第52話 コミュニティ偵察編(つええかぶり)
吉井を誘導してきた兵士は、来客用と思われる平屋の前で、「この中でお待ちください」と言いドアを開けた後、その場から立ち去った。
スウェーデンハウスっていうんだっけ、木造のこういう建物。というかおれ一人にはちょっとでかすぎるんじゃないか? 吉井は少し迷ったがドアを開け室内に入った。
室内は2、30畳程度のワンルームで、吉井は有事の際の逃走経路を考えつつ部屋の中を見渡した結果、窓をぶち破って出るしかないという結論を得て、ソファーに座る。
わかるよ。おれのような家具に興味のない人間にもわかる。人をもてなすために頑張ったな、っていうのが。でかい窓とか、でかい絵とか、でかい照明とか、でかい壺とか。
ソファーに座っていた吉井は手持ち無沙汰のためおもむろに立ち上がり、でかい絵を眺めた後、でかい壺の前に移動した。
吉井がでかい壺の重さを確かめるため軽く揺らした後、プロパンガスを運搬する仕事をしていたことを思い出しながら、斜めにしてころころと前後に動かしていると、先程の兵士がノックして部屋に入り、「すみません。これを」と果実酒のボトルとコップを2つ置いて、吉井が壺を動かしていることに触れずに退出した。
ノックしてすぐ入って来るなら。吉井は壺を元の位置に戻してソファーに座った。
それノックの意味ないだろ! おれの返事を待てよ! 吉井は個人的な時間を見られた恥ずかしさを紛らわすため、果実酒のボトルを手に取る。
しかしこっちの人はずっと酒飲んでるな。大丈夫なのか? それとも人種的に肝臓が驚異的なアルコール分解を。あ、そうだ一応。吉井はボトルをクルクルと回しながら中身を凝視する。
なんか毒物的なの入ってないよな。正直こうやって見てもまったくわからないんだが。
吉井がさらに前後左右からビンを観察していると、「ああ、君ね。誰かと思ったら」突然室内に入ってきたミナトロンはそう言いながらドアを閉め、吉井の斜め向かいに座った。
「ああ、どうも。今日結構ギルド空いてて、思ったより早く終わったんで」
それはよかったよ。ミナトロンは果実酒をグラスに注いで吉井の前に置き、もう1つのコップにも入れたものを自分の口に運ぶ。
「で、壊滅はできそうかい?」
ミナトロンはソファーに体を預け、リラックスした表情で吉井に尋ねる。
勘弁して下さいよー。そういうんじゃないっすよー。まじであいつの勘違いなんすよー。吉井はそういった内容のことを言いながら果実酒を一口飲んだ。
大丈夫。外がつええなら内臓もつええはず。中途半端な毒物じゃどうにもならんよ。じゃないと話が合わないから。吉井は体に大きな変化がないことを確かめた後、もう一口今度は少し多めに飲んだ。
「でも君は持ってるんだろ。少なくともあの4人を一瞬で使い物にならなくするぐらいは」
ミナトロンは殆ど一息で果実酒を飲み干し、空になったコップに果実酒を注ぐ。
持ってる……? 現代日本からこの世界にきてつええし始めてるおれ。ある意味では持ってるのか。でも逆に持ってないからこの世界に来てるという話も。でも『あの4人を使い物に』だからなあ。あれか、通っぽい言い方で、能力あるんだろ? みたいなことか。
「そうですね。持ってると言えば持ってますが」
「それはどの程度なんだい?」
おいおい。自分の能力を人に言わないほうがいいことくらいわかるよ、ばかやろう。
「その辺はまあ、いろいろっていうか。人もいろいろ、能力もいろいろですよ」
「はっは。そうだよね。うん」
ミナトロンはそう言って立ち上がり、何かあったかな。と言いながら部屋の中を物色し始めた。
吉井は果実酒の入ったコップをテーブルに置き、改めて室内を見ると、部屋にはでかい絵以外にも小さな絵や中くらいの彫刻等が壁に沿うように飾られていた。
「この部屋のものはあなたが集めたんですか?」
吉井は近くに飾られていた芸術的な色使いの絵を見ながら言った。
「いや、全部貰い物だよ。芸術には疎くてね。違うな、疎いっていうのも言い過ぎだ。わたしはこういったものにまったく興味が無くてね。作ってる人間、喜んで買っている人間も含めて」
「なるほど。まあ好き好きですからねえ」
吉井は視界の端にミナトロンが入るよう座り位置を調整した。
この流れ。なんか試されるような。あれだ、急に来るやつだろ、これ。要はその辺にリアルな鎧が飾られていてだな、その剣を取ったミナトロンが、話をしながら思いっきり投げてくるんじゃないだろうか。それをおれが避けてソファーに刺さるんじゃ。
吉井は鎧、そして剣を探したが部屋には無かったので、その他いくつかのパターンを想像した結果、いきなりミナトロンが背後に来る。という関連を防ぐため、「こういうのも。はあ、へえ」と独り言を言いながら立ち上がり、壁を背にして横にあった彫刻を触り始めた。
「どうしたんだい、急に。警戒してるのかな」
ミナトロンが振り返った瞬間、警戒してるのかと問われたことにより、警戒したほうががいいのかと思った吉井は、集中した状態を作った。
「もう入ったのか、早いな」
ミナトロンはそう言って笑った。
あれ? なんか普通なんだけど。吉井はミナトロンの言葉が聞き取れたことに動揺した。
いつもの、あのおおおおああの、かいいいいいいみいが。みたいな。バナナマン日村の貴乃花の子どもの頃のモノマネみたいな。あの状態じゃないぞ。この人おれが動くスピードに合わせられるぐらいの超絶早口なの? にわかには信じがたいが、しかしここは別世界。そんな特技を持ってる人もいるっていうのが希望的観測か。でもなあ、違うよなあ。吉井はミナトロンから少し距離を取った。
おれだけじゃないのか、つええ。うん、そりゃそうだ。しょうがないよ、ちょっと寂しいけど。
「君は初めてかい? 自分以外のこの状態の人は」
「ええ、まあ」
「ススリゴも多少は持ってるんだが彼は使いたがらないからねえ」
ミナトロンは1歩吉井に近づいた。




