第42話 コミュニティ壊滅編(前夜の夕食)
皿を重ねて2つの定食を持ちながら歩いていた吉井は、途中トイレに寄りたいと思ったが様々な可能性を考えた結果、先に帰ってみきに渡すことを優先することにし、イイマの店から直接家に戻った。
「いやー、待ちわびましたよ。さあさあ、どうぞどうぞ」
家についた吉井は両手が塞がっていたので足でドアを軽く蹴ると、満面の笑みのみきがドアを開けて入るように促した。
「ちゃんと分厚い肉の持って帰ってきたからな」
吉井はテーブルに皿を置いて、あー、疲れたと肩をぐるぐると回す。
「でも結構時間掛かりましたね。混んでたんですか?」
「まあ、それは色々あってだな」
「へえ、気になりますね。あ、わたしは食べ物に集中するんで、一応は聞いてる風に会話を整えますよ。はい、どうぞ。きたきたあ! これこれー!」
みきは皿を開けると同時に食べ始める。
そう言われると話す気が……。吉井は焼き魚の定食に手を付ける。
「なるほどなるほど。で、吉井さんは明日コミュニティを壊滅させる、と」
食事を終えたみきはナイフとフォークを皿に置いた。
「そう改まって言われると、そうとうアホっぽい感じがするなあ」
「実際どうかしてると思いますけどね。は? 壊滅って。何それ? が第一印象です。で、完全な好意で聞いときますけど。吉井さん、そこで人を殺すんですか?」
「うーん、それね。おれ前から思ってたんだけど多分殺せないわ。それに」
吉井はススリゴから聞いた人殺しは重罪だということをみきに説明した。
「あー、そっか。人殺したら吸収しちゃいますもんねえ。強いのが強いのをやったら結構なもんになっていきそうだし」
「そういうことだよな。やっぱり国のえらい人がビビってるっていうことか」
「そりゃそうですよ。この世界の吸収のやつって、吉井さんが誰かを殺したとして、その人の分がそのまま入るっていうわけじゃないですけど、繰り返していくと小銭貯金状態になりますからね。え、うそでしょ? これで4万円もあるの!? みたいな感じに」
「それ以前にやっぱり現代日本人としての倫理観がさ」
「そっかあ。吉井さんは殺さないタイプの強い人かあ」
「違うな、おれは殺さないんじゃない。殺せないんだ」
「それどっちでもよくないですか?。でもうーん、そっかあ。そっちなんですねえ」
みきはぶつぶつと言いながら椅子を揺らす。
「なんだよ、不満かよ。大抵の人は無理だって」
「わかるんです、わかるんですけど。あれだけはやめてもらいたいんですよ。殺しといて後悔するやつ。今から言っておきますけど、もし吉井さんがそうなったら、わたし立ち直るまでほっときますからね」
「わかるけどさ。正直自分がこの世界でどう立ち回るっていうのがまだ」
「じゃあ、わかりました。わたしがタイプ別でいうと吉井さんがどこにいるか判断しますよ」
みきは吉井をじっと見つめた後、続けた。
「相手がですよ、仮想敵がですよ。2人いるとしましょう。1人がわたしを捉えています。わたしの首にナイフ状態です。で、もう1人の敵は吉井さんが捉えています。羽交い絞めにしているやつです。で、わたしを捉えている敵が言います。『おい、お前が捉えているおれの仲間を殺せ! でないとこの女を殺す!』さあ、どうします?」
「脅してまで自分の仲間をおれに殺させるって、それどういう状況なの……?」
「あくまで例ですから。相手は吉井さんと同等でつええは通用しない設定で。あと信頼できる敵なんで約束は守ります」
そうだなあ、信頼できる敵ねえ。吉井は少し考えた後、「それならやるよ、嫌だけど」と答える。
「なるほどなるほど。じゃあ、数を増やしましょう。100人の敵がわたしの首にナイフで、吉井さんが100人を捉えているとしたら?」
「えー、100人かあ。それは想像が難しいっていうか、その状況になってみないと」
「そこは即答できないってことですね」
ふむふむ、そういうことですか。みきは納得したようにうなずいた後、立ち上がる。
「で、どうなの。判断としては」
「そうですねえ。普通、ですねえ。あ、飲みます?」
みきは暖炉に設置した片手鍋からコップに飲み物を注ぐ。
「え、終わったの?」
「終わりました。言ったじゃないですか、普通です。で、これはお茶ですね。何茶かはまったくわからないですけど。はい、お茶」
みきはコップを吉井の前に置いた。
なんつう無駄な質問を。吉井は置かれたお茶を眺める。
「で、普通なのはわかったんですけど。その吉井さんが殺さないで壊滅ってどうやるんですか?」
「そりゃあまあ。襲い掛かる敵を、ちぎっては投げ、ちぎっては投げみたいな」
「なんか雑ですねえ。壊滅させるならプラン考えないと」
「でもさ。何かの施設とかなら動力源とかそれ系のところを、思いっきり壊してっていうのもあるけど。なんもなさそうなんだよな」
「吉井さんのやり方だと、感覚的には道場破りなんですよ。ちょっと壊滅っていうには弱いっていうか。あ! もしかしてなんですけど」
みきはコップを置いてじっと吉井を見た。
「吉井さん。言ったんですか? 『明日お前らのコミュニティを壊滅させてやる!』って」
「ああ、直接はない。心の声というやつだよ」
「それならよかったです。もし今日、壊滅だ! 壊滅だ! って宣言した状態で明日コミュニティに行ったとしたらですよ。全然殺さないし、そこまで施設の壁とかドアを破壊したりもしないじゃないですか、多分。そうなってくると今日の人が『あいつ壊滅って言ってたのに緩くね? これ道場破りじゃね?』って笑われますよ」
「まあ道場破りの概念があれば、ね」
「それはありますよ。どんぐりとか道場破りぐらいはさすがに。じゃあ、大体解決したところで、っと」
みきは1枚の紙を吉井の目の前に置く。
「わたしたちの登録名なんですけど、候補がこういう感じに」
……解決してんのか? 吉井はそう思いながら紙を手に取った。




