92=〈二人の子供時代〉 (2)
前回の続きです。
「お二人のつながりは子供の頃から続いていたのですね。大人になってもその気持ちがお互いに消えてなかったのですね。この城に入ってからもずっと大人の理性が働いていたのですね」
「その理性という言葉はどういう意味なの?」
「えっ、あっ、はい。感情に溺れることなく、自分の想いをずっと持ち続けていた強い気持ちのことです。何が起ころうとも自分の考えを曲げないで、その人のことを思い続けたバルソン様の力強い考え方だと思います。私はバルソン様と話してそう思いました」
「……バルソンはそういうことまでリリアに話したの?」
「いえ、私が勝手にそう思っただけです。シンシア様もバルソン様もバミス様とも、私がたくさん話して自分なりに解釈しました。私が理解したことは自分でそれが正しいと思ったことですから、他の人には関係ないことです」
「……なるほどね。自分が正しいと思えばいいのね。他の人のことを考えても仕方ないわね」
「でも、マーリストン様や王様はこれからも色んなことを考えなくてはいけません。他の人のことも考えなくてはいけません。だから影ながら支えたいと思います」
私はそう言ったけど、子供のためにも縁の下の力持ちになりたいし、そのためには自分の立場をこの城の中で築きたい。力がなくては発言権もないと思う。
「大変なことばかりを考えなくて、これからは楽しいことも考えていきたいわね。リストン様がこの城から出るも残るも自由だから、大人になって自分で考えればいいとリリアが話したことと同じだと思った。私もバルソンも自分で考えてこうなってしまったのよ。最初の考えの中には……その後に出会う他の人が登場しないものね。それが運命とも邂逅というものなのね」
「私も今までたくさん考えました。私の中には偶然の出会いもあります。でも、自分で考えたことですから後戻りはできません」
「その中にバミスのことも入っているのね。バルソンの子供時代を考えると、バミスに自分の境遇を重ねたのかもしれない。だから彼のことをそばに置いたのね。バミスもそれに応えて剣の道に励んだのでしょうね。それでバミスは赤の編み紐まで取れたと思う。それでバルソンのことを尊敬しているのよね。私はそう思ったけどね」
今度はバミス様の話しをしてくれたけど、この話しは聞いたこともなかった。私も今まで大変だったけど、バルソン様もバミス様も苦労したんだ、と私はその話しを聞いて思ってしまう。
「この編み紐の位置づけはバルソン様だけの考えなのですか」
「昔から青色、緑色、赤色はあったけど、バルソンが今みたいに作りかえたのよ。最終的には皆の前で勝ち残り、その上で心身共に優れているとバルソンが判断して上の色に上げているみたいね。他の人は知らないけど、バミスのことを思うと金銭が動いていたとは考えられない。あれはバミスの実力なのよ。リリアもバミスのことは信じられるでしょう?」
「私はバミス様のことは好きですから彼のことは信じています。金銭が動くということは初めて知りました」
「えっ、バルソンはそのことは話さなかったの?」
「そこまでは何も聞いていません」
「参ったわね。私はよけいなことを言ったわね。土色、黄色、青色、緑色、赤色と段階が分かれているけど、基本の土色に入るために金銭が動いていると聞いたことがある。下々の人間はたくさんいるから、いかに上の編み紐を持っている人に取り入ってもらうかが大事だそうよ。剣の勝ち抜き戦で勝ち抜いた人は黄色の立場になる、と前にバルソンが話していたけど、しばらくはその人の態度や言動を見極めると話していた。最初はどこの馬の骨とも分からない存在だから、確認するのは必要なことよね」
彼女はこういうことまで話してくれた。相手を思いやる気持ちとか剣に対する心構えとかなのだ。従順性とかその人の性格とかもあるよね。何だか難しそうだな。
「……確かにそうですね」
「勝ち残れなかった人たちは自分を推薦してもらうために、少なからず金銭も動いているそうよ。私は他の人からする聞いた話しだけどね。下々の人たちはバルソンが作ったこの編み紐の制度の中に、自分の位置づけを確定したい人が多いと聞いたけどね。金銭が動くことは仕方ないと思った。他のことでも知らないだけで金銭が動いていると思うわよ」
今度の彼女は金銭的なことを話してくれたから、賄賂とか袖の下とか、どこの時代でもあると思ってしまう。
「何をするにも金銭が動くことは私も理解しているつもりです。それよりもバルソン様から編み紐の話しを少し聞いたときに、女の立場で同じようなことを考えてはどうだろうかと思いました。この話しはまだバルソン様にも話していませんが、シンシア様はどう思われますか」
「えっ、そんなことを考えたの?」
彼女はとても驚いた表情でそう言う。私はバミス様の話しをもっと聞きたかったけど、バルソン様の名前が出たから編み紐の話題を持ちだすと、彼女の驚きようからして、そういう組織的な取り組みはやはりないと確信が持てる。
部分的な女性の立場であるかもしれないけど、城全体を通してはないのだ。それをバルソン様みたいに私が作ったらどうなるのだろうか。剣客か、私よりもシンシア様を中心に考えた方が立場的にいいような気もするけど、どうなのだろうか。
「強い剣客には人が集まると思います。私が手伝いますのでシンシア様が中心になって考えていただけると、今後はこの城にいらっしゃる王族やゆかりのある姫様たちを、特別にお守りすることはできないでしょうか。今までお忍びでシンシア様を守ってきた人たちをすべて一つのまとまりの中に集め、男の編み紐ではなく他の何か違うものを与えて位置づけを確立すると、今後は女の立場として、これからの剣の勝ち抜き戦にも女性の参加者がより増えると思います。今までにそういう決まり事があったかもしれませんが、この城を今まで以上に守れると思います。男は城の内外を守り……女は特に城の中を守るという仕組みはいかがでしょうか」
私はそう考えていたのでここで思いきって言ってみた、というよりも説明したと言った方が早いけど、彼女の立場と私の行動力で作れないだろうか。
「まったく、何でリリアはそういうことが考えられるの? 東西の屋敷においては彼女たちの位置づけは決まっているけど、今まで全員を集めるなんて考えたこともなかったわよ。私ではなくてバルソンみたいにリリアが中心になって考えたらどう? 私には年齢的にもう剣客としての立場はない。私が側室の立場で応援するからそうしなさい」
彼女からそう言われてしまったが、その言葉は私の考えに賛成していると思っていいのですね、と突っ込みを入れたかったけど、さすがそこまでは言葉に出して言えないので、よかったという言葉と共に、ぐっと心の奥深くにしまい込んだ。
「私は今からバミス様の子供を産みたいです。城からしばらく離れます。その間のことを考えると、城での位置づけがしっかりしてるシンシア様を中心に考えた方がよろしいと思います。男性は『編み紐』というので、私は『女の編み紐』と呼びたいです」
「リリアが子供を産み終わってからでも遅くはない。その間に色んな準備をすればいいのでは、突然には作れないわよ。剣の勝ち抜き戦は年に一度だし、反対して参加しない人もいるかもしれない。女同士の反発も出るかもしれない。セミル様にも相談して参加者を募った方がいいと思う。最初に王様に許可をいただかなくてはね。準備をしっかりした方がいいと思うけど、そのことをバルソンに相談したいので、近いうちに外で会わせてください」
彼女からはっきり会いたいと言われてしまったが、私も具体的にどうしたらいいとか考えているわけでもないし、女同士の反発か……ここでも東西と南の屋敷の中で派閥があるのだろうな。ソーシャルでもそこまでは分からないだろうから、シンシア様に聞かなきゃいけないよな。剣に付ける一目瞭然の色別の編み紐か。
「分かりました。バルソン様にお聞きしてみます。そうだ、シガール様にお願いしましょう」
「えっ、突然どうしたのよ。 何をお願いするの」
「バルソン様が考えた編み紐と同じ物を、シガール様に考えていただきます。私はルーシーとマーヤを連れて、アートクの市場に行ってもよろしいですか」
「ラデンの住んでいたアートクの市場なの?」
「はい。少し気が早いですが、彼はアートクの市場で装飾品の店を開いています。ゴードン様とも親しいそうです。その方に何か提げる物を考えていただきます。最初は土色ではなくて白がいいですね」
彼女の顔を見ていると、土色は地味な色合いなので白がいいと閃いたけど、ほかの色は黄色・青色・緑色・赤色と、今まである色にした方が見る側でも混乱しなくていいし、女でもその色に憧れを持っているかもしれないし、後でルーシーに聞いてみようと思う。
「まったく何を言い出すかと思えば、そういうことまで考えていたの?」
「何となく誰かに考えていただこうと思っていましたが、ラデン様のことを考えるとシガール様のことを急に思い出しました。彼とは一度だけお会いしました。彼は祝賀会にもいらしたそうです。私はその時にお話しができなくて、直接話しがしたいと思っていました。あの時の状況もお話ししたいと考えていましたので、王様に話し終えると許可が出でるのか分かりませんが、そういう考えで先に行かせてください」
「……分かりました。マーリストン様からいただいた簪もそこで買ったの?」
「いえ、それは違う店です。バミス様が竹の里に出かけたときに、私たちがトントン屋敷に様子を見に行ったときです。翡翠の指輪はゴードン様の家族をトントン屋敷にお連れしたときに、アートクの市場で買っていただきました。これを見てください。シンシア様からいただいた指輪と一緒に提げています」
私はそう言いながら、ゴールドのネックレスを胸の前から引っ張り出して見せると、彼女の視線は私の右手の中にある指輪を見ている。
「二つも提げていると素敵ね。マーリストン様から選んでいただいたのでしょう?」
「はい。三人でこれと同じ紐で提げています。コーミンが何を提げているのか知りたがって、その時理由は話しませんでしたが、今ではコーミンは母親からいただいたことを知っていますね」
私はそう言ったけど、その話しはケルトンには聞いたことがなく、シンシア様のことは話せないとしても、母親からもらったと話したかもしれない。そう思うと私と一緒で隠し事が多いから、ケルトンも辛かっただろうな。
城に入れて一度もゴードン様の屋敷に戻ってないし、この前コーミンに説明したときには気を失うほどにおったまげていたし、ゴードン様とミーネ様の話しを聞いて、やっと落ち着きを取り戻した彼女状況が、昨日のことのように思い出される。
「マーリストン様はそういうことが考えられたのね」
「最初にシンシア様と同じ意味を私は考えましたけど、私と同じものを持っていると元気に飛び跳ねられる、とその時は言っていました。最初は少し意味が違ったようです。彼女たちは買い物をしたことがないと思い、何でもいいからケルトンに買ってもらいなさい、と話して成り行きで買っていただきました」
この話しは彼女に伝えたかしら?
「その話しは初めて聞いたわよ。そういうことがあったのね」
彼女からそう言われてしまう。 あの時は色んなことが起こってしまい、アートクの市場でラデン様に会って手合わせもあり彼とも結ばれてしまい、トントン屋敷から戻ってきたと思えば、バミス様からゴードン様の家族のことを聞いて連れだして、翌日アートクの市場に出かけたのだ。バルソン様のこともあり、あの時は彼女に何を話したのか覚えてないよ。
「お話ししてなくて申し訳ありませんでした。彼はその時にコーミンに短剣も買いました。鞘に蝶が描かれています。シンシア様が好きな蝶の絵です。私は初めてその意味を知りました。最初に買った髪飾りのときには気付きませんでした」
私はそう言ったけど、私の意識が向こうに飛んでしまったようだ。彼が初めて選んで蝶の絵柄の簪と、私には鳥の絵が彫り込まれた髪飾りを買ってくれたのは、忘れもしない四月十日であった。
「あれはマーランド様にもお見せしたのよ。マーリストン様から市場で買っていただいたと説明して、普段は使わないけど彼の部屋に行くときだけ使おうと決めたのよ。今度外に出るとマーランド様にも何か買ってほしいわね。きっとお喜びになると思うけど、何か買ってほしそうな話しぶりだったわよ」
今度の彼女はそういうことを話してくれたけど、その時は王様の存在を知らずに、彼には何も買っていないけど、裏でそういう話しになっていたなんて、参ったな。
「分かりました。何か買い物をするときには相手のことをよく考えてから買うように言いましたので、マーリストン様にもそのように伝えます」
「色んなことをリリアに教えてもらっていたのね。何をするにも自分で考えなくてはいけないわね」
「はい。たくさん考えていただくように言いました。子供たちがもう少し大きくなって意味が理解できるようになれば、私たちはいつもそばにいないので、二人で何か買ってあげようと話しました」
今度は子供たちのことも話す。ほんとうはマーリストン様に渡した、手間いらずのダイビングナイフをあげるつもりだけど、自分で隠しきれる年齢も考えているのよね。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




