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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
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第48話 コミュニティ偵察編(Sランクの役目)

 

「うん、吉井さんの言いたいことはわかりました」

 みきは登録用紙控えを布袋に入れた。


「正直今でも認めてはいませんが吉井さんの意見も一理ありますね。たかが名前じゃないか、と」

「そうそう。勤め先の部署の名称なんてどうだっていいじゃないか。大切なのはいくら儲かって、どれぐらい休みがあるかとかそういうことだよ」


 全力で行った数分に渡る説得の末、みきがある程度落ち着いたので吉井は『特殊』と書かれた棚から木製のファイルを1つ取り出した。


「これが依頼書でランクごとにファイルされているっぽい」

「へえ。というかこれ凄いカバーですね。もろに木じゃないですか。ちょっと貸してください」

 みきは手招きして吉井が持っていたファイルを受け取った。


「そうだなあ。これ見た後じゃ日本のハードカバーの本なんてどこがハードなんだっていうね」

「あ、すいません。これを」

 カバーを開いて中身を見ていたみきは吉井にファイルを手渡す。


「調子に乗って手に取ったけど、わたし字読めないので……」

「別にいいと思うよ。雰囲気を味わうだけでも意味がある」

 

 吉井はファイルを開いて記載されていた内容に目を通す。



 依頼番号:5,916,445

 内容:城壁周りの警備

 時期:来週の水、木、金のいずれか(夜間帯の勤務)

 賃金:応募時に相談

 尾行:職員病欠のため急募


 うーん、こういうのかあ。吉井は次のページを捲る。


 依頼番号:5,916,446

 内容:人の移動調査

 時期:随時

 賃金:1日1,900トロンで固定

 備考:都市周辺での観測業務です。長期勤務できる方を希望。


 なるほどなるほど。吉井はそっとページを閉じた。


「ねえ。どうなんですか? その辺で魔物を10匹狩ってこいとかですよね」

「いや、バイト休むからシフト変わってくれ的なやつだな。あと交通量調査とか」

「ええー。それならわざわざやらなくてもいいじゃないですか。家で算数の問題解いてればお金貰えるし」

「あ、ちょっと待って」

 吉井は棚の横にある張り紙に気が付いた。


「ほうほう。ランクが上なのは。ああ、そうかあ。なるほどなるほど」


 張り紙にはギルド登録と受注の流れ、ランクについて説明したものが記載されており、吉井は一つひとつ確認していく。


「やっぱりおれらが受けられるのって、さっきみたいなのがメインらしいよ。で、ランクが上に行くと幅が広がって魔物討伐みたいなのも入ってくるらしい」

「そうじゃないかと思っていたそのままじゃないですか。やっぱり下っ端はおつかいクエストやらされるんですねえ」

「でもこれさあ」

 吉井は再びファイルを手に取りのページをめくる。


「10回こなしたら次のランク上がれるんだけどさ。例えば交通量調査のやつって、雇い主は長期勤務希望してんだよ。こんなん選んでやってたらずっと上がれないぞ」

「そうですねえ。それに上に行ったら魔物クエスト受けれるとしてですよ。おつかいこなしても意味ないんじゃないですか? 固定の経験値が入るわけでもないから強くならないし」

「ああ、そういうことか。若干危険っぽいのが期限ありで、長期のやつは上に行くつもりない人がやるってことかもな」

「うんうん。じゃあ吉井さんは、手紙渡すとか花摘んできてみたいなクエストを探してください。それを2人でこなしていきましょう」

「わかった。今日は偵察あるから今度また見に来るわ。あ、でさ。Bランク以降になってくると一般公開してないんだって」

「ん? B? ちなみにわたしたちは何ランクなんですか?」


 ええと。吉井はアルファベットの歌を小声で歌いながら左手の指を折る。


「おれらはH、いやIランク。で、閲覧できないのが、Bランク、Aランク、Sランクだな。多分あるぜ。SSとかSSSとかのえぐい依頼」

「あの、ちょっと聞きたいんですけど」

 みきは眉をひそめつつ片手を軽く上げる。


「ほんとにランク分けって『S』とかになってるんですか?」

「え? いや、それは。別にアルファベットでそうなってるわけじゃ」

「じゃあ吉井さんが勝手に変換して、さらに最上位を勝手にSにしたんですか?」

「まあ勝手にっていうか。わかりやすくしたっていう」

「ほんとにもう。わたしは今激しく呆れていますよ……」

 みきは大きなため息をついた後、首を横に振った。


「もういいじゃないですか。Sが見栄えいいとか、ちょっとテンション上がるみたいなの。ほんと恥ずかしいんですよ。大体それで喜ぶのおっさんだけですからね!」

「ええー。Sはもう恥ずかしいとかそういう次元じゃ。国民食っていうかその辺の位置にあると」

「あの、ちなみにわたしたちのランク本当は何て書いてあったんですか? そのままですよ、加工なしの」

「それは、まあ。10だよ、10級」

「それでわかるじゃないですか。何が悪いんです? 10級の。吉井さんって今、勝手に変換して勝手に転んでる状態ですからね。もうわけがわかりませんよ! いいですか?よく聞いて下さいね」

 みきは吉井を見据えて続ける。


「今後SランクとかSSSの依頼とか2度と使わないで下さい。大体こっちの人に伝わんないし。冷静になりましょうよ、吉井さん。わたしだっていつか死にます。役目を終えたときなのか役目の途中かはわかりません。でも確実に死にます。いいですか? Sランクはもう役目を終えて棺に入ってるんです。どこかで葬式も終わってます。なぜそれを掘り起こすんですか?」


 ええと前もあったな、なんだっけ。ああそうだ。乗り物のアナウンスで日本の地名なのに英語っぽくいうやつ。それが理解できないって。なんかもう2個ぐらいあったけど思い出せないわ。まさに逆鱗に触れるとはこのことっていう。こいつの気にするポイントってそこらじゅうにあるよな。Sランクだってまだ現役で使ってる人もいるしさ。そこまで言うほどのことか?


 吉井はここで反論すると長くなりそうだと判断し、わかった。勝手に変えたおれが悪かった。と頭を下げた。


「とりあえずおれらは10級だ。それで閲覧できないのは、3級、2級、1級。もしそれ以上のものがあるとしたら、そうだな。ええと、じゃあそれは零級にするか」

「だから吉井さん、そうじゃないんですよ!」

 みきはだんだんと足を鳴らす。


「いまの言い方、一瞬もったいつけた言い方。零でしょ? 漢字でしょ? 違うんですよ。やるなら『0級』でいいでしょ? ってことをわたしは言ってるんです!」

「ご、ごめん。確かに零級を意識した」

 吉井は再び頭を下げる。


「きみの言いたいことは伝わった。今後は無駄なことはしない。書いてることをそのまま受け止めるから」

「やっとわかったようですね。許しますよ、自覚したならそれで。今日は登録だけですよね?」

「あ、ああ。そうだな。昼どうする? いつものサンドイッチ屋でも」

「あのわたしこの前帰るとき店見つけたんですよ。字読めないから何屋かわからないですけどそこ行きません?」

「いいじゃないか。常に新規開拓の精神は必要だよ」


 さようなら、Sランクのおれ。そしてSSSの依頼達。吉井は棚にファイルを戻し、2人はギルドを出た。


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