第49話 コミュニティ偵察編(タイミングと燻製)
よし、じゃあそろそろ開けるかな。
たまご、肉、野菜等、10数種類の燻製の陳列が一通り終わり、タフタが奥に置いてある金庫から釣り用の小銭を取り出していると、「おおい、開けてくれよ。いるんだろー」扉をどんどんと叩く音と共にゴイスの声が聞こえた。
ゴイスか、戻ってきたんだな。タフタは急いで会計用のカウンターの下に小銭を置き、入り口のドアを開けた。
「いたんだな。よかったよ、もう限界でさ」
ゴイスは持っていた槍を店の壁に立てかけて兜を取った。
「久しぶりだね。今回は大分遠かったのかい?」
「ニガレルンを越えたあたりまで遠征したよ。おれの遠出記録を更新したな。で、悪いんだけどさ。何か食わせて」
ゴイスはタフタの了承を得る前に店の中に入る。
「もうここまで来たんだから家で食べればいいじゃないか」
そう言ってタフタはゴイスの槍をちらりと見たが、まあいいか。本人が置いていったんだから。と思い店に戻った。
ゴイスは、商品の陳列台の横に1つだけ置いてある4人掛けのテーブルに、疲れたあ、と言いながら座り込む。その様子を見ながらタフタは5種類の燻製を金属のヘラを使って皿に移し、ゴイスの前に置いた。
「おお! おれの好きなのばかりじゃないか!」
ゴイスは手づかみで鶏肉の燻製を口に運ぶ。
「そりゃ覚えるよ。何年も同じものを頼まれていれば」
タフタはゴイスの前に座りながら言った。
「で、どうだったの? そんな遠くまで行って。なんかの調査だったんでしょ」
「師団っていうか国の機密ってのがあってさ。言えないこともあるんだけどよ。やっぱりなんかおかしいわ」
ゴイスはたまごの燻製を手に取る。
「おかしい?」
「多分国全体で何かが起きてる。もしくは起きた。じゃなきゃ、モドキがあんなにそこらじゅうに」
タフタはカウンターに戻りたまごの燻製をもう1つゴイスの皿に乗せた。
「で、具体的にどんな状態になってるんだい?」
「おい、タフタ。お前おれがこれを好きなの知ってて……」
「いいじゃないか。誰にも言わないから」
「だから、みんなそう言うんだよ!」
その後、タフタはまた別の燻製を2つゴイスの皿に置き、言えない。大丈夫だ、言わない。というやり取りを繰り返した。
「ほら、吉井さん。あの店ですよ!」
みきは住宅街の並びにある1軒を指した。
「店? どこに。あ、ああ。あれか。燻製専門店って看板あるわ。しかしまた渋いもんに目を付けたなあ。あ、ごめん」
吉井はそう付け足して、みきに向かって軽く手を両手を上げた。
「きみが読めないのに目を付けたって言ったのは別に嫌味じゃないから。流れでね」
「……あの」
深く息を吸ったみきがゆっくりと口を開く。
「そう言われていくつか思い浮かびましたよ。吉井さんがこう言うと思ってるんだろうな、っていう返答。『どんぐりも探せないのに人のことをどうこう言わないでください!』『次文字読めないことを言ったら、わたしがあなたを殺して能力貰います!』とかですか?」
「え、ああ。そうなんだ……。でも、ほんとに無意識で。ぽっと言っちゃっただけだから。考え足らずでごめん」
吉井は再び謝り頭を深々と下げた。
「わたし数分前に許したばっかりですよね? Sランクのことで。で、またこの惨状。でもね、それでも。そんなことになってもわたしは許しますよ。あなたが謝り続けるかぎりは」
「あ、ありがとう。これからも必要があれば謝り続けるよ」
え? なんでこんなことになってるんだ? 頭を下げている吉井は地面を見ながら思った。
「わかりました。伝わったのでもういいですよ、吉井さん。頭を上げて下さい。気を取り直して燻製でも食べましょう」
「あ、ああ。そうしよう。おれ燻製好きなんだ」
「うんうん、わたしも好きですよ。ってあれなんですか?」
みきは店の入り口横の壁に立てかけてある槍を指さす。
「うーん。見た感じだと槍だな」
「あー。ここ槍の国でしたねえ。忘れてましたよ、その設定」
「多分国の正規兵は槍使ってるっぽいよ」
「ということはですよ、そのまま考えればですよ。あの店の中に兵士いますよね?」
みきはゆっくりと道の端により始めた。
「そうだな。極端な事情の無い限りは」
「吉井さん。これまでわたしたち国の兵士と会ったらまずいことってしてましたっけ?」
「えー、それ系のトラブルはなかったと思うけどな」
「一応思い出してみましょう。追われるようなことしてなかったか」
そっか、確かに必要なことかもな。うっかり忘れてて、あー、あの時の! って言われるのもしんどいし。吉井はオーステインを出てからこれまで起こったことをざっと思い出した。
「おれは大丈夫だと思うんだけど」
吉井はこれまでのことを数十秒で振り返った後、目を閉じて考え込んでいるみきに言った。
「そうですね。わたしもおっけーです。ただ、吉井さん。わたしと会う前にモドキオオカミと遭遇してるじゃないですか? その時の兵士って顔覚えてます?」
すっと目を開いたみきは吉井を見て真剣な表情で言った。
こいつ……。オオカミモドキじゃなくてモドキオオカミって言いやがった。しかもこのタイミングで。狙ってたな、空気的におれが言い返せない時を! さっきの変なな感じで謝らせたのもこのせいか。あ、わざわざ思い出そうって言ってたけど、あのオオカミに会ったエピソードを引き出すためだ。おれが喋ってもどこかで言い直せるし、おれが言わなかったら自分で言うつもりだったな。絶対そうだ、なんていうことをやりやがるんだ。ここで既成事実を作っておいて、次に他の人がいるところでモドキオオカミって言った時、おれが、え、なんで? ってつっこんだ場合、は? わたし前から言ってましたし? って返せる。
あ、笑ってた。今ちょっと後ろ向いたけど笑ってたぞ。そしてこいつは知ってる。おれは今そこに触れないことを。万が一そうじゃなかった場合、若干おれに非があるから、もしかしてみきがほんとに怒るかも?って思うことを。
吉井はすべてを諦めて、軽く息を吐いた。
「そうだな。顔は覚えている」
「向こうは? モドキオオカミっていう衝撃はそうとうだったと思うんですけど。吉井さんの顔まで見る余裕ありましたかね」
「……物のやり取りをしたからな。覚えていても不思議はない」
「わかりました。じゃあわたしが先に入ります。そして中の様子を一瞬で掴んだ後、ドアの陰から吉井さんが兵士を確認できる角度を作るので、それで大丈夫だったら後から入ってきてください。モドキオオカミを倒せる吉井さんなら簡単ですよ」
みきは吉井に親指を立てた後、店の中に入った。
その後、店の中に入ったみきが足を使ってドアを開けっぱなしにしていたので、吉井は道を行ったり来たりしながら中の様子を確認し、イイマの食堂でトランプをしていた男、知らない男の兵士の2名のみだと判断して店の中に入った。




