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泥状のギギルコン「と」  作者: がら がらんどう
吉井とみきとみきと吉井
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第104話 さかのぼって調べるぐらい


「あの、どうでした?」

 全師団の責任者が招集された会議が終わり、建物から出てきたスツリツトの横に並びヒマリヌは言った。


「やはり我々第4だけでなく第5、それ以外の師団もノリュアム達の消息を掴めていない」

 スツリツトは早足で歩きながら答え、ヒマリヌは慌てて追いかける。


「そんなことが? 第5にも伝達要員がいたはず」

「だろうな。だが現状機能していないということだろう」

「ではこれからどうすることに」

「それは」

 スツリツトは足を止めてふっと息を吐いた。


 ああ、この人やっぱり綺麗だ。立ち振る舞いから髪の質まで全部。なんでこんな差が。

 ヒマリヌは調子のいい状態だと一般的な容姿だと思っている自分との違いを改めて感じたが、すぐにそれを押し込む。


「我々第4も含め師団は国防に専念することとなった」

 スツリツトは拳を握りしめ、再び歩き出す。


 なるほど、国の方針としては始祖の動向がわからない状況では師団を動かしたくないということか。まずは自分達の身を守ることを優先。うん、それは間違っていない。ヒマリヌは1人納得する。


「でも誰かが確認に行くんですよね?」

「ちょっといいか。ヒマリヌ」

 スツリツトは前方の建物を指す。


「戻ってからゆっくり話をしよう。わたしも考えをまとめたい」

「あ、すいません。わかりました」

 

 あまり見ることがないスツリツトの張りつめた雰囲気に圧倒され、ヒマリヌは口を閉ざしスツリツトに続いた。



「今回の件、オーステインに派遣した第4、第5の師団員失踪についてお前はどう思うんだ?」

 第4師団建物の自室内に戻ったスツリツトは、時折深呼吸をしながらお茶を淹れヒマリヌに手渡した。


「多分、ですけど」

 ヒマリヌは受け取ったお茶を両手で握りしめゆらゆらと揺れる液体を眺める。


「お前の多分の使い方はもう知ってる。気にするな」

「はい。では、おそらくですが」

「それも一緒だ」

 スツリツトは少し笑い自分に入れたお茶を持って椅子に腰かけた。


「派遣した師団は主要人物が死亡、もしくは派遣した兵士全員死亡のどちらかだと」

「……ノリュアムもか?」

「はい。ある程度入れる兵士ならその移動速度から考えて、もう戻って来てもおかしくないです。なにせ出発してから2ヵ月近く経ってますから」

「だがノリュアムだぞ。あいつをどうこうできる人間など限られている」

「そうですね。あの人は確かBランク、あ、ええと」

 

 そうだ、スツリツトさんは特級派だった。最近使ってなかったからなあ。ヒマリヌは指を折りながらランクを特級に置きなおした。



 数年前、議会で商人出身の議員数人が共同で提案した「特級の等級表示に関する変更案」が可決される以前は、主にギルド依頼で使用している10級から1級、それ以上の能力者は特10級から特1級とし国全体で統一していた。

 しかし通常の級と特級を混同してしまう事例は一定数あり、その手続きが都市と市民での等級の取り違えだった場合には市民側が責任を負わされることも多く、この提案には市民側の8割(全体のおよそ4割)が賛成に回った。


 逆に市民以外の半数、師団責任者を含む国の要職を兼務している議員は、当初ほぼ全員が反対の立場を示したため否決が有利と言われていたが、国との繋がりが深い第1師団が賛成に転じた結果、議会の半数以上の信任を得て可決。10級から1級はそのまま、それ以上の特級を新しい文字を使用し、Iランク(特10級)からSランク(特1級)に変更され、以降公式では特級表示を使うことは無くなった。

 だが師団員の中では以前からの名称に愛着を持つものも多く、ほとんどの師団員は現在でも特級を使用しており、スツリツトもその1人だった。



「そうだ、特3級。あいつとやりあえる者など、都市ラカラリムドル、いや国ラカラリムドルで30人もいまい。だからやはり原因は始祖の調査。そこで何かが」

「そうですよね。わたしも始祖が要因だと思うんですけど。やっぱり行ってみないことには」


 あ、そうだ。ヒマリヌは思い出したように手を叩く。


「さっきの続きです。実地の確認はどうなったんですか?」

「それはだな」

 スツリツトは再び深く息を吐く。


「師団ではなく外部に委託することとなった」


 外部? ヒマリヌは一瞬眉をしかめた後、ああ、そうか。と頷く。


「コミュニティですね」

「そうだ。あんな落伍者の集まりに何ができるというのか」

「しょうがないですよ。あそこに所属している兵士は死んでも仕事をしても都市にとっては利益となりますから」

「だからといってこんな重要な仕事を任せるなんて」


 うん、でもやっぱり合理的だ。ヒマリヌは思ったが口に出さず、静かにお茶を飲んだ。


「それにコミュニティのあの男、責任者の」

「あ、知っています。わたしが見学に行ったとき案内してくれました。ノリュアムさんの同期ですよね」

「何を考えているかわからんへらへらした男だ。さっきの会議にもいた。命令なら行きますよ、などと言っていたが」

「あの人は当然特級ですよね?」

「そうだな。確か特5級だったはず」


 特5、か。ヒマリヌは再び指を折って確認する。


 S、A、B、Cで、ミナトロンさんはDランクか。でもこのランク付けも振り幅が大きいから。同じランクでも上の方と下の方じゃ全然違うし。だから必ずしも実力と一致しているとは。あれ、そういえば。ミナトロン、最近どこかで見たな。ミナトロン。ヒマリヌはその名前についての自身の記憶を探る。


「あっ!」

 ヒマリヌは残っていたお茶を飲み欲し立ち上がった。


「すいません。確認したいことが出来たのでちょっと出てきます」

「ああ、いいが。どこに行くんだ?」

「第1の出入管理の所へ」

「本当にあそこが好きだな。お前は」

「割と役に立つんですよ、出入りの情報って」

 ヒマリヌはいそいそと外出の準備を始める。

 


 特級(Iランク)以上の人間はラカラリムドルを出入りする際、第1師団が管轄する出入管理局に報告する義務があり、数週間前に確認した時にミナトロンの名前があったことをヒマリヌは思い出した。


 特級以上の記載のない都市への出入り、名簿への虚偽の記載は固く禁じられ、発見された場合、基本的に本人は死刑、場合によっては同行者及び滞在先の人間も同様に処分されることとなっているため、以前は名簿の不正利用による特級者同士のいざこざも多発していたこともあり、ある時期から現地での記載と第1師団管轄の管理局の2重で取り扱うことなった。


 ヒマリヌが通っていたのは管理局の方で、通常は師団でも副師団長以上しか閲覧できないこととなっていたが、スツリツトの権限により回数、時間を限定しヒマリヌに閲覧許可が下りていた。

 


 確か目的地はオーステインだったはず。たしか時期的には今回の遠征と少し重なってた。ランク付きが同じ場所に行くっていうのもめずらしいなって思ったのを覚えてる。正直Dランクがノリュアムさんに何かできるとは思わない。多分原因は始祖だ、それは間違いない。でも結果としてもう一度行くことになったのは気になる。なんせコミュニティというところは。あ、コミュニティ。そうだ、そういえば。ヒマリヌは鞄を肩から掛けながら振り返った。


 

「スツリツトさん、コミュニティってどういう意味なんですか?」

「意味?」

 スツリツトは立ち上がり、知らんな、外国語だろ?そう言ってお茶の道具の片づけを始める。


「わたし見学の後に結構色んな所で調べたんですけど、どうやら外国語ではなさそうなんです。それから年単位で気になってて、今また数ヵ月ぶりに思い出しました」

「じゃあ造語だな。どうでもいいだろ、そんなことは」

「そうですね。すいませんでした。夜までには戻ります」

 ヒマリヌは一礼して部屋を出た。


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[良い点] 混乱を避けるためとか何とか言いながら ぜんぜんやさしくならない改正。 正しいことに改めてないんだけど 自分で改正って言っちゃう。 あるある あってはならないあるある [気になる点] ひ…
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