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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
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第46話 コミュニティ壊滅編(偵察に変更した午前)


 君は本当に来るの? そうミナトロンに訊かれた吉井は迷っていた。


 おかしいなあ、この人おれがつええの絶対聞いてるよな。それでもこの余裕って。どう考えても昨日のおれは圧倒的だったぞ。うーん、強すぎてバランス調整がおかしいって思ったけど割とちゃんとしてるのかも。もうちょっと確かめてから壊滅を考えたほうがいいのか。相手の規模とか能力を確かめた上で。あー、でもすでに壊滅のテンションじゃないんだよなあ。その辺の確認とか計画立てるのって今日だけじゃ終わんねえよ。正直そこまでするっていうほど熱意はないっていう。どうすっかなあ、とりあえず一応行かないパターンも言っといたほうがいいか。


「いや、行きますよ。午前中のギルド登録終わりで。ただちょっと窓口混んでたりして遅くなったら、午後の予定押しちゃうんで行かないかもしれないですけど」


「はっはは、いや。なるほど、そうか。君にも予定はあるよね」


ミナトロンは手を叩いて笑った後、「今日来れなかった場合は明日来るのかい?」笑顔のまま再び吉井に尋ねた。


「うーん、その場合は。そうですねえ」


 吉井が言葉を選んでいると、「吉井さん、明日からはそろばん作りがあるじゃないですか。コミュニティ壊滅もいいですけど仕事を疎かにしないで下さいよ!」みきが身を乗り出して会話に割って入ってきた。


 おい……。壊滅って言うんじゃねえよ! この天然が! 吉井は2人に気付かれないようみきを一瞬にらんだが、ここでその話題を触ると面倒なことになりそうなので、相手が流してくれることを願い、壊滅のことはなかったことにして話を進めることにした。 


「そっか、そろばんあったなあ。じゃあやっぱり今日の午後で。もし無理だったら今後時間できた時に行けたら行きますよ」

「いいよ無理しなくて。来れるときでいいから。よし、確認したいことは終わったよ」


 ミナトロンはそう言って立ち上がった後、「あ、そうだ」と笑顔が消えたフラットな表情で吉井を見た。


「壊滅ってさ。君は具体的にどうしたいんだい?」


 はいはい、わかってた。絶対帰り際のタイミングで来るって。大体この流れになって話題避けて通れるパターン見たことないし。でもおれはすでに思いついてるんだよな。


「あ、ススリゴさん。すいません、あれです」

「あれ? なんだ」

 ススリゴはミナトロンが出て行くのに合わせるよう身支度を始めていた。


「みきが不安定になったときに変なことをってやつです。ほら、回収したって嘘ついて2万払ったあげく、『逆に』って言いまくった後、外に飛び出して夜まで帰らなかった日があったじゃないですか」

「ああ、あったな。そんなことも」

 ススリゴはそう言ってミナトロンに説明を始めた。

 

「なあ、ミナトロン。この子はたまに幻視、幻聴があるんだ。おれたちには見えないものが見えたり、聞こえないものが聞こえる。だからこの男が何か言ったことをこの子なりに拡大解釈して捉えてるんじゃないか? 大体コミュニティを壊滅っていうのも意味がわからないだろ」


 ススリゴに合わせて適当に頷いているとき、吉井は横目でプルプルと震えているみきが目に入ったが気にしないことにした。


「へえ、変わった子だねえ」

「ちょっとおれもこの子にどういう感じて伝えたかは覚えてないですけど。要はおれはあの4人にもう会いたくはないんですよ。だから言っといてください。2度と店には来ないでくれ、と」

 

 ここだ。最後で締めておくかどうかで印象が変わるからな。吉井はこれだけは言おうと決めていたことをミナトロンに告げた。


「ああ、それは大丈夫だよ。君が昨日の、そうだな。昨日の4人に会うことはもうないからね」


 ミナトロンは、「じゃあ、来るなら待ってるよ。」と手を振りながら家を出た。


 あれ、そこ解決しちゃってるの。割とちゃんとしてくれるとこなのか、コミュニティって。吉井が少し戸惑っていると、支度を終えたススリゴが吉井の横に立った。


「お前がどうしても行きたいのなら午後の回収は明日にまわしてやる。だが、所属しているやつらにどうこうはいいとして、コミュニティ自体に手出しはするな。それと午前中の書類はやっておいてくれよ」

 

 そう言って吉井の肩を叩いた後、ススリゴがミナトロンを追うように外に出た瞬間、みきは持っていた紙をテーブルに叩きつけた。


「ちょっと! あの設定思いっきり使ってるじゃないですか!」

「ごめん。きみには犠牲になってもらう形となったけど、あの場を切り抜けるにはさっきのが最善だと」

「わかりました。じゃあ『他人を犠牲にしてまで生きる意味』についてギルドに行くまで徹底討論しましょう。吉井さんは漫画、アニメでそれを証明しているやつを例としてわたしに出してください。一話完結のここの部分っていうのだめですから。主題としてちゃんと説明してるやつですよ!」

「えー、急に言われてもな。そんなんあったかなあ」

「まだ時間はあります。とりあえず今日の宿題を終わらせましょう」

「はいはい、わかったよ」

 みきに紙を渡された吉井は、貸している金額の金利の計算を始めた。



「でも言ってましたね。ススリゴさん」

「ああ、手を出すなってか?」

 

 しばらく吉井とみきは無言で作業を進めており、みきがそう言った時に吉井はスペースが無くなったひっ算用の紙を裏返した。


「あれやっぱりフリなんですかねえ。でも吉井さんやった感じぼろ勝ちだったんでしょ?」

「そうなんだよなあ。でも今思えばそれも大きな流れの一つとも」

「えー、それ言ったらなんでもありじゃないですか。あ、そうだ。さっきのススリゴさんの知り合いやばくなかったですか?」

「わかるわー、あれ関わっちゃいけない人だよ。めっちゃ怖いもん」

「修羅場くぐり抜けた感があきらかに漏れてましたもんねえ。なんならくぐったっていうか浴びてますよ。はい、終わり」

 みきは計算を終えた紙を置いてぱちぱちと手を叩いた。


「そうだなあ。日常的に浴びてるし浸かってるよなあ」

「あと吉井さん行くの面倒になってる雰囲気出てましたけど。行けたら行くって絶対行かないやつじゃないですか」

「おれはこういう時に嘘をつかない男だよ。そのおれが思っていることを言うとしたら、それは正しいし、正直今日の人みたいなのがいると思うとさ。もっとちゃんと時間を掛けてやったほうがいいかなって」

 

 よし、おれも終わった。吉井は鉛筆を置いて背伸びをする。


「だから今日行くとしたら壊滅っていうか偵察にしとくよ。あいつらには壊滅って言ってないから、偵察でも行くこと自体に変わりないし。こっちの意図が変わったことには気づかれないよ」

「うんうん、それでいいと思いますよ。じゃあ、とりあえずギルドに行きましょうか。あ! さっきのわたしの犠牲の話忘れてないですからね!」


 ぐ、それ覚えてんのかよ……。吉井はトントンと紙の端をそろえながら思った。



「しかし変わったのを見つけてきたな。オーステインの人間はみんなあんな風なのかい?」

「さあな。おそらくあの2人が特別だとは思うが」


 家を出たススリゴとミナトロンは人の行き来する道を並んで歩いていた。


「昨日食堂で起こったことをお前は把握してるんだろ?」

「そうだね。ある程度は」

 ミナトロンは真っ直ぐ前を見て進む。


「それでお前はどうするつもりなんだ?」

「それを今考えているところだよ。あの男の出方にもよるしね。こちらも聞きたいんだが、君はあの2人をどう思ってるんだい?」


 どう思ってる、か。ススリゴは少し悩んだ後、口を開く。


「正直気に入ってるよ、優秀だしな。特に演算能力についてあの2人程優れた人間にはあったことがないよ」


 ミナトロンは立ち止まって意外そうな表情を浮かべる。


「君がその辺を褒めるのを初めて聞いたな。そうか、そんなにか」

「そうだな。それに男は持ってるんだよな? オーステインから帰る途中はなぜか隠していたようだが、昨日の仕事中直接は見ていないが使っていたようだ」

「そこに関してはこっちのほうが理解していると思うよ。しかし」

 言葉を切ってミナトロンは再び歩き出す。


「わざわざ付いてきたっていうのはどういう意味があるんだい?あの2人に手出しをしないでくれ? ということかな」

「お前がどう思ったか知りたかっただけだ。大体、お前かコミュニティがあいつらをどうしようと、その過程や結果についておれがどうこう言うことではないだろ。おれは自分のできる範囲で守るし、もしくはあいつらに力があれば自分でどうにかする。それを超えて起こること、単純にお前や他の者がそれでもあいつらを殺せるのなら、それはあいつらの寿命だってことだ」

「うん、そうか」

 ミナトロンは少し口元を歪め笑った。


「わかったよ。じゃあ、こちらの必要なときに必要なことをする」

「それはおれが言おうが言うまいが同じだろう」

「いいね、やはり君とは話が合うよ。じゃあ、話はこれぐらいにしておこう。帰るまでに欠員の補充を決めなくてはならないんだ」

「わかったよ」


 そう言ってススリゴは来た道を戻り、ミナトロン振り返らず先へ進んだ。


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