第47話 コミュニティ偵察編(偵察前のギルド登録)
家を出た吉井とみきはギルドに着くまでの間『他人を犠牲にしてまで生きる意味』を主題にしているアニメ、漫画を探したが、キャラクターなら割りといるんじゃないか。という結論に達した辺りで重厚な入り口の扉の前に着いた。
「じゃあ吉井さん。偵察でしたっけ。途中の暇な時間のときにわたしが納得できる答え考えといて下さいよ」
みきは扉を開けながら振り返る。
「一応思い出してみるけど、今出ないってことは多分もう出ないよ」
「あー、そういうのだめですよ。諦め癖がつきますから」
「記憶力の問題だからなあ。諦めとはちょっと違うと思うけど」
吉井とみきは出てくる人を避けながらギルド内に入った。
ギルド内は前回同様混雑しており、各窓口前に数人が並んでいる他多くの人が行きかっていた。
月末の役場、いや市役所だ、うん。市役所みたいだな。常に気を張っていないとまた滋賀県いじられるから。あ、だめだ。あいつのとこ政令指定都市だから~区か。あぶねえ。また「あ、区役所じゃないんですね」って言われるところだよ。もうこの辺に関しては黙っておこう。変に区役所っていうと、あれ、滋賀県に区ってありましたっけ? って返されるし。
「じゃあ、おれそこで書いて持っていくから」
吉井は入り口近くの記載台を指差す。
「いいですよ。あ、この件に関しては権限を委譲するので。昨日の打ち合わせ通りお願いします」
みきは布袋から紙と鉛筆を取り出しながら言った。
「あれ。さっきの終わってなかったの?」
「違いますよ、次の企画です。わたしをそろばんだけの女だと思わないでください」
鉛筆でトントンと紙を叩き、みきはぶつぶつと呟き始める。
そろばんとかトランプって企画っていう扱いなんだなあ……。というか打ち合わせって。昨日の夜登録名決めた後は、さっき計算しながら思い出のお菓子談義しただけじゃないか。
吉井は記載台に置いてあった紙に必要事項を記入し、前回と同じ列に並んだ。
「概ねは問題ないんですが」
サエランは吉井が提出した紙を戻した。
前と同じ人だな。吉井は窓口に立てかけてあるプレートを見た。
今現在、おれは若干忘れた振りをしているが覚えているよ。数日前は20代前半ぐらいで眼鏡を掛けていた。そして今日も20代前半くらいで眼鏡を掛けている。やっぱりどこか日本人風なのがいいよね。親近感があるっていうか。
吉井は自然さを装うためサエランのプレートに合わせていた視線を、戻された紙に向ける。
「団体登録名は5文字以内となってるので訂正をお願いします」
え、5文字? 少ないなあ。まあ8文字以上とかはこっちの慣れだけどさ。吉井は自分が書いた紙を眺めた。
登録者名:吉井
登録者住所:5893-78-1
経歴:なし
登録団体名:とんがりのギギルコーン
団体員名:みき
団体員住所:5893-78-1
団体員名:
団体員住所:
団体員名:
団体員住所:
団体員名:
団体員住所:
団体員名:
団体員住所:
団体員名:
団体員住所:
※これ以上の場合は団体員の住所氏名を別紙に記入(様式は任意)
5文字ねえ。とんが、りの。あ、これで5文字か。で、ギギルコーン。こっちは6文字。どうすっかなあ、でもみきはどっちかっていうと『コーン』を重視してたからなあ。
「あの、すいません。ここの『コーン』の『ー』も1文字になるんですかね」
吉井はコーンの棒線を指してサエランを見た。
『ー』ですか。サエランは横に置いてあったマニュアルのようなものを捲る。
「そうですね。『ー』も1文字扱いです」
そりゃそうだよな。じゃあ、こうすっか。でも『コーン』がなあ。まあいいよ、おれ全権を委譲してもらってるんだから。
吉井は団体名を二重線で消し、横にギギルコンと書いた。
「これでお願いします」
「はい。ギギル? コンですね」
サエランは吉井が出した書類を違う様式に書き写した後、登録者番号という欄に数字を記載し、眼鏡の位置を直しつつ吉井に渡した。
「あなたの登録者番号がこちらに記載している769,841です。これは登録内容の変更、削除及び依頼した業務の報告の際に必要となるので覚えておいてください。またこれは他者に教えないようにお願いします。トラブルの原因となりますので」
70万も登録者いるのか。いつからやってるのか知らないけど結構なもんだな。吉井は受け取った紙を2つ折りにする。
「依頼は後方にある『特殊』と書かれた枠に置いています。そこから該当するランク内で業務を選びこの窓口で受け付けして下さい。受付しないで行った業務に関しては無効となりますので。吉井さんは一番下のランクのみ受注できます。そして各ランクの業務を10回行うと次のランクが受注可能となります」
ほー、なるほど。ああ、あの辺のやつね。吉井は振り返って木の棚にある週刊少年誌程度の厚さのファイルが並んでいるのを確認した。
「今何か受けていきますか?」
サエランは視線を落とし別の紙に何かを記入しながら尋ねる。
「そうですね、ちょと見て考えます。ありがとうございました」
吉井は軽く頭を下げ席を立った。
「できましたか、登録」
「まあ大体は」
吉井はみきの横に座って紙を広げる。
「この番号がマイナンバー並みに大事らしい。色々使うみたいだぞ」
「へえ。769,841ですか」
「今ぱっと思いつく? すぐ覚えられそうな語呂合わせ」
「そうですねえ」
ななろくきゅうはちよんいち、ななろくきゅうはちよんいち。みきは目を閉じて数字を繰り返した。
「ナム君。はやい! でどうでしょう?」
「あんまり掛かってないなあ。それ文章覚える手間あれば数字自体覚えれるやつじゃない?」
「そ、それを言われると……。じゃあ吉井さん何かいいのあるんですか?」
「おれは、シチロー君。はやい! の方がいいと思う。あ、一応言うと野球選手のイチローと掛かってるから。あの人メジャーだけで500盗塁してるんだぜ」
「それややこしくないですか? 169,841だったら別にいいですけど。っていうか、はやいわたしのだし」
「はやい、はみんなのもんだよ。それと仮にね、169で間違ったとしてもだな。そうだ。間違った間違った、イチロー君じゃなくてシチロ―君だった。ってすぐ思い出せるよ」
「じゃあわかりました」
みきは吉井の持っていた登録用紙控えを手に取る。
「わたしはナム君、吉井さんはシチロ―君、互いに別で覚えましょう。その方がリスクのぶんさ、ってええ!」
みきは持っていた紙を吉井に向けた。
「なんなんですか! このギギルコンって! とんがりは!? コーンは!?」
やっとか、気づくの遅いなー。吉井は、ふざけるにも程がある! と詰め寄るみきを、まあまあ、人生いろいろ。名前もいろいろだよ。となだめながら経緯を説明した。




