表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
35/168

第35話 これ以降は全乗っかり

 

 重厚な扉の前でどちらが開けるか相談している途中で、後ろから来た3人組が扉を開けそうな気配を察知した吉井とみきは、3人組の後ろに並びそのままの流れで建物に入った。


 ギルドの中は銀行のように窓口担当が前面に座り、その後ろで多くの人が忙しそうに動き回っていた。その雰囲気に圧倒された吉井とみきは、どちらからでもなく入り口近くにあった木のベンチに座った。


「うーん、これどうしたらいいんですかねえ」

「そうだなあ。なんかそこの窓口の人に、魔物倒してお金貰いたいんですけど。って言える雰囲気ではないよな」

「わたしはもうちょっとフランクな感じかと。ヘイ、どうした? 昨日稼いだんだろ。まあな、ついてたぜ。お前のことだからどうせ仕事終わりにあの娘がいる店に行ったんだろ? どうなったか聞かせろよ。みたいな会話をマッチョがマッチョな受付にしてるみたいな」

「うーん、きみは割と古いアメリカ映画風のセリフを取り入れてくるよね」

「しょうがないですよ。おじいちゃんの所で小さい頃よく観てたんです。どうしても幼少期の経験ってその後に与える影響が」

「あの次からさ、きみのおじいちゃん関連の話流していい?」


 はあ? おじいちゃんの話を流すってどういうことですか! いや、毎回言うのもしんどいし。だからと言って。と食い下がるみきに適当に返事をしながら吉井は窓口を見た。


 各窓口に1人座って担当者と話すシステムのようで、席には札のようなものが付いており、吉井の前窓口は、修繕(下水)と書かれていたので、ちょっと他の窓口見てくると言い、吉井はベンチから立ち上がった。


 入り口から見て右奥に移動すると、建築(住宅)、建築(道路)、建築(下水)、建築(その他)と並び、次は修繕(住宅)……と建築と同じ内容の修繕が続いている。


 建築と修繕多いなあ。というか大体ギルドってなに? こんな感じの職業紹介的なのを指すんだっけ。


 窓口の込み具合は建築より修繕が少し多く、造るより直すほうが人気あるのか。吉井は窓口の札を見ながら進んだ。


 修繕が終わると国防(一般)、国防(特殊)とあり、おお、この辺っぽいな。と吉井は少し悩んだ結果、国防(特殊)の列に並んだ。


 一般は6人、特殊は3人が並んでいたが、吉井は自分の列が1つ進んだときにふと思った。


 おれ特殊で合ってんのか? だってこの世界では魔物がいるってことは普通っていうか日常なんだろ。それって特殊なのか、むしろ一般じゃないのか。だって魔物が特殊だとしたら一般って何っていう。ああ、ちょっと待って。そのまんまでこの国防っていうのが軍隊だったとしたら、一般っていうのがまあ前線っていうか体使う系で、特殊が通信とかっていうのもありえる。いや、むしろ全然ある。


 これは一旦保留だ。吉井はまだ見ていない窓口を確認するため、列から離れた。


 国防の横は医療系と農業系がそれぞれいくつかに分かれ、その奥に個人事業主と書かれた窓口が3つ並んでいるのが最後だった。


 個人事業主は窓口が3つあるのにもかかわらず、ずべての列で待っている人が折り返しており、少なくともすべて15人以上は並んでいる。


 うーん、こう見るとやはり消去法で国防なのか。個人で魔物をどうこうっていうのもありそうだけど、ある程度は国が管理してそうだよなあ。てか個人のとこ並びすぎだろ。建築から一つまわしてやればいいのに。


 吉井はちらほらと空席になっている建築、修繕の窓口を見ながら国防の前に戻り、特殊の列に並んだ。


 まあどっちかだろ、国防の一般か、特殊か。いやー、こういう2択は久しぶりだな。何か思い出したよ、おれテストとかでも悩んだら最初に選んだ答えにしてたんだよなあ。なんか間違えたときのショックがさ、変えたときのほうがでかいんだよ。


 それから数分後、自分の番が来た吉井は、「よろしくお願いします」と言って席に座り窓口担当者を見た。


「はい、よろしくお願いします」

 そう事務的に言った20代と思われる眼鏡を掛けた女性は、自然な仕草で肩に掛かる程度の長さの黒髪を後ろに流した。


「あの、ここに来るの初めてなんですけど」

「わかりました」

 20代眼鏡の女性は机の引き出しをいくつか開けて書類を探し始めた。


 おれそこまで眼鏡って意識したことなかったけど。吉井は目の前の女性を見ながら思った。

 

 いいじゃないか……、眼鏡。これが中世風世界の効果か。


 窓口には『サエラン』と担当者名が書かれており、吉井は頭の中で、サエラン、サエランと何度か繰り返して覚えた。


「登録書です。これに必要事項を記載してください」

 吉井に書類を渡したサエランは、机にある書類に何か記載し始めた。


 ほう、登録ね。本格的だな。紙には、登録名、登録者の氏名、住所、これまでの経歴を記入する欄があり、「この登録名って下に氏名書く欄あるんですけど。同じでいいんですか」吉井は紙を見ながら訊いた。


「1人で活動する場合は同じで構いません。複数が所属する場合はその集団の呼び名にして、下に所属する人の氏名、住所を全員分記入してください」

 サエランは下を向いたまま作業を続けながら言った。


「あ、すいません。登録一旦保留にしていいですか? ちょっと相談してまた来ますんで」

 吉井はそう言って紙を持って席を立ち、みきが座っているベンチに戻った。



「なんですか。行ったり来たりして」

 ベンチに足を組んで座っているみきは、大きく背伸びをした。


「なんか登録名みたいなのが必要なんだよ。きみとおれのグループっていうか」

「ほう、なるほど」

「普通に、吉井・みきとかでいい?」

「なんでわたしが吉井さんの性を名乗ってる感じになってるんですか。それは考えられないですよ」

 

 ええ、そこなの? 吉井は記入しようとしていた手を止めた。


「うーん、みき・吉井なら?」

「だからあ、なんでわたしが海外で吉井さんの性を名乗ってる感じになってるんですか! さっきのといいありえないですよ!」

「難しいって。よし、これの主導権をきみに預けよう」

「いいでしょう、いいでしょう。でもわたしこういうのじっくり考える派なんで、明日になってもいいですか?」

「いいんじゃない。住所わからないからどっちみち一回戻るし」

「これを機に住所覚えておいた方がいいかも知れませんね。誰かに道を聞くときもありそうだし」

「ああ、それはそうだな。じゃあ帰るか」


 吉井は窓口で業務をしているサエランを一目見て立ち上がった。


「あ、そうだ。お昼ご飯に焼き鳥買って帰りましょうよ」

 みきは手書きの地図を取り出しギルドの位置を書き込みながら言った。


「ああ、前言ってたそろばん用の部品のとこね。いいよ、近いの?」

「どうですかねえ。近いか遠いかはその人次第じゃないですか?」

「そうなんだけど。一般論としてだな」

「うーん。わたし3年間でその辺の価値観ぶっ壊れてますからねえ」


 みきの残って部分と壊れてるところが未だによくわからんなあ。吉井とみきはギルドを出て焼き鳥屋に向かった。



 焼き鳥を購入した2人は、みきの提案で再び裏山に登り、中腹の眺めのいい場所で倒れていた木に座った。


「ねえ、吉井さん。ラカラリムドルで過ごすにあったって、したいことっていうか、生きる意味っていうか、吉井さんが主人公の物語だとしたら話の芯っていうか、そういうのって何かあるんですか?」


 お、地名覚えたんだ。吉井はそこには触れず、食べた串を紙袋に戻し新しい串を手に取った。


「うーん、今のところ別に。大体日本でも具体的にどうなりたいかって言われると特になかったからなあ」

「ええ、そんなの人じゃないですよ。何か見つけないと」

「しいて言えば、正しいやり方でつええしたいな。なかなか難しいけど」

「それは手段であって目的ではない、っていうやつです。じゃあ、ないんなら」

 みきは吉井と同様に食べた串を紙袋に戻す。


「今後、この世界ではわたしに全面的に乗っかりませんか?」

「うーん、それってそろばん作りも含めてだよな。あと全面的ってところがちょっと気になる」

「あ、そんな大げさに捉えなくてもいいんですよ」

 横に座っていたみきは座り直し、吉井の目を見て言った。


「何か見つかるまでで。吉井さんが目的を、生きる意味を見つけたんならそれはそっち優先でいいですから」

「うーん。まあ、そう。うーん。じゃあ、うん。いいけど」

「はい! じゃあ現時点を持って、吉井さんはわたしに乗っかるっていうことで」

「あ、でも。やること見つかるまでだからな」

「いいですいいです。見つかったらいつでも言って下さい。わたしが認めた場合は乗っかりを解除しますから。はい。じゃあ約束のしるしとして」


 みきは財布から1トロン硬貨を取り出して吉井に渡し、「そしてこれが協力者に向けた最高の表情です。あ、すいません。間が持たないのでもう1枚。ほら、来た。今が最高の表情!」と笑顔で1トロン硬貨をもう1枚吉井に渡した。


「そしてこれを見るたびに思い出して下さい。そうだ、おれあの時、あの場所で協力者になったんだ、と。で、わたしが度を超えた成功者になるギリギリのとこ。悪徳業者の株を売って買って売って買ってしてる時、そういうときにもこれを取り出してですね。最後の戦いだ。乗っかったから、そして協力したからここまで来れた。って今の1トロン硬貨を握りしめるんですよ」

「その辺はいいんだけどさ。全面的に乗っかるっていうのは具体的にどうなるの? 収入を全部半分にするのはいいとして」

「それは一言では言えないですね。その時々で変わりますから」


 ……結局こいつのやりたい放題かよ。吉井は諦めて串を紙袋から取った。


「あ、確認なんだけど。きみがやりたいことって」

「あのう、それ前も言ってますけど。協力者が協力する内容を忘れててどうやって協力するんですか?」

 

 みきは大げさに両手を広げ、「はい! じゃあ、行きます。心の準備はいいですか」と再び吉井を見た。


「はっきり言いますよ。わたしはこれから現代知識を生かしてがんがんお金を稼ぎます。そしてこの国の富裕層に入り週末は立食形式のパーティに出席して、庶民には手の届かないようないいものを飲み食いします。そういう多少は寄り道しながら富裕層しか知りえない情報をお金で買って日本に帰る道を模索するんです。だって、わたし、吉井さん、最初に話したハゲの人。少なくとも3人はこっちに来てるってことは他にもいる可能性はありますよね。だからその場合は先人達が何か試しているということも」

「あ、ちょっといい?」

 吉井はみきの話を遮るように片手を上げた。


「あのさ、そのハゲっていうのやめてもらっていいかな。せめて、そうだな」

「なんですか?せめてゲーハーに?」

「いや、そういうんじゃなくて。車に乗ってた人とかさ、いろいろあるだろ」

「あ、わかりました。そこは別に全然気にしてないんで。じゃあ今後は車に乗ってた人で統一しましょう。わたしも基本そう言います」


 よかった、何か気になってたんだ。ずっとハゲハゲ言うからよー。吉井は少し安堵し、手に持った1トロン硬貨2枚を眺めた。


 全乗っかりかあ。まあいいや、どうせそろばん塾は無理だろう。業者使わないでそろばん作れないよ。どんぐりもないし。


「いいですねえ、吉井さん。その1トロン硬貨を眺めている感じ。ここで思いっきり振っておいたほうが、なんかあった時に思い入れも強くなりますよ。あ、そうだ。わたしの作った木彫りの雪だるまの横に1枚置いておくのも手だと」

「ああ、そういう感じね」


 そんなんあったなあ、こっち来てから1回も見てないぞ。吉井は木彫りの雪だるまをどこにしまったかを考えながら、最後の串を手に取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] このノリすごい好き。 [一言] ふざけたノリの作品は話が遅かったり周囲(現地人)への失礼さが目についたりしがちだけど、そうはならない塩梅がすごくいい
[一言] 続きを楽しみにしてます
2020/05/07 20:32 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ