96=〈ドーラン様と双子〉
少し長文です。
今回は、マーシー視点で書いてあります。
☆ ★ ☆ (19)
シンシア様が控えの部屋で待っているように、と話した後の言葉を聞いて、私の視線はシンシア様からドーラン様の横顔へと向かいリリア様の顔で止まったけど、私の頭と胸の中がどくんどくんと三度目の衝撃と同時に、リリア様が首を軽く下げてくれたので、私はやや口元を緩めたのだ。
私の視線は三人が部屋の中に入ったと確認したけど、私の足がその場で止まってしまったみたいで、横にいたルーシーから軽く右手で背中を押され、ルーシーが先を歩きながらも、昨日の庭での彼の言葉と私の手よりも温かく感じた彼の手のぬくもりをまた思い出し、剣の柄を持つ左手に力を入れると同時に、ぐっと右手を握りしめて拳を作り歩く足が緩やかにルーシーの後を追っていた。
私たちはこの城に入りずっと同じ部屋で寝起きをしていたが、入り口を中心に真ん中で仕切ってあり、左右の壁に沿ってベッドが置かれ、入り口とは反対側が頭になっている布団の中に入ってから、三人の刺激的な言葉が思い出され、彼に手を握られたことが蘇り昨夜はなかなか寝付かれずに、今は仕事中だと思いながらも、断片的にそのことが頭の中に蘇り、部屋に入ってルーシーと隣同士に座ったけど、彼女に声をかけることもなく膝の上に置いた両手を見つめ、何を話したらいいのだろうか、と思案していた。
「グルスキー、私は控えの部屋に入るからサーラス様が来たら知らせてくれ」
「かしこまりました」
彼らの声が外から聞こえたので、私は反射的に自分の椅子から立ちあがると、いつも開放されていた入り口から、ドーラン様が部屋の中に入ってきたのを確認する。
「ドーラン様、こ、こちらへお座りください」
「ありがとうございます」
私が中に入ってきた彼に声をかけると、彼は私の対面の椅子に向かいながらそう返事をすると、ルーシーが突然『外』と言って立ちあがったので、私は驚いて彼女の気持ちを考える隙もなく、『外には行かなくてもいいから座って三人で話そうね』と、ルーシーの言葉で我に返り咄嗟にそう言ってしまう。
「ルーシー、三人で話しましょう」
彼もそう言ってくれたので、ルーシーは私たちの顔を交互に見てから、何やら考えているようだけど「はい」と返事をしてくれ、もう一度自分の椅子に座ったので安心する。
「私たちが三人で話す機会をシンシア様に作っていただけたと思います」
彼がそう言いながらルーシーの顔を見ているから、
「私もそう思う。私が説明するからいつも通りに話せばいいからね」
私はそう言ったけど、自分の声が少しうわずっていると思い、今度は彼の視線が私を直に見ているから、少し顔が熱くなってくる。 これって緊張しているのだな、と自分で自覚はしているけど、隣のルーシーの顔を見ることもできずに彼を見つめてしまう。
「お二人は何か大事なお話しがあったのでしょうか」
「……分かりません。リリア様がまた何か考えたのでしょうか。ルーシー、何か聞いているの?」
私はそう言いながら、やっと彼の視線を外してルーシーの横顔を見る。
「ない」
「何も聞いてないそうです」
「お二人でお出でになったのは初めてです。私は王様から次の方の話しを断るように言われましたよ」
「えっ、お断りするのですか」
「それだけお二人の話しに興味を持たれていると思います。リリア様の話しは聞いていて楽しいとおっしゃってましたよ」
「……楽し」
「ルーシーもそう思っているみたいです。私もリリア様の話し方は好きです。隠しごとをしないというのか、思ったことをそのまま口にされているみたいに感じます」
私はそう言ったけど、二人だけで話す機会は少なかいけど、シンシア様の話しを聞いているとそう思っていたし、その言葉が自分の緊張感とは裏葉にすんなりと口から出てしまう。
「……そう」
「ルーシーもそう思うそうです」
「私はいつもそばにいませんから、お二人がそう思えばそうなのでしょうね。私は少ししか話てしいませんが、そういう感じがしました。自分は王様に言いたい放題ですと話されていました。ほんとうかどうかは分かりませんが驚きました」
「……リリア様の話しはいつも驚きますね」
「そう」
「ルーシーも驚くと言っています」
「ほんとうに不思議な方ですね。自分のことは話さなくても、周りの人たちの気持ちをよく考えているみたいですね」
「……いつも」
「ルーシー、リリア様はいつも周りの人のことを考えるの?」
「はい」
「そういうことをリリア様と話しているのですね」
「はい」
「ルーシーがいちばんリリア様のことを理解しているのですね」
「シンシ……」
「シンシア様も理解しているそうです」
「そうですよね。私の立場もお二人に理解していただきたいです」
「はい」
ルーシーが私よりも先に返事をしたことに驚く。
「リリア様が休息日を作ると王様に話していただけましたが、今まで考えたこともありませんでした。そういう風になれば嬉しいですね」
「なる」
「リリア様が話したことは王様も認めていただけると思います」
私はルーシーのはっきりと言い切った言葉を聞き、その思いを代弁したつもりだ。
「思う」
「ルーシーもそうなると思うと言っています」
「お二人がそう思っているならそうなりますね。私も楽しみに待ちましょう」
「……楽し……」
「え、えっ、何が楽しいの?」
「……話す……」
「三人で話すこと?」
「……マーシ……」
「マーシーと私が二人で話すことが楽しみだと言っているのですか」
「はい」
「そうですね。私はマーシーと二人でたくさん話したいです」
「あ、ありがとうございます。私も二人でたくさん話したいです」
ルーシーは私が緊張しながら話していることを汲み取っている。この話し方はルーシーも緊張していることを表している。私には分かる。会話が止まらないようにしなくちゃ。
「……話す……」
「えっ、何を話すの?」
「……ラデン……」
「ルーシーはラデン様とたくさん話したと言っています」
「……楽し……」
「楽しかったと言っています」
「マーシーの会話はすごいですね。今まで二人でたくさん話してきたから、一言でお互いの気持ちが理解できるのですね」
「……そう……」
「私たちも理解し合えるといいですね」
彼がそう言ったから、私は次の言葉がすぐに出ない。
「シ、シンシア様も話すことは大事だと言っていました。よ、よろしくお願いします」
私は彼の言葉を聞きよけいに焦ってより顔が熱くなるようだ。
「……話す……」
「ルーシーも話すことが大事だと言っているの?」
「リリア……」
「リリア様が大事だと言ったの?」
「王子……」
「あっ、リリア様が王子様に話すことが大事だと言っていたの?」
「そう」
「ドーラン様、サーラス様の屋敷から使いの者が来ました」
入り口から声がしたけど、私は人の近づいた気配は感じなかった。
「使いの者?」
「はい」
「すぐに行くと伝えてくれ」
「かしこまりました」
「少しお待ちください。話しを聞いてきます」
彼は穏やかな視線で私を見つめ、そう言って外に出ていく。
「ふーっ、緊張して疲れたー。私の足を何回蹴飛ばしたのよ」
私は彼が外に出てから小声でそう言うと、彼女は笑いながら右手で四本指を立てた。
「参ったーっ」
「はい」
「使いの者が来たから本人は来ないのかしらね。ちょうどよかったね。何だか緊張して疲れたよ」
「はい」
「二人で話してみないと分からないけど、私たちと話す声の響きが違うのね。近くでまじまじと顔を見てここがドキドキした。素敵な人ね。優しそうだと思わない?」
私はそう言ってしまったが、庭の椅子に座って話したときはルーシーのことを聞いて、彼に対する意識が変化してしまい、間近で彼の顔を見ていたけど手を握られことで、すべてを打ち消したように印象が強く、ルーシーには話せないが今日も間近に見ることができ、彼に対する私の気持ちがより一層強く沸き上がってきたような気がする。
「思う」
「二人で思えばそうなのよね」
「いい……」
「何が?」
「外」
「外に出なくて一緒に話せたこと?」
「はい」
「気遣ってくれて悪かったわね。もう緊張しちゃってさ、ルーシーがいたから助かったのよ」
「はい」
「長い付き合いだから分かるよね。自分で声が変だと思った」
「はい」
「やっぱりね。ルーシーも緊張したの?」
「した」
「だよね。ドーラン様も緊張したかどうか機会があったら聞いてみるね」
「はい」
「こんなに緊張していると二人だけで話したら大変ね」
「ラデン……」
「ラデン様と話してルーシーも緊張していたの?」
「した」
「ラデン様も緊張したのかしら?」
「した」
「聞いたの?」
「はい」
「だよね。私たちはうまくいくと思う? こういうことはルーシーとしか話せないからね」
「思う」
「ほんとうに、ありがとう。私も頑張るから二人で幸せになろうね」
「はい」
「ありがとう」
「話す」
「何を話すの?」
「リリア……」
「このことをリリア様に話すの?」
「気持ち」
「えっ、誰の気持ちなの?」
「私」
「分かった。ルーシーの気持ちをリリア様に話して、私に詳しく説明してもらうのね」
「はい」
「楽しみにしているからね」
「はい」
私たちがそういう会話をしているとドーラン様が戻ってくる。
「お待たせしました」
「いえ、ルーシーと二人で話していましたので」
「……私のことですか」
「えっ、は、はい」と、私は咄嗟にそう言ってしまう。
「さっきは何だか緊張してまして、自分でこれほど緊張するとは思ってもみませんでした。サーラス様のお屋敷の方と話せてよかったです。少し気持ちが落ち着きました」
突然彼がそういうことを言うから驚いてしまい、ルーシーの顔を見てしまう。
「……私たちも……その……二人で緊張していたと話していました」
「……お互いに同じとは……その……少し笑えますね。私も安心しました」
そう言った彼は少し照れているような表情に見えてしまう。
「そのことをいつか聞いてみようと二人で話したのですよ。ルーシーも最初は緊張していたと話したので、ラデン様も最初はそうだったみたいですよ」
私は先ほどの会話よりも少し心のゆとりができたみたいだ。
「気持ちが張り詰めるのは男も女も関係ないみたいですね。今度はラデンとここで二人で話したい。マーリストン様がいらしたときに話せるように王様にお願いしましょう」
「話す」
「ルーシーもラデン様にそのことを話すの?」
「はい」
「分かりました。楽しみにしていると伝えてください」
「はい!」
「サーラス様に何かあったのですか」
「サーラス様が屋敷を出る前につまずいて足を怪我したそうです。様子をみていたけど痛いということで、今日は向こうからお断りになりました。王様も私たちにもちょうどよかったです。次はいつになるか予定が分からないそうです」
そう説明した彼の声の響きは、私にはとても心地よい雰囲気で聞こえ、彼の言葉を聞くたびに体の中が熱くなるような気がする。
「……それは心配ですね」
「手だとまだ動けますけど、足を怪我するとしっかりと歩けないから不自由ですね。怪我には気をつけないといけません。私は今まで大けがはしたことないです」
彼がそう言ったから、私の過去を話せばいつも側にいるルーシーの話題も話すようになるけど、両親のことを聞かれたら困るな、とふと思ってしまう。
「私たちもないわね。寝込んだこともないです」
私はルーシー顔を見ながらそう言うと、彼女は頷くように頭をコクコクと上下に振っている。
「リリア様も元気ですがシンシア様も生き生きとしています。シンシア様はリリア様がそばにいらしてから、よけいに元気になられたようですね。私は王様もそういう気がします。お二人にとってはいいことです」
彼がそう説明するけど、王様のことは話す機会がないから分からないけど、確かに、シンシア様がリリア様の話しを私たちにしていると、少し雰囲気が変わったような気がしていた。ルーシーとそう話していたけど、生き甲斐を見つけたというのか、リリア様の存在が王様にも変化をもたらしているのだろうな。
「私もそう思います。リリア様は周りの人たちを元気にするのかしら?」
「リリア様はそのような感じの人ですね」と、ドーラン様。
「……好き」
「えっ、誰? リリア様のこと?」
「そう」
「もちろん私も同じよ。ドーラン様もそう思いませんか」
「私もそう思います。私はお二人のことも好きになりました」
彼が話したその言葉を聞いて、私は一瞬目が点になる。
「あ、ありがとうございます」
私は驚いてこの言葉しか出ない。
「私が考えた以上に二人の気持ちが理解し合えていると思い、お二人がとても仲いいことが分かりました。私は一緒に話せてよかったです。シンシア様に感謝します」
「あ、ありがとうございます」
私は一瞬言葉を失いそうな返事をしたけど、彼の意外な言葉を聞いて、ルーシーのことも気に入ってもらえ、暖かくて思いやりのある人だと思えて嬉しくなる。
シンシア様がこういう機会を設けてくれ、ドーラン様が言ったように三人で話せてよかった。彼女にルーシーと一緒にお礼を言わなくてはいけないと強く思う。
今まで何回か彼と手合わせをし、ほんの少しだけ話す機会があったけど、こうしてルーシーと一緒に目の前で彼の顔を間近に見て話せ、今まで以上に彼の存在が私の心の中に埋め尽くされ、たくさん話して私のことを理解してもらいたいと思う。
彼のこともたくさん知りたいと思い、自分の子供のことなど考えたこともなかったが、その可能性が少し見いだされたような気がして、彼のそばにずっといると幸福感を味わえるだろうな、と思った。
ルーシーが言葉以外に私に話せなかった理由も考えられるので、私たちは両親の存在は未だに知らないけど、五歳のころからシンシア様の屋敷で私たちが出会ってからずっと一緒に育ててもらい、この城で二人で勝ち残り彼女の側近として部屋も同じだし、自分ひとりが喜びを感じられたら、相手を想って私だって内緒にするよね。
複雑な状況が重なり合った私たちの生い立ちがどうであれ、人それぞれの運命は違うけど、これからはひとりではなくて二人で……否、四人で生きていきたい、と私は強く思った。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




