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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
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第16話 2個あるから倍っていうのは

 

 家に入るとみきは、よっし、よし! と左右の拳を交互に上げる動作を繰り返した。


「借金問題を解決しつつ中央にも行けるなんて! ありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします!」

「そんなに中央に行きたかったんだ。いいよ、別にすることないし」

「わたしの計画の達成には必要なことなんです。これを見て下さいよ、吉井さん」

 みきは部屋の隅を指差した。


 そこには木の板と紙、数本の枝とツルで作った紐のようなものが置かれており、それを見た吉井は、「これ何? なんかの工作?」とみきに訊ねる。


「工作と言えば工作ですけど。わたしがやりたいのはソーラーパネルによる太陽光発電なんです。だってこの世界2個太陽あるんですよ、効率倍じゃないですか! これを使わない手はないっていうか。わたしも色々考えたんですよ。やっぱりスタンドアローン的なものじゃないと意味がないって思って。電線とかはさすがにきついです。そんでここ森だし、風力は無理だし、かといって火力もね。無駄に火を起こしたら怒られるんですよ。原子力発電は、反対、賛成は置いといて住宅地で作るっていうのは論外でしょ」

「うーん、あるもので作ろうとしたんだなっていうのはわかるが、これは素材が違うっていうか。これの組み合わせ全通りやってもソーラーパネルに辿りつかないっていうか……」


 それを聞いたみきは、うんうん。と頷く。


「わかる。そうなんですよ。これじゃあできないですよね。だからわたしは前から中央に行きたかったんです。だってあっちにはガラスでできた窓や、ゼンマイ仕掛けの時計、それに大衆浴場とか。そんなのまであるらしいんですよ!」

「一番重要な部分の、何かしらのエネルギーを電気に変換するところが大衆浴場でまかなえる気がしないが」

 吉井は適当に相槌を打ちながら木彫りの雪だるまのようなものを手の中で転がした。


「そうなんですよねえ。だから結局アイディア浮かび待ちみたいなところはあるんですけど、環境だけは整えておきたいなって。なんていうか、わたしはお世話になったこの村に恩返しをしたいんですよ。ここだけソーラーパネルを使った太陽光発電を取り入れて家の中オール電化にしてですね。で、他の村人が来たときにめちゃくちゃ明るい中で、肉を速攻で焼いて、この村の人達が優越感を得られるように」

「いやらしいなあ。なんだそのちょっといい暮らしは」

「わたしだっていきなりソーラーは無理だと思ってますよ。だから地道にトランプからって考えてますし。でもよかったです、まさかこんな機会があるなんて。直接吉井さんに頼んで中央行くのは嫌だったんです。さっきあなたが言ってた、力を誇示したくない。っていうのに通じる感じですよ」

「へえ、そうなんだ」

「要はですね。わたしが変な人風で? あなたを巻き込んで? 街に連れて行って貰って? 物語が進む? みたいな」


 大体それやってるじゃねえか。と吉井は思ったが、うん。そうだよな。と笑いながら木彫りの雪だるまを床に置いた。


「でもわたしがあなたなら」

 みきは吉井をじっと見た。


「もっと単純なの考えてました。例えば兵士を一人すぐに殺して、残った一人が抵抗するのを、中年が見てる前で今度はじわじわと殺してですね。で、思いっきり脅しながら中年にサインさせて借金をチャラにした後、迷惑料とかなんとかで中央に帰ってから金を渡す内容も追加させて。でも、わたしたち道わかんないから中央行くまで案内してもらい、市街地近くまで来たら殺して終わりって」

「きみ、けっこうきてるね……。おれはそういうのはちょっとなあ」


「あ、でも」

 みきは両手を吉井の前でパタパタと横に振る。


「絶対やらないですよ! 想像してるだけなんで。考えることと、それを実行することは全然違いますから!」


 まあ、それもそうか。と吉井は一瞬納得したが、ん? と首をかしげて考えを改めた。


「でも思いついたことを口にするのと、想像のままでとどめておく。っていうのも全然違うけどな」

「ちょっと話を長くしないでくださいよ。あ、わたし村長のとこお金取りに行ってきますんで」


 みきはそそくさとドアを開け外に出た後、「あれですよね」と言い振り返った。


「200枚で交渉してましたよね。ということは」

「うん。212枚あるっていってたよな。12枚はこっちでもらおう。どっちみち金はこれから必要になってくるだろ」


 ふっふっふ。みきは含み笑いをしつつ吉井を見た。


「お兄さん。12枚って日本だと150万ぐらいですよ」

「へえ、いいんじゃない。それぐらいは」

「賛同してるんですよ。確かにそれぐらいのことはしてますからねえ。じゃあ12枚の配分は後でじっくりと」

 みきはそう言い残し村長の家に向かった。


 中央ねえ。吉井は床に寝転んだ。


 行ってどうすんのかわからないけど、この村にいるよりはましか。でも、なんか能力的なのあるからいいけど。吉井はごろんと反対側に寝返りをうつ。


 これ素だったらまじでどうしていいかわからんな。


 吉井は目を閉じ自分の知識全てを使ってソーラーパネルの作り方を想像したが何一つ思いつかず、数分後には完全に眠っていた。


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