第43話 コミュニティ壊滅編(前夜の登録名決め)
うーん、なんだこれ? 吉井がみきから受け取った紙には、
× かっぱえびせん
× サッポロポテト
△ アルフォート
〇 ひねり揚げ
× TOPPO
× のり塩
△ おっとっと
と書かれており、吉井は戸惑いながらもリストが五十音順ではないことだけはわかった。
そして最後にもう一度確認した後、「あのさ、これ戻ったら食べたいものリストじゃなくて?」吉井は紙を見ながらにみきに言った。
「違いますよ。言ったじゃないですか、登録名って。で、どうです? 印象としては」
みきは吉井の横に座り紙を覗き込む。
「印象としては、お菓子で決めようとしたんだなっていう。あと遠慮して遠回しに言うと懐かしいな、っていう」
「ええ、お菓子に懐かしいとかあるんですか? それに全員現役バリバリですよ」
「いや、それはわかるんだけどさ」
「わたし小さい頃おじいちゃんの家でよく食べてたんですよ」
だろうな。おじいちゃん関連なのはわかってたけど。吉井は紙をテーブルに置いた。
「一旦はひねり揚げに決めたんですよ。でも最終的には」
みきは一番下に、◎とんがりコーンと書き足した。
「これでいきましょう。問題はとんがりコーンにするか、とんがりコーンズにするかなんですけど」
「でも商品名だからなあ。ずっと使うにはちょっと抵抗があるっていうか」
「え? そこ気になります? 全然大丈夫だと思いますけどね」
みきは鉛筆の裏で紙をポンポンと叩く。
「ごめん、やっぱり気になるかな」
「そう言うなら吉井さんにも反論する機会をあげましょう」
ほら、ここに書いて下さい。みきは紙と鉛筆を吉井に渡す。
これもうコンビ名とかタイトルを決めろみたいなもんだよな。吉井は鉛筆を手に取って紙に目を落とす。
でも今はもう何言っても変になる流れだからなあ。思いっきりそれに乗っちゃってるんだよ。これを自前の発想だけで切り抜けられるのはプロフェッショナルだけだ。おれにそんな力があれば全然違う人生になってるし。結果流れ変わってるから今ここにいないし。でも何か書かないとこいつ納得しないよなあ。でもこれ雰囲気的には、暴発することがわかってるロシアンルーレットみたいな。弾出ても死ぬし、出なくても死ぬし、出て暴発したら2回死ぬ。要はこのまま策を講じずにいけば保険ありで絶対失敗する。
あ、策。策ね。吉井は鉛筆を一旦置いて何も書いてない紙を凝視する。
あー、あれにするか。~の~、~と~、~は~、~が~、見たいにして片方英語で若干わけわからんのに。刑務所のリタヘイワースみたいな。いや、まあこれはわかるんだけど。蒼穹のファフナーとかね。ああ、あれみんなで観たんだよな。部活終わりで2、3話ずつ、元気かなあ、あいつら。よし、感傷はいいとして。後ろを片仮名にしよう。で、前を意味わからん言葉を適当に。あ、でもみきのも入れてやらんとな。絶対文句言われるし。
「あのさ、~の~、みたいにしようと思ってるんだけど」
吉井は一度鉛筆をテーブルに置いてお茶を飲んだ。
「え、なんですかそれ?とんがり、の、コーン? とか」
「ああ、うん。まあそんな感じ。でさ、せっかくきみも考えたんだし『とんがり』か『コーン』どっちかを使おうと思うんだけど。どっちがいい?」
みきは、とんがり、か、コーンと呟く。
「どっちかって言うと。ほんとどっちかっていうとですよ。コーン、かな」
「なるほど。まあとんがりだと食べ物かどうかわからないしな」
「そうなんですよ。やっぱりお菓子だっていう主張は必要かなって」
そうか、コーンを入れつつね。あ、そういえば何かヒット作には濁点がつくって聞いたことがあるんだよな。それを踏まえて考えると。吉井は頭の中でいくつかの言葉を足し引きした。
「ほんと(仮)だよ、まじで(仮)で。ギギルコーンってどう?」
え……? みきは吉井の言葉を聞いて固まる。
「すごく戦隊ものっぽいんですけど。吉井さんそっち方面だったんですか……?」
「うん、いやおれも言ってて思った。でもなんか付け足さないと商品名が消えないからさ」
「じゃあ頭に付けるとしたら、とんがりのギギルコーン?」
「いやー、そこは頭の部分変えないとあんまり意味ないんじゃないかな。あー、でも一応は別物か。そうだな、うん。それでいいよ」
「いいよって言われても。正直こっちは結構拒否したいんですけど?」
みきは不満げに言いながら『とんがりのギギルコーン』と紙に書く。
「あ、でもこうやって見ると伝わりますね。これ何のお菓子っぽいですか? って聞かれたら、みんなとんがりコーンって言うと思います」
「そうならない為に考えたんだけどな……」
略すとすると、うーん。とんギギ? いやシンプルにとんがり? みきは紙に略の候補を書き始める。
「おれはこういう場合は素直にとんがりでいいと思うな」
「確かに。なんか変にいじるよりそのほうがいいかも知れませんねえ。じゃあ決まったところで」
みきはパタパタと紙を折って床に置いていた鞄に入れた。
「それもういらないだろ。決まったんだからさ」
「はあ、いつまでボーイなんだか」
みきは呆れながらコップを持って暖炉に向かいお茶を入れる。
「こういうのは過程を残しとくのが大事なんですよ。決まった内容と同じくらいにどういう流れで決まったかは重要なことです。それに第2、第3のグループを作るときにも使えるじゃないですか」
もうグループを増やすこと考えてんのかよ。こいつすぐにチェーン展開を考えるよな。吉井はそう思ったが黙ってお茶を飲んだ。
「あ、それで明日の登録なんですけど、壊滅前か壊滅後どっちに行きます?」
「そうだなあ。ちなみにきみはついてくるの?」
「え、わたし? 行かないですよ」
鉛筆をクルクルと回しながらみきは言った。
「なんで吉井さんがつええしてるのを横で、うんうん。つよいね、つよいね。って見てなきゃいけないんですか。お金にもならなそうだし」
「そう言われればそう、か。ほら部活的な感覚で応援を。みたいなのがあるのかなって」
「うーん、わたし的には巨大兵器対人間の戦いを見てもそんなに盛り上がれないんですよねえ」
「じゃあ壊滅前に行くか。午前の仕事終わりで一緒にギルド行った後、昼休憩取って解散って流れで。おれはコミュニティ寄って、きみは家に帰る感じかな」
「わかりました。じゃあそういう感じで。あ、わたし今日当番ですよね?」
「そうだな。今日はきみが当番だ」
「やっぱりわたしか。勘違いという可能性に掛けたんですけど」
みきは食器を重ねて、「あーあ、わたしじゃなくても吉井さんが勘違いすればなあ」と言いながら台所に持って行った。
家にはスポンジの役割の物が無かったので、みきと吉井は相談しながら改良を重ね、布を何枚も重ねて厚くしたものを作り食器洗い用として使っていた。
「そういえば配達サービスもやってるらしいよ」
吉井は暖炉の片手鍋からお茶を自分のコップに入れた。
「え!? いいじゃないですか! 使いましょうよ!」
「でもさ、注文は店に行かないとだめだし、話しぶりだと多分使った食器店に持って行くことになるぞ」
「ええー。それなら店で食べますよ」
「だよな、おれもそうするよ。よし、じゃあ寝るわ。また明日よろしく」
吉井はコップを持って立ち上り階段に向かう。
「おやすみなさい。あ、明日は吉井さんが当番ですからね! 壊滅の後だから疲れたっていうのなしですよ!」
「わかってる、夕食までには戻るからそれからやるよ」
吉井はコップを持ってないほうの手を振りながら階段を登った。




