宇宙人につかまった -3-
会議では以下の議題を話し合った。
調査対象をどうするのか。
サンプルを何体用意するのか。
どういった調査が望ましいのか。
前回捕まえたチキュウジンをもう一度拘束するという案が出た。
だがしかし、拉致、拘束して調査した他惑星の個体を再調査することは、宇宙法的にはグレーゾーンだった。
今回は"提督"のことがあるので、そういう危ない橋は渡りたくはない。
8時間に及ぶ会議の末に以下のことが決定された。
①関西人の若年の女性を調査する。
②調査個体は1人。
③実行は"大喜利"を仕掛けて、その答えを分析する。
前回調査したチキュウジンが若年の男性であったことから、調査対象の差別化を図る意味で、①が決定された。
また幼年の個体や、老年の個体は我々が既に採集しているチキュウジンのサンプル数が少ない為に、データの比較に難があるというのも要因の一つだ。
沢山の個体を調査しなければ十分なデータは得られない。その為②の1人というのは不適切に感じられる。
しかし、これには理由がある。
まず、発展途上惑星の調査検体との接触は"10万体"までと宇宙法で定められている。
我々は既に"10万体"のリミットギリギリまで調査を行っていた。
その上、私の隊は下っ端。調査個体数制限は一か月に3体までと決められているのだ。
そして、今月に関しては既に3体と接触を行っている。今回のような特例であっても、上からの指示が無い以上は最小限のリスクに留めておいた方が良いだろう。
また、今回の調査に関しては数が多ければいいというものでもない。
前回も一人のチキュウジンの調査であった。
今回も頭数を揃えた方が、研究条件の過大化による不穏分子の出現を避けることにも繋がる。
③の"大喜利"というのは、私の部下の一人が事前に調査した資料の中にあった。
今回の調査において最も重視されるのは"関西人の笑いへの貪欲さ"だった。
先日のプレゼンテーションでも、あのチキュウジンが一度は船体の外に出たにも関わらず、自らまた志願するように我々に拘束された点に、皆興味を持ってくれていたようだ。
我々の文化に元々"笑い"というものが根付いておらず、その概念を理解した今でさえ、あの男の行動には疑問を持たざるを得ない。
我々における"未知への好奇心"のような行動の起源が"笑い"という概念に存在しているようである。
そして、"大喜利"は日本では一般的な知名度を持つ"笑い"の能力を見極める手段であるということだ。
特に関西圏に住む日本人はこの"大喜利"を好む傾向にあり、関西人の能力を見定めるのに丁度いいように思える。
先ほど、我々がこの"大喜利"を試行してみたところ、非常に冷たい沈黙が流れた。誰も回答を出すことが出来なかったのである。
このままでは不味いと隊長として口火を切って出した回答は、誰一人笑ってくれなかった...
この原因については分析済みだ。
それは、"笑い"の実行とはつまりは"有識"から外れることに他ならないからである。
我々のような上位の知的生命体の脳には"共有知識領域"が存在している。
これは我々が集合として持っている知識のことであり、更には"発想"と呼ばれる、シナプスのやりとりの手順までもが知識として管理されている。
つまり我々が発想するもののほとんどは"有識"であり、これにより、我々同士で発言したことに対して、意外に感じたり、非常識であると感じることはほぼ無いと言っていい。
勿論我々には個体によって強化されている"シナプス"は異なり、"自意識"と呼ばれる領域は残されているが、役割をこなす為の発達はあっても、笑いを取る為に有効な発達をしているものは一人もいなかったのだ。
これにより、この"大喜利"というものがチキュウジン特有の技術であることを確認できた。
その為、これを調査の手段として使用することに異論は出なかった。
ーー
「では、早速第一問!問題はこちら!」
私は日本のバラエティー番組の司会者を模倣してなるたけ大きな声でハキハキと喋った。
30m × 40m の巨大ディスプレイに問題が写し出される。
-世界で一番優しい嘘とはどんな嘘?
「ではお手元のフリップにお書きください!」
チキュウジンの上半身の拘束を解いた。
部下がチキュウジンに紙とペンを手渡している。
鋭い張り手が部下の頬を凪いだ。
「ふぎゃあああ」
部下が真横に物凄い勢いで飛んで行った。
観客役の部下達がざわざわしている。
「ふざけんのもええ加減にしーや。あんたら!」
チキュウジンはカンカンに怒っていた。
宇宙人につかまった -3- -終-




