからトイレに行ってから寝ます。おやすみなさい」
みきは玄関まで行った後、「ああ、そうそう」と振り返る。
「明日吉井さんが起きたら、テーブルの上に『やっぱり確かめて来ます』みたいな書置きがあってわたしがいなくなってる。なんてことないですから。よかったですね、物分かりのいいパートナーで。じゃあ、また明日」
みきはドアを開けて外に出た。
よくわからんな。さっきのはフリなのか? ほんとに行くぞっていう。吉井は皿を洗った後、椅子に座ってぼんやりと暖炉の火を見ていた。
いや違うな。うん、あいつは絶対行かない。そっち方面の無駄なことはしない。違う意味で無駄なことはするが。
暖炉の火を消した後、薄暗い室内の移動に不安を感じた吉井は、ランプを持って2階に上がろうとしたが、みきが帰って来た時に1階に明かりが無いと激怒しそうな気がしたので、どこか安全な場所はないかとランプを持ってうろうろと部屋の中を歩きまわり、数分後に玄関のドア近くの壁から伸びていた金具を見つけた。
うん、これで大丈夫。この金具はランプをここに吊るせ、というやつだ。多分。
吉井は金具に引っ掛ける形でランプを固定し、安全性を確かめるためにしばらくランプを眺め、さらに自分で何度か揺らして確認した後、これは大丈夫、安全性に問題はない。と吉井は判断した。
今日は疲れたし、最後のランプでさらに疲れた。
自分がどれぐらい疲れたかを、今までの経験に当てはめながら自室に向かうため階段を登っているとき、吉井はふと思いついたことがあり、そのことについて少し考えた結果、まあ、大丈夫。それは大丈夫と、部屋に入るまでに何度もその考えを払拭しようとしたが、結局上手くいかなかったので、やっぱりおれもトイレに。という理由を付け加えることにより吉井は家を出た。
出し惜しみをしているわけではない。ただこんなことで能力を使う必要はないということだ。使用制限あるかもしれないし。
吉井は自らの身体能力のみを使い早歩きから駆け足と推移しつつ、時折道の両側を挟むように建っている住宅から薄暗いランプと思われる光が漏れる中、トイレがある方向に向かった。
トイレ設置してある松明が見えた時、これまでみきとすれ違わなかったことから、吉井は自分の考えをいくつかのパターンにわけ対処法を考えていると、道端で座り込み、メモを熟読している様子のみきを見つけた。
ふう、いたか。吉井はペースを落とし呼吸を整える。
「あれ? 吉井さんもトイレ?」
吉井を見つけたみきは座ったまま吉井を見上げた。
「ああ、うん。というか何してんの?」
「明日のための予習? あれ、これは復習ですかね。どっちにしろやるべきことをやる。それが判断する側の責任ですよ」
「いいんだけどさ、それを別の方向にだな」
といっても別なんてないのか、ここでは。吉井は両手を腰にあてて大きく息を吐く。
「わたしだって色々と考えた結果ですよ。それに家だとランプ1つしかないし、いまいちオイルの入手方法もわからなかったので」
「そうだな。オイルについては今度ススリゴさんに聞いておこう。で、いつまでやんの?」
「そうですね。わたしなりの答えが出るまで。朝になってもわからない場合はあきらめますけど」
そういうことねえ、まあいいか。吉井は頷いてトイレに向かう。
「あ、それでもおれは明日コミュニティに行かないからな。それこそ色々考えた結果」
吉井は足を止め振り返ってみきに言った。
「わかってますよ。だってそういう所がいいんじゃないですか」
みきは笑ってそう言い、メモに視線を戻した。




