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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
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第56話 コミュニティ見学編(リスの首)

 

「ああ、来たか。ちょっと手伝って欲しいんだけど」

 ミナトロンは部屋の隅に置いてあった黒い布を広げており、吉井に布の端を持つように促した。


「え、布? 何するんですかこれ」

 部屋に入った吉井は言われるがまま布の端を持つ。


 いいね、大分リラックスできたよ。こんなわけのわからない場所で布を広げているが、文化祭の準備ぐらいのテンションだ。別におれがいなくなってもそれはそれでいい。うーん、もうちょっと続きをゆっくり考えたいんだけどな。しいていえばそのために生きてはいたい、っていうのはあるけど。


 吉井はミナトロンに説明を受けながら、カーテンレールのようなものを使って枠に布を張り付けた。


「よしよし、こんなもんでいいだろう」

 ミナトロンは壁にぽつんと寄せていた机を部屋の中央に運び、やることが無くなった吉井は傍にあった椅子を2脚両手に持って机の前後に置いた。


「ああ、助かったよ」


 ミナトロンは椅子を引いて座り、「ほら、君も」と吉井に座るよう促す。吉井は「ああ、はい」と言われるがままミナトロンの正面に座った。


 外からの光が黒い布によって遮られてた薄暗い部屋の中、吉井は部屋の中を確認するため視線を動かし、ミナトロンはそれを肩肘をついて眺めていた。


「君はさ。なんでこんなところまで付いてきたんだい? 逃げようと思えば逃げられたかもしれないだろ」


 それをここで言うか?吉井は座り直してミナトロンを見た。


「そうですねえ。おれはどちらかと言うと安全な方を取るんですよ。あと、正直双子の話を聞いて、少し怯えていたというのもありますけど」


 余裕を持ったおれはびびっていたことも肯定し、伝えることができる。そうかあ、これが自分を受け入れるってことだな。1歩次の段階に進んだよ、おれ。吉井は心の中で自分自身のために手を叩いた。


「なるほどなるほど。それは正しい選択だったと思うよ。まあ別に君が帰りたいって言えば、他のやり方で終わらして、すぐ帰したけどね」

「ほ、ほう……」


 吉井が他のやり方って? と思った瞬間、外壁に金属が打ち付けられる音が室内に響いた。


 え、なんだ、今の。吉井は能力を使おうとしたとき、みきが言っていたことを思い出した。


 全力が半分で、半分で全力か。後もう1個言ってたよな。なんだっけ、思い出せねえ。まあいいよ。ニュアンスはわかってるから。しかし難しいな、ざっくりとした目分量でしか。吉井が調整しながら集中すると、先程とは違うさらに多くの視線を感じた。


 なんだこれ、視線すごいことになってるぞ。もうこうなってくると乗り物酔いに近いものがって。あ、こいつなんかやったな!


 吉井はミナトロンを一瞬見た後、窓際まで行き黒い布を破り捨てた。


 あほか! 何だこれ!


 目の前には槍が十数本迫ってきており、もう1棟ある同じ作りの建物にはその槍を投げたと思われる鎧を着た兵士達が並んでいる。


 つーか、この距離なら弓じゃないのかよ。こんな重そうな槍を投げれるって。あいつらもミナトロンが言う、入れるやつらなのか? しかし、槍が邪魔で窓から出るのはしんどいな。それに槍ちょっとずつ動いてるし、なんか気持ち悪いんだけど。吉井は少しずつ迫ってくる槍を1本手に取った。

 

 あれだ、一旦壁に隠れて解除してだな。で、ばばばっと部屋の中に打ち込まれた後、第2射が来る前にスッと窓から出るっていう。よし、それでいこう。


 吉井が窓からの死角に立ち集中を解いた瞬間、槍が部屋の中にすさまじい音を立てながら降り注いだ。


 おい……。あんなもん食らったら即死だぞ。吉井が再び入った瞬間に、首元に槍の先が突きつけられた。


「なんとなくわかったかい?」


 やめてくれよ、慣れてないんだって。お前のその視線の嵐は。吉井は振り返ってミナトロンを見た。


「君はこの力について深く考えてなかったようだね。だから知らない」

「え? なにを」

「君やわたしのような入れる人間の索敵能力ってさ、相手がわたし達を意識していないと把握できないんだよ。例えばさっきの槍を投げた者達にはこう伝えてある。『黒い布が掛かってしばらくしたら、布に向かって槍を投げろ』と」


 は……? 普通にしてても危険が迫ったときには自動でロックオンするんじゃ。吉井はこれまでのことを思い返す。


 そうだな、うん。なんとなく歩いてる時、やべえって気付く瞬間もあったけど、言われてみれば魔物とかもこっちに気付いて攻撃してた。そうか、意識の拡大ってそういうことね。


「君のことを認識しないで危害を加えることって難しいよ。けど、いくらでもやり方はある」

 ミナトロンは槍を降ろした。


「じゃあ同じやり方をもう1度されても、おれは」

「そうだね。だって考えてもみてくれよ。君が目の届かない物も含め全部認識したらどうなる? 情報が多すぎて処理しきれないだろう。だから思うにこの能力は要らない情報を取り除くよう進化したんだよ。リノリスカの首が長いように」


 話の流れだとキリンっぽいんだけどさ。なんか音的にリスが強くてそっちをイメージしちゃったよ。というか、どんぐりは無いのにキリンはいるんだな。吉井はキリンの生態のことを考えながら、そういうことですか。とミナトロンに返す。


「ススリゴとは長い付き合いだし、そこで働く君には頑張ってもらいたくてさ。いくら入れるっていっても万能じゃない。そしてそれを知るのは実地での経験が一番だよ。後、うちの演習っていうか伝達網の確認でもあるけど」


 伝達網って。ああ、そうか、屋台だな。あそこで無駄に喋ってたけど時間を稼ぐためだったのか。それとこの建物の造りは演習用ということね、なるほどなるほど。


「あの、最初の1投目っていうか。あれがおれに当たったら」


 うん、それはさ。ミナトロンは笑った。


「それはしょうがないよ。安全な練習なんて存在しないから。でも思ったよりいい出来だった。君に気付かれず1本目が打てたからね。本来であれば全部放ってるから」


 いつでも、どこでも、やれるってか。なんだよその脅しは。ということは今すぐに殺す気はないのか? ああ、もういいや。なんか疲れた。吉井は持っていた槍を置いた。


「わざわざどうも。わかったんでもう帰ります」

「ああ、いいよ。こちらこそ試すようなことをして悪かった」


「じゃあ、またなんか機会があれば」そう言って吉井が能力を解除しようとすると、「あ、そのまま行ったほうがいいよ。廊下にも」ミナトロンは首を動かし部屋の外を示す。


 廊下って。もしかしてこっちも。吉井が部屋を出ると、先程と同様に廊下を埋め尽くす程の槍が宙に浮いていた。


 さっきの窓からのと時間差ってことはさ。吉井は再び部屋に戻り、ミナトロンに会釈して窓から飛び降りた。


 おお、やっぱり全然大丈夫だ。これまで高い建物なかったからなー、どれぐらいの衝撃なら耐えられるのか、いまいちよくわからんが。

 

 吉井はそのまま出口に向かって歩き出す。


 あいつ外からだけじゃ足りないって考えてたのか。その意味ってなんだよ。吉井は敷地を出るまでは解除しないことを決めた。



 ふ、はっは。まったく。吉井がいなくなった後、1人残ったミナトロンは吉井が置いていった槍を拾う。


 何を考えているんだ、あの男は。それまでは怯えが垣間見えていたのにこの部屋に入ってからは妙に落ち着いていたな。


 ミナトロンは槍が散乱している部屋を一瞥した後、吉井と同様に窓から飛び降りた。

 

 建物を後にしたミナトロンが最初のゲストハウスに入ると、そこにいた兵士達は姿勢を正しミナトロンを迎えた。


「どうだった?」

 ミナトロンはソファーに座り、テーブルに置いてあった新しい果実酒のボトルを手に取る。


「はい、今確認したところ」

 十数人いた兵士の中、1人が緊張した面持ちで答える。


「われわれ全員に届いていました。ですので、外に待機していた者をこちらに呼び寄せています」

「へえ、それはすごいね。形は?」

「計測位置が比較的前方寄りでしたので正しくは取れていません。しかし、あの区画からわれわれ全員が把握できるというのは……」

「そうか、まあ急だったからね。わたしが来る前の2人、名前なんだっけ。あれぐらいかな」

「はい。外側に確認は必要ですが、感覚的には同程度かそれ以上かと」

 十数人いた兵士の中の1人は、後ろにいた兵士に同意を求めるよう振りかえる。


 けっこう行った、と思っていたけど。そうだな、確かにあそこまでの感じはあの男以来か。ミナトロンは自分が殺した以前のコミュニティの責任者であった短髪の男を思い出す。


 ということはまともにやったら勝ち目はないね。ミナトロンは今日の成果と果実酒の味に満足した後、吉井のことを調べるためオーステインに誰を派遣するか考え始めた。


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