第57話 最後の方だけ目を通せばいい能力説明の話
意識できる範囲の面積を数値化した場合、それは概ね身体能力等にも比例する。
ミナトロンは以前から能力を持っている人間の調査を、私財を投じて個人的に行っていたが、コミュニティに配属され予算と人材を使えるようになったことによって、その調査効率は以前より飛躍的に伸び、対象者は実験を含めこれまで数百人に上っていた。
ミナトロンが詳細を把握しようとしている能力の項目は大きく分けて3つ。
①意識できる範囲には固有の形があり、届く距離は本人調整が可能。
②その形成要因は先天的なものと後天的なものがあり、また身につけた経緯及び人物によっても変動する。
③ある程度の能力を使用した状態になると、その人物の意識は同程度以上入れる人間に届く。
それを能力の前提部分、範囲の数値と身体能力に関連付けていった。
国は基準で数値化された能力及び固有の形について、国家の中枢で勤務する者、正規の兵士、ギルド登録者の3級以上であれば把握しているが、兵士以外は本人達の希望がないかぎり公にはしていない。
ミナトロンが殺したコミュニティの男は、後方特化型で以前軍隊では重宝されていたようだったが、ミナトロンからすれば兵士になり自分の能力の範囲、形を知らせるなど論外だった。
しかし多くの人間は気にせず自分の力を誇っているというのが現状であり、ミナトロンはその情報を最大限自身の活動に利用していた。またミナトロンは形成要因についても興味を持って調べていたが、以前の双子の検証で国から口頭で警告を受けていたため、現在は一旦休止し状況が整い次第再開する予定となっている。
そして今回ミナトロンが吉井に行った検証はミナトロンが最も重要視しているもので、その人物の能力の数値化、また形を探るものだった。
実際に対峙した場合は、雰囲気である程度の部分は掴めるが(ミナトロンはそれを重さで表現している)対峙した人物の感覚によるところが多く、他人に伝える際に齟齬が生じるため、ミナトロンは国の基準を踏まえて意識の範囲で確認することにしている。また、その測定方法は様々なやり方を経て、当初最も非効率だと言われていた、一定の距離に人員を配置し、意識が届く者、届かない者を選別することで、大まかな数値を把握するという形に落ち着いているが、国では測定を室内、それも数人で行えているという話もあり、ミナトロンは独自に国のやり方を調べていた。そして本人の同意なく測定する場合、数十人に行った検証の結果『緊張感を高めた後の不意打ち』が実数値に近いことが多く、コミュニティ内で計測する場合は出来る限りそのタイミングで行うこととしていた。
「遅れて申し訳ありません」
外側にいた兵士の内の2人がゲストハウスに入りミナトロンに一礼した。
「ああ、いいよいいよ。で、君たちの誰かにも届いたの?」
互いに顔を見合わせた後、1人の男が前に出た。
「それが『外前』の6人には全員到達していました。こんなことは今までに」
「ん、6人? あの距離全員にか?」
ミナトロンはコップを置いて外側にいた兵士を見た。
「はい。ただ『外後』の6人には届いていませんが」
これまでミナトロンが計測した対象者の意識は、近い距離はその能力者を中心に円状、それが中心から離れるにしたがって、その人物特有の形で一方向に伸び、またそれは比較的利き手側に向かって伸びるというのが多く報告されていた。そういった意味では、広範囲にわたって後方に伸びていたミナトロンが殺した男は貴重な存在だったと言える。しかし吉井の場合は『外後』には到達していないものの『外前』6人全員が把握しており、それは吉井が全方向に意識を拡大できるということを証明していた。
元々大抵は『内側』の範囲内で収まっていたため『外側』と呼んでいる12人は例外の対応としているが常に一定数の人数を配置しているのに対し、内側は人員配置の都合もあり、測定の場所、及び測定者が変動することを前提に流動的に対応していた。
実際に外側を使う必要があったのは、ここ数年で国の要人が来た時に2度のみで(その際には吉井とは違うやり方で測定した)何度か外側に配置している人材を内側に使わせてくれないか、と相談をされたことがあったが、ミナトロンとしては内側は最悪の場合、測定できないことも想定しているが、外側にまで届く人物がいた場合は、必ず把握する必要がある。という考えから、外側は人員を厚くまた常駐で配置するということは譲らなかった。
「本当に間違いないんだな?」
外側の配置は前が0.5、後ろが1モラント。ということは、円状に伸びていたと仮定すると、総合値はかなりのものに。ミナトロンは吉井の数値の計算を始める。
「何度も確認しました。それについては責任を持って」
「ああ、わかったよ。では、君たちにも改めて言っておこう」
ミナトロンは部屋の奥に移動している最初に報告した兵士達にも届く声で言った。
「今回の件はわたしの独自の案件とし、記録にも残さないように。当然だがわたしは他に漏らさない。後はわかるな?」
そう言ってミナトロンは兵士を眺めた後、最初に報告した兵士のみを残して、その場を解散させた。
兵士達が足早に去った後、ミナトロンは最初に報告した兵士を座らせて、棚から取り出したコップに果実酒を注ぎ渡した。
「君とは長いよね、ここに来る前からだから」
「そうですね。もう10年ぐらいには」
最初に報告した兵士はグラスを傾ける。
「わたしには君が必要だ。だからこっちに来るとき一緒に出向してもらい、ここまでいろいろ手伝ってもらった。それでその君にとても重要なことを頼みたい。今日の男、オーステインの出身らしくてね。向こうまで行って調べてもらいたいんだよ。いろいろさ」
「はい、噂では聞いていました」
噂、ね。大分広まっているみたいだな。ナトロンの顔が一瞬ゆがむ。
「それと今から。いや、今すぐにやってもらいたいこともある。今いた兵士達を全員第1師団に送ってくれ」
「え……」
それを聞いた最初に報告した兵士は固まった後、震えながらコップをテーブルの上に置いた。
「今の兵士達。能力の確認のために育てたあの兵士達は貴重かと。それを一度に全員を処分というのは」
「本当にもったいないよ。人を集め、あそこまで育てるのに何年も掛ったからさ。また最初からだよ」
「ではせめて半分だけでも」
「わかるよ。君が責任者だったからね。でもしょうがないよ、こんなことが起こるなんてさ。君が悪いわけじゃない。じゃあ、頼むね」
ミナトロンのその言葉、表情を見た時、最初報告した兵士は諦めて深いため息をついた。それが最初報告した兵士にできる限りの抵抗であり、「その後、わかりました」と言って立ち上がった。
「すぐに頼むよ。あ、それとそのままオーステインに向かってくれ。そっちも急がないといけないからさ」
最初報告した兵士が一礼し部屋を出ようとした際、ミナトロンは少し迷った後、「何度もすまないが」と再び呼び止める。
「第1に行って引き渡した後、モリアリガっていうの呼び出して欲しいんだ。で、会えたらわたしの名前を出して欲しい」
「何か伝えるんですか?」
「そうだな。今度近いうちに会いに行くって言っておいてくれ」
「わかりました」
最初報告した兵士は頷いた後、家を出た。
ここまで来ると災害だな。しかしここで押さえておかないと、さらに被害が拡大する可能性がある。ミナトロンはビンに直接口をつけて果実酒を飲み、ふと思い出した。
そういえば言っていたな。ここを壊滅すると。なるほど、なかなかいい所をついてくるじゃないか。
ミナトロンは今後の対応を考えるため果実酒を手に取って自室に戻った。




