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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
50/168

第50話 コミュニティ偵察編(全力は半分、半分が全力、全力で半分)

 

「そうだね。その後ここに入れて塩を抜くんだ」

 タフタは自分腰の高さはある水の入った大きなツボを指す。


「へえ。食べ物に塩をまぶしまくった後、抜くんですか。暴力的ですねえ」

「基本的には保存食だからね。その辺の加工は必要なんだよ。で、次にこっちで燻製にするんだけど」


 タフタは店の奥に進み、「とうとうメインですね!」みきは紙を片手に鉛筆でメモを取りつつ続いた。


 吉井は皿に乗った鶏肉をゆっくりとナイフとフォークで切り分けながら、一瞬目の前の兵士を見た後、再び体を斜めにしてみきとタフタの様子を見守っている風を装った。


 社会に出たおれは自分で金を稼いで家賃を払い、スーパーの半額ではなくコンビニで弁当を買って、たまに飲み放題ではない状態で酒を飲む。かなり大人になったような気がしてたんだけどな。


 でも、情けないことにおれは、今のおれは、皿に乗っている最後の鶏肉が無くなると手を動かして場を繋ぐことが出来なくなることを恐れ、もう半分小さく切っている。

 おれは何も変わっていなかった。こっちの世界に来て気付いたよ。ええとラカラリ……。ラカに入ってから特にだ。入れ物があったから形があるように見えただけで、取り外した瞬間にドロドロに崩れている。でも、無ければ、入れ物が無ければつくればいいだけ。完全に気持ちの問題だ。ほら、イメージしろ。レゴでいい、レゴで。


「兵士って普段何してるんですか?」

 吉井は体を斜めにしたままゴイスに視線を向ける。


「そうだな、いろいろあるぞ。おれは主に調査だな」

「へえ、調査ねえ。今帰りですか?」

「そうだよ、疲れちゃってさ。ちょっと休んでから家に戻るところだ」

「ちなみに何の調査なんですか?」


 おらおら、質問質問だ。間なんて作らないぞ。吉井は会話を止めないことだけに集中した。


「詳しくは言えないけどよ。始祖に近いとこで強いモドキが大量に殺されたって噂知ってるか?」

「あ、ちょっとすいません」

 

 会話を止めないことだけを考えていた吉井は、軽く手を挙げて会話を止めた。


「おーい、みきー! 帰るぞー。もう結構やばいとこまできてるー。これ近いうちに気付かれるわー」

 吉井は日本語で店の奥に向かって言った。


「あともう少しでケンタッキーの秘密に迫れそうなんですー! ごまかして時間稼いでくださーい!」


 やたら興味持ってると思ってたが、やっぱりそれ繋がりか。でも燻製は関係ないだろ、あっちはジャンル的に揚げ物だぞ……。


 奥から手だけがぶんぶんと振られているのを見た吉井は、ごまかしてって言われても。と思いながらゴイスに視線を戻した。


「いや、その辺はよく知らないです。でも大変ですね、遠征とか多いと。帰りを待ってる特定の女性とかはいるんですか?」

「おお、いるぞ。もうすぐ結婚する予定だ」

「いいですね。知り合ってどれくらいなんですか?」


 それから吉井はゴイスに質問を繰り返し、結果ゴイスが結婚する女性の詳細な情報が集まっていった。



 数十分後、「いやー、燻製って奥が深いですねえ」とみきは手に持った紙にメモを取りながら戻ってきた。


「おい、遅いんだって! どんだけ詳しくなるつもりだよ!」

「まだまだ全然ですよ。でも頑張って繋いでたじゃないですか。時々聞こえてましたよ、この人の結婚相手の話ですよね」

「そんなのもう終わってんだよ。今は結婚相手の姉とその友達に出会いがないっていうところだ!」


 みきに続いてタフタがカウンター近くに戻って来ると、ゴイスが笑いながら2人を指した。


「こいつらおもしれえな。何言ってるかわからないけど」


 ん、ああ。そういえば前も似たようなことが。タフタは食堂でも2人がよくわからない言語で話していたことを思い出した。


「よく知らないんだけどさ。オーステインでは違う言語を使ってる人もいるのかい?」

「いや、一緒のはずだけどな」


 オーステインという地名が、タフタとゴイスの会話の中で出たことに気付いた吉井は、「ほら。やっぱり近づいてきただろ?」と満足気にみきに言った。


「でもこの燻製の人と、兵士の人、それと食堂の店長は昔からの知り合いみたいですよ。さっき話してましたし。だから遅かれ早かれ吉井さんのつええばれますよ。大体店長はもうつええこと知ってるんでしょ?」


 ああ、まあそうだよな。結局普通にこいつらが話してたら『オーステイン、モドキオオカミ、つええ奴』この辺のワードは出て来るわな。んで、あの時生き残ったやつらがおれを覚えていたら、そしてそれが周知されていたら、さらに『黒髪、普通の体形、20代ぐらい男』も追加か。それで、食堂の店長あたりが、あれ? この前のあいつ全部当てはまるじゃん! っていう。


「たしかに。近いうちだと思っていたがそれよりも近いな」

「まあしょうがないですよ。その時に雰囲気を見ながら考えるとして、そろそろ行きますか。吉井さんも偵察あるし」

「そうだな。偵察がどんなことをして、どれぐらい時間掛かるかもわからないからな」


 吉井とみきはタフタとゴイスに礼を言い、みきは鶏肉を、吉井はチーズのようなものを一つずつ追加で購入し店を出た。



「じゃあ、この辺で一旦お別れということで。夜ご飯は今日の『いろいろ当番』の吉井さんお願いしますよ」

 みきは鶏肉を頬張りながら言った。


 昨日もおれ買って行ったんだけど、当番じゃないのに。吉井は思ったが、みきが見つけた燻製美味かったからいいかと納得し、夜までには帰るよと言い残し、コミュニティがあると思われる方向を確認する。


 うーん。かなり、かなり面倒だ。もう行きたくねえよ。でもなあ、言っちゃたしなあ。さっきの人、ミナトロンだっけ。ああいう人って逆に壊滅しに行ったほうが好感度上がりそうなんだよ。上げてどうすんだっていうのはあるが。


 あ、そっか、それもあったな。吉井はギルドの奥側にある裏山が目に入った。


「あっち方面だからさ、一応裏山寄ってくよ、どんぐりないかもう1回確認してくる」

「おお、なんという! そのまじめさはいつか吉井さんを救いますよ!」

 

 みきは手を叩きつつ、えらい、これは結構えらいと吉井を褒め称えた。


「まじめ、ね。そう言われると案外悪い気はしないな」

「うんうん、素直さも持ち合わせているようですね。いいですよ、その感じ。あ、じゃあそんな素直でまじめな吉井さんに、わたしからアドバイスを」

「ほう、アドバイスか。聞いておこう」

「賢者がアニメで学んだ歴史に学ぶとですね」

 みきは吉井の目を見た。


「今回の場合は完全に初見ですよね。そういう時は全力のつええは出さないほうがいいと思います。全力は半分、半分が全力、全力で半分。これを頭の中で復唱するといいですよ」

「なるほど。その心は?」

「逃げる為ですよ。力量を調整しておけば、本当に危ないとき相手の隙をつけるんじゃないかと」

「わかった。あまり目新しさはないが覚えておこう」

「じゃあわたし戻るんで。あ、吉井さん。まじめで素直なのは恥ずかしいことじゃないですよ」


 だから。家の方向に歩き出していたみきは振り返った。


「死なないで下さいね」

「ああ、気を付けるよ」

 

 再び背を向けて歩き出したみきがもう一度振り返る気がしてしばらく見ていたが、角を曲がって完全に見えなくなったので吉井は裏山に向かった。


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