第41話 コミュニティ壊滅編(前夜の説明ターン)
吉井が店に戻るとカウンターに座っているラゴ、厨房に居るイイマと目が合い、イイマに手招きされる形で吉井はカウンターの席に腰を掛けた。
「店のことも考えてくれて助かったよ。あのまま帰られたらどうにもならなかった。ほら、礼だ。飲んでくれ」
イイマは厨房から手を伸ばしてボトルとコップを吉井に手渡す。
「ああ、どうも」
吉井は受け取ったボトルの果実酒をコップに注いだ。
「しかしさっきのはなんだ?」
コップを持ったイイマがラゴとは反対側の席に座り、吉井は、「いわゆるその、何がっていうわけでは」と言葉を濁しながらイイマのコップにも果実酒を注ぐ。
「それはおれも聞きたいな。さっきの回収のときも気づいたら床に這いつくばってた」
ラゴは身を乗り出して会話に加わった。
こういう場面は生きていく上では必要なんだろうけどさ。さっきのおれはなあ、未来の自分はひくだろうなあ、あんときなんであんなことをって。前も10代の頃にもこんなのあったもんなあ。形は違うけどそうとう後悔したよ。だか、あ! やばい。頼まれたテイクアウトそろそろ持って帰らないと! っていう理由を思い出したわ。ここを立ち去るには十分だ。
「あの、すいません。連れが待ってるんでさっきの食事の件なんですけど」
「おう。こっちは1万貰ったんだ。うちの皿そのまま持って帰っていいぞ」
なんか配達してもらえる気でいたから若干サービス低下した感があるけどまあいいか。吉井は改めて
礼を言い果実酒を飲んだ。
「よし、ちょっと温め直す。それにサービスでもう1品追加してやる」
イイマはコップに入っている果実酒を飲み欲してから厨房に戻った。
「あ、なあ。お前はさ、どっかに所属していたのか?」
イイマがいなくなってから数分の沈黙の後、遠慮がちにラゴは吉井に尋ねる。
「そういうのはないかな」
結局これ系の質問に答えるはめに。吉井は間を持たすためにコップを傾ける。
「今はススリゴさんところでやってるんだろ? そっちがメインでいいからさ。いいっていうか、それはこっちには言えないんだけど。余った時間でいいからさ、おれたちの回収を少し手伝ってくれないか?」
「うーん、それは」
「こっちも手が足りないときはコミュニティを使ってたんだけど、今日の件があったからさ……」
「ああ、そういうことか」
「頼む、少しだけでいいんだ」
ラゴはそう言ってカウンターに手をついて頭を下げる。
やってやりたい気持ちもあるんだけどなあ。でもおれこれ受けたら結局ずっとこの仕事やることになりそうなんだけど。もうちょっと、こう。せっかく魔物とかいるんだから、その辺りも絡めてこう、さ。非日常感も出しつつ過ごしたいなっていう。
「わかった。とりあえずやらない寄りだけど考えとくよ。それでさっきの男達も言ってたけど、コミュニティって実際どういう感じ? あいつらの説明なんか偏ってる気がして」
「本当に知らないんだな。まずこの都市というか国には師団っていうのがあるんだよ。それは?」
吉井は首を横に振り、「知らない」と答える。
「多分今は5、いや6か。内容によってそれぐらいに分かれているんだけど。それらを退役した者、途中で辞めた者、なんらかの理由でクビになった者、そういうやつらが集まってる集団があるんだよ。それをコミュニティって呼んでるんだ」
「ほー、なるほど」
「最近では国も兵士を派遣してるんだよ。幹部みたいなポジションのやつらが多いけど。あ、それでコミュニティは大きく2つに分かれていて、派遣されたやつらが主体となって国から請け負う仕事。それと主にギルドを通して個人から請け負う仕事、大体所属してるやつがどっちの仕事をやるか決まってるんだ」
「じゃあ今日のやつらは個人向けのか」
「そうだな。あ、個人の方は直接頼む場合もあるんだよ。基本ギルドを通すってコミュニティでは決まっているけど、小さい仕事なら黙認されている。コミュニティもどんどん拡大しているから全部は管理しきれないんだろうな。なにせ」
ラゴは一息ついて果実酒を飲む。
「最近じゃあ正規の1師団分ぐらいの力を持ってるっていう話だ」
わかんねえなあ、その1師団分がどれぐらいか。話長くなるからとりあえず合わせとくか。吉井は、「へえ、そうなんだ」と適当に相槌を打つ。
「だからさっき言ってたけど、本当に行くのか?」
ラゴは不安そうにちらりと吉井を見た。
やっぱりそう来るか。無軌道な感じするよなあ。
「一応そのつもりだけど」
「あいつら体面を気にするんだ。今日みたいなことが広まったら仕事にならないんだと思う。だから行くのは相当まずいよ。実力があるのはわかっているけど止めておいた方が……」
「そうかあ。じゃあさ、わかりやすく言うとどれぐらいまずいのかな?」
わかりやすく? ラゴは少し考えた後、「1人で師団に挑むような感じだろうな」
そう言って確認するように頷いた。
うん、だからね。それがね、わからないって。まあおれがこっちの常識知らないのが悪いんだけどさ。でもそれさっき同じこと言ってるけどなあ、そこには気づいて欲しかった。
「ああ、ごめん。おれの聞き方が悪かった。ええと、戦い以外でその大変さを例えるならどういう感じ?」
「戦い以外?」
「そうそう、例えば」
吉井は厨房に居るイイマが目に入った。
「例えば料理とか」
「料理か。したことないんだよ、おれは」
「そうか。おれもないけど」
その後会話は途切れ、2人は無言のまま果実酒を飲み続けた。
「ほら、出来たぞ」
イイマが2つの皿をカウンターに置いた時、吉井はラゴとの無言空間が終わることに心からほっとした。
「どうも。無理言ってすいませんでした」
どうすっかな、これ。吉井は持ってきた2枚の皿をカウンターの隅に置いていたことを思い出し、そのうちの1枚を何となく料理が乗っているプレートに乗せてみた。おお、思ったよりフィット感あるな。持ってきた方が大きくて助かったよ。やっぱり大は小を兼ねる、うんうん。
「なあ、その皿はなんだ?」
イイマは何度かプレートに皿を重ねて確認している吉井に尋ねる。
「最初は料理だけかもしれないから、この皿に入れてもらってそれを、もう1枚で上からかぶせるようにして持って帰ろうと思ってて」
「それじゃあ今は何をしてるんだよ」
「料理2枚と空2枚を別で持つのはきつそうなんで、まとめられないかと。埃も防げるし」
「まあ、お前のだ。好きにすればいい……」
よし、これで行ける。吉井はポジションが安定したのを確認し両手に皿を持って立ち上がった。
「おい、お前ドア開けてやれよ」
イイマはドアを指差してラゴに言った。
「ああ、わかった」
ラゴは席を立ち、吉井の前に立ってドアを開けた。
「おお、どうもどうも」
吉井は会釈して体を横にしながらドアを通る途中、「そう言えばきみと今日いたもう1人って何歳?」とラゴに訊いた。
「年齢か? おれが29でもう1人が28だ」
そっか、2人ともその辺ね。じゃあいまいちわからなくてもしょうがなかったよな、回収の時。うんうん、あ。っていうかラゴっておれと一緒か。
納得した吉井は、じゃあ、とラゴに声を掛けて帰ろうとすると、「な、なあ。回収頼みに行ってもいいんだよな?」ラゴはすがるような目で吉井に言った。
「金額とその時の状況によっては考えるよ」
そうラゴに告げ、吉井はバランスを取りながら店を出て歩き出した。
まったくだめっていうわけではなさそうだけど。吉井を見送った形のラゴは姿が見えなくなると店の中に戻った。
照明が落とされ薄暗い中をラゴはカウンターに戻り、頼んだ果実酒の金をイイマに払おうとすると、「ああ、いらない。お前も大変だったしな」イイマはボトルとコップを片付けながら言った後、「あ、そうだ」と手を止めた。
「そういえばさっきの男ってお前とどういう関係なんだ?」
「いや、今日会ったばっかりだ。おれがススリゴさんのとこから金を借りてその返済の時だよ。あそこで働いているみたいだな」
「噂で聞いたんだがよ」
イイマはボトルに残っていた果実酒を、そのまま口を付けてぐいぐいと飲む。
「あいつススリゴがオーステインから帰ってくるときに100万で雇ったらしいぞ」
「な、100万トロン!? そんな」
「あいつが払うってことはそれだけの価値があるってことだ。正直単なるうわさ話だと思っていたが、今日のを見るとな」
すごいな、100万トロンか。あ、そうだ。あいつにも報告しないと。心配してるはずだ。ラゴは同居人のことを思い出した。
「じゃあ、おれも帰るから」
ラゴがそう言うと、「また来いよ」イイマはそう言って手に持っていたボトルを振った。
師団の上の人間と一緒に仕事をした奴から話を聞いたことがあるけど。ラゴはポケットに手を入れて石畳の道を歩く。
みんな言ってたな、あいつらは人じゃないって、そういう意味では。
ラゴは今日の吉井の動きを改めて思い出したが、大事な部分は何一つわからなかったことを思い出す。
あいつも同じだ。本当にいるんだな、あんなのが。ラゴは吉井に頼みたい面倒な回収があったかどうか、顧客のリストを思い出しながら帰った。




