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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第四章 『城の中は……』
95/165

95=〈王様の部屋へ〉

やや長文です。

     ☆ ★ ☆ (18)


 私がシンシア様の部屋へルーシーとマーヤを従えて訪れることは毎度のことだけど、もう少しすると王様の部屋へ行くと告げられ、昨日の今日なのに気の早いことだと思いながらも、よく見ると彼女は着替えを済ませているのだ。


 彼女は薄い紫色のゆったり目のストレートのパンツルック姿で、同色の上着は膝の辺りまでと長く、お尻の横から左右共に切れ込みがあり、胸の前の合わせもゆとりがあり、全体的に体型を隠すようにふわりとした着方をしていた。


 私たちはいつもながら、前が深く合わさったベージュ色の甚平みたいな服を着ているが、これはシンシア様から五着も支給された物だった。


 袖口と足首は紐で付いて(すぼ)められるようになり、私たちは両方ともにストレートにしているけど、上着はお尻をすっぽり被せるような長さで、紐があり私はウエストの正面で片花結びにし、二人は右横でしっかり縛ってあった。


     ☆ ★ ☆


「ドーラン様、お話し中に申し訳ありません」


 シンシア様は部屋の外で私の見たことのない、二人の男と私たちにも気付かずに真剣そうに後ろ向きで話していた彼に近づき、階段の下からそう告げる。


「あっ、はい」と、 振り返った彼は少し驚きの表情で私たちを見つめる。


「今日は突然ですが王様にお話しがあるのでリリアと伺いました。これからお話しができるかどうか聞いていただけますか?」


「……はい。承知しました。少しお待ちください」


 彼は刹那な間をおいて返事をし、部屋の中に入いく。前に来たときは誰もいなかったけど、何かあったのだろうか。取り残された二人の家臣をよく見ると、剣に黄色の編み紐が付けられていたから、ドーラン様の配下のような気がしたけど、ドアの左右に別れて立ち構える。


「王様、シンシア様とリリア様がお話しがあるそうでいらっしゃいました」

 ドーラン様が話している言葉が私には聞こえる。


「二人で来たのか」

「はい」

「珍しいこともあるものだ。次は誰の話しを聞くようになっていた?」

「はい。サーラス様がお屋敷のことで話しがあると伺っています」

「サーラスが来たら先客の話しで伸びていると断わってくれるか? 今度はいつがいいか聞いてくれ。早めに頼んだぞ」

「かしこまりました」

「それでは二人を中に通してくれ」

「かしこまりました」


 私にはドーラン様が返事をした言葉やや大きめに、王様の声は小さめに聞こえている。


「今からお会いするそうです。中にお入りください」

 彼が段上でシンシア様を見ながらそう言ったので、

「私たちは中に入るからあなたたちは控えの部屋で待っていて」

「かしこまりました」

 マーシーが返事をしてルーシーが頭を下げている。


「ドーラン様、たまには三人で話しをしてください。よろしくお願いします」


 シンシア様は階段を上り詰め、彼の方に向いてそう言うと、マーシーの顔が少し嬉しそうにしていたが、ルーシーの顔はどうしたらいいものか、と微妙に困惑した表情が読み取れる。


「かしこまりました」


 彼は泰然自若(たいぜんじじゃく)とした顔付きで、シンシア様を見てからそう返事をしているが、うーん、さすがと言いたい。シンシア様は三人で話しをさせるために、今日はマーヤを外したのだと思い、マーシーとルーシーと三人でゆっくり話しができる。なかなか三人で話す機会はないと思っていたので、マーヤには悪いけどよかったと思う。


「お前たちも下がれ。ドーランも下がっていいぞ」


 私たちが中に入ると、そこにいた家臣の二人にそう言って、ドーラン様も彼らに続いて入り口の外に出る。


「お忙しいのに申し訳ありません。奥で話してもよろしいですか。たまには王様を驚かせようと思いまして、二人で相談して突然来ました」


 シンシア様は挨拶も(そぞ)ろで、いつもそうなのか私がいたからなのか最初からそう言っている。


「よかろう。二人で一緒に来るとは大事な話しなのか? 二人で来るのは初めてだな」


 王様は少し怪訝そうな顔付きでそう言ったように感じたけど、すぐ立ちあがって奥の部屋へと歩き出す。彼女はその後に続いて部屋へ入りながら、彼の後ろから話しをしている。


「リリアがまた新しいことを考えたので、王様に許可をいただこうと思いました」


「二人で一緒だと聞いて少し驚いたが……また驚くことなのか?」


 王様そう言いながらもその奥にある蚊屋を背にして、前にもその場所に座っていたから、そこが彼の椅子だと認識はしていたけど、私たちはドアを背にして、彼女が彼の対面に座ったので、私はその右隣に座る。


「私は驚きましたが分かりません。リリアが王様に説明してね」


 彼女からそう言われたので、椅子に座る前から彼の薄い茶色の瞳の中を見ていたけど、その視線はシンシア様に動いたので、私は気持ちを落ち着かせるために一瞬テーブルの上に視線を外し大きくひと呼吸してから、もう一度彼の目を見ると目線が合ってしまう。


「私はバルソン様の考えた編み紐の制度をお聞きして、別口に女の立場で作ってはどうかと考えました。そしてそれをシンシア様に相談しました」


「……なるほど」

「細かいことは考えていませんが、今までシンシア様のお忍びでそばにいた者たちを一つのまとまりの中に集め、男の編み紐の制度と同じように、何か女性らしい物を与えて位置づけを確立したいと思いました。男の方に比べると女は力が弱いとは思いますが、剣客と呼ばれている女性を一ヶ所に集めることを考え、編み紐の色は家臣の間に浸透していると考え同じ色を使いたいです。でも、基本の色は白にしていただきたいと思いました」


「……なるほど」

「今後は女の立場として、これからの剣の勝ち抜き戦にも今まで以上に女性の参加者が増えることを期待します。その方たちでこの城を今まで以上に守れるのではないでしょうか? 男は城の内外を守っていただき、女は城の中を守るのはいかがでしょうか? 私はシンシア様を中心に話しを進めて行きたいと思いました。今後はその人たちが中心になり、城の中にいらっしゃる王族の姫様たちを今まで以上に、特別に女の立場で守ることはできないでしょうか? そのことを許可していただこうと思いました」


 私はあくまでも女性を守ることであり男性を守るためではなくて、その意味も踏まえて一気にそう説明したつもりだけど、王様は『なるほど』と言いながらも、口を挟まず私の話しを聞いていたが、彼にその意味が理解できたのだろうか。


「話しを聞く限りではリリアを中心に考えてもいいと思うが」

「そうですよね。私もそう話しました」


 シンシア様はすかさずそう言ってくれたけど、これって王様も賛成してくれいるのかな?


「私は城に入って日が浅いです。立場がしっかりしているシンシア様がよろしいかと思います。私のことは知らない人が多いと思います」


「……うむ、これは私だけの考えでは許可ができないな。今度の話し合いで皆に聞いてみようか」

「確かにそうですね。私も時間をかけて下準備をした方がいいと話しました」

「今度の話し合いで直接皆の前でそのことを話してはどうかな?」

「えっ? 私が皆さまの前で話しをするのですか?」


 私は驚いたような表情を作り上げ、少し演技力でカバーしたような気がして、驚くというよりも私のことを知ってもらえるチャンスが訪れた、とそちらの方が素早く頭に閃く。


 話し合いとは会議をすると受け止めてもいいのかな? ほかの人の前でプレゼンするのかな? 彼の一存では決められないのかな? と私の頭の中でその言葉がすーっと駆け巡る。


「私もその方が手っ取り早いと思います。リリアでしたら誰か質問しても即答できるわね。いつもの調子で話せばいいことだからね」


 彼女はそう言ったけど、私はシンシア様だからこそやっと緊張せずに話しができるようになったのに、ほかの人の前で話しをするなんて緊張しちゃうじゃないの、そのことは考えてないのかしら?


「……たくさんの人がいらっしゃるのですか」

「二十人ほどかな」

「バルソン様もマーリストン様もいらっしゃるのですか」

「二人ともいるがその時にバルソンの意見も聞くといいぞ。その前に相談した方がいいかもな。皆で話し合って次の話し合いまでに考えてもらってもいい。その場で決まるかもしれないけどな」


 彼がそう言ったから、『これは大変なことになりそうですね』と、私の頭の中でソーシャルの言葉が響く。彼女が会話の途中で声をかけることは滅多にないので、『ほんとうね』と、一言返事をする。


「そのような機会を与えていただき、ほんとうにありがとうございます。自分で質問内容を考えて即答できるように、色んな状況を考えてみます。代わりの編み紐はある人に考えていただこうと思いました。この城から離れた場所にいらっしゃる方なので、その方にお会いして説明してもよろしいでしょうか?」


 私は王様にはそう説明したけど、シンシア様にはサガート様のことは話していたので、彼には言わない方がいいかな。またよけいな心労をかけてしまいそうだな。


「決まってからでも遅くはないと思うが……」

「いえ、その話しを皆さまが知ってからでは遅すぎます。私が動くことが分かってしまうからです。私たちの目の届かないところで偽物を作られては困るからです。その立場を強調して悪事を働かれては困ります」


「……なるほど。偽物を作って悪用するのか」

「バルソン様にはお聞きしてないですが、どこかの市場や里そういうことをすることも考えられます。悪い奴らはとことん悪知恵が働きます。最初からそういうことを防ぎたいです。作る作らないは別として相談してもよろしいですか? ゴードン様と親しい方ですから身元はしっかりしていると思います。私は王様にもその方の名前は教えません。うっかり誰かに話されては困るからです」


「……確かに考えられるが、疑われるとはな」

「疑っているのではありません。即座に知らないとおっしゃるためです」


 私はそう言ったけど、一瞬とても失礼な言い方だと思い自分で焦ってしまう。


「……なるほど。知らなかったら答えようがないからな。私もごたごた考える必要もないかな」


 彼はそう言ってくれたけど反応が少し遅いから、さっきの自分の言葉よりも焦ってしまう。


「確かにそうですが、私は聞かなくてもいいから王様だけでもお話ししたら?」


 シンシア様はそう言ってフォローしてくれたみたいで、この話しは言うか言わないかを確認することではなく、彼女は話した方がいいと言っているのだろうか。話すとまた迷惑をかけそうだ。話さないことで進めよう。


「それを作れるのかも分からないのに、王様とその方にご迷惑がかかるといけません。シンシア様には三日ほど暇をいただき、ルーシーとマーヤだけ従えて会いに行きたいと思います。よろしいでしょうか? それほど遠くではないです。後から三日ほど私がいないことを調べられると、場所的に遠くに行ったと調べた者は思うような気がします。その人たちの目を誤魔化すことができます。それだけ作る人には迷惑をかけられません。すべて隠さなくてはいけません。後は私が動かなくてもルーシーやマーヤに手の者を付けて動かせます。この考えはいかがでしょうか?」


 私は長々と説明してしまったけど、三日あればリズとも話せてトントン屋敷に様子が見に行けるかもしれない、と打算的な心も動いてしまう。


「そういうことまで考えているとは、シンシアが話したように驚いた話しだな」

「でも王様、いつもの不思議と違い今回は現実味を帯びていると思いませんか」

「確かに、いつもと違いあり得ることだな」


 彼はにやりと口もとをゆがめたような気がする。


「お二人そういうことを考えていらっしゃったのですか?」


 私はそう言ったけど、現実味を帯びているという言葉には驚愕する。シンシア様は私の言動が理解できないと話していたけど、確かに理解できないことだらけかもしれないが、それは私の身近な人たちだけしか知らないことで、今回のことは会議云々で大勢の人たちが関係してくるので、そういう言葉を使ったのだろうか。


「リリアの不思議は理解できないからな。今回の話しは私が考えてもまともな話しだと思う。皆に直接話しても考えられることだな」

「私もそう思います」

「このような機会を作っていただいき、ほんとうにありがとうございます」


 私はそう返事をしたけど、今はこの言葉しか思い当たらない。参ったな。


「しかし、この城にはゆとりがないが、その中で家臣たちが賛成するだろうか」


 彼はシンシア様と私を交互に見ながらそう言ったが、前にゴードン様が前の王様はあまり考えてなく、マーランド様は食事や着るものなどの贅沢を禁止している、と話していたことを思いだす。この城は財政難で貧乏ということなのかしら? よく分からないな。


「金銭的なことを話されていると思いますが、そのことは私に任せてください。この城にはご迷惑をおかけしません。私が家臣の皆さまの前で、私の持っている金貨を三十枚ほどお見せして説明します。何もないことから始めるので、多少の金銭は私自身が動かします」

「まったくそういうことまで考えたの? 私は金銭のことを聞いてないわよ」


 彼女はやや私を睨むようにそう言ったけど、お金のことは彼女に話してなくて、少しへそを曲げたのかもしれないな。


「私は最初にシンシア様にお話ししました。マーリストン様がこの城に入ることができると、あの金貨を彼のために使うと話したことを覚えていたただいていますか」


 私はやや強めの言葉で、彼女の気持ちを落ち着かせるためにそう説明する。鹿の干し肉、言わば鹿肉ジャーキーもすべて『あの金貨』で始めたことで、やっと軌道に乗り利益が出始めたのだから、私の資金面の話しは言いたくないけど、いざとなったらこの話しをしよう、とそう思っていたのだ。


「あの金貨の出所が分からないけど、その話しは覚えています」


 シンシア様の顔付きからしてやや落ち着きを取り戻しそう言ったようで、彼女の資金はフィッシャーカーラントの市場にあるラントークの店からの収入があるようだけど、私はあの金貨の存在は未だに説明はしていない。


「今回のことはマーリストン様の子供たちを守るために考えました。特に姫様です。コーミンの子供もいます」

「そういう話しは今まで聞いたことがないが、あの鹿の干し肉にもその金貨が動いているのか」


 彼はそう言って金貨の話しに執着しているけど、姫様の話しはどうなっているのかしらね。


「はい。城では代金はいただいていませんが、バルソン様とゴードン様が協力して市場で売っていただいています。ゴードン様の知り合いの方にもこの金貨が動いています」


「……その金貨の出所はマーリストンも知っているのか」

「はい。最初にシンシア様とバルソン様にもお話しましたが、ゴードン様には話したことはないですけどご存じです」

「なるほど。すべてはマーリストンが知っているということだな」

「はい。私たちは一緒にそばにいましたから」


 私は彼も知っていることを強調して話したつもりだけど、これで納得してもらいたいな。


「……なるほど。すべてはマーリストンのためか」

「はい。私は最初からそう考えていました」

「私には考えられない話しだな。シンシアはどう思う?」

「どうもこうもリリアの考えたことですからね。王様からいい考えか悪い考えかと聞かれると……いい考えだと思いますけど」


 シンシア様は自問しているかのごとくそう話してくれる。


「確かに私もそう答えるな。リリアと話しているとほんとうに驚くことばかりだ。私は女の編み紐のことは許可しようと思う。後は家臣の前でリリアがいかに話すかだな。ここの金貨が動かなければバルソンが作り上げた網ひもの制度と同じように考えられる。悪い話しではないと思うが……」


 彼はそう言ったけど、話のテンポが微妙にほかのことを言いたげに聞こえるのは気のせいなのだろうか。私だって簡単に作れるとは思ってないし、許可が出るか出ないのか、そのことが肝心なことであり、この城で家臣として働いている女性たちを巻き込むのだから、それもどのような組織的なことになっているのかも知らないしね。


「ありがとうございます。私ではなくてシンシア様を中心に考えたいと思いますがよろしいでしょうか」

「シンシアがよければ私は構わないが、二人でやることもできるぞ。シンシアの立場とリリアの剣客の立場を合わせればいいと思うが」

「私もその話しはしました。剣客であればバルソンのように人が集まりますからね」

「でも男の方たちはすぐにどちらが上の立場かと詮索します。だからシンシア様を中心に考えた方がよろしいかと思います」


「……確かにな。男は自分の位置づけに固執するからな。それは二人で考えたことでいい」


 彼は交互に私たちに視線を動かしながらそう言ってくれる。


「分かりました。ありがとうございます。男だけが偉そうにしているとだめだと思います。女の立場の話しも聞く場所も考えていただきたいです。ここだけではありません。市場の人たちも同じです。一つの屋敷を考えても男の方が強いし偉いと考えていると思います。その屋敷から女の使用人がすべていなくなると、男は食事もできませんよ。男は家のことができないと思います。中には食事を作れる人もいるとは思いますが、そう思うと女の立場も認めていただきたいです。私は王様が少しでもそのことを理解していただけると、そのことを家臣の前で話していただけたら、他の男の人は今よりは考えられると思います。少しでも女の立場がよくなるように思いますが、いかがでしょうか」


 私は長々と女の立場までそう説明してしまったが、またよけいなことを話したとも思ったけど、実際に市場の女性たちの意見を聞いたことはないけど、色んな女性の会話は聞かない振りをしていても聞こえていた、と言うよりも情報源としてしっかり聞いていた。この時代の女性は虐げられているような気がしていた。


「……この話しは理解できない……その、不思議的な話しでしょうか」

 シンシア様が目をまん丸くしてそう言ったから、

「いや、考えてもなかったことだから……そうなるのかもしれないな」

 彼もそう言って、二人で見つめ合っているようだ。


「リリアがそういうことを考えているとは初めて知りました」

「女の立場であるシンシアも考えたことがなかったのか」

「はい、ありません」

「この考えはリリアの不思議だと思うことにしよう。シンシアもそう思うようにな」

「はい、承知しました。私が後からもっと詳しく聞いておきます」

「よろしく頼む」


 彼はそう言ったけど、私は無視されて二人の世界に入っているのかな。今まで私に対してどういう会話を二人でしていたのだろうか、と考えてしまう場面である。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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