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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第四章 『城の中は……』
91/165

91=〈二人の子供時代〉 (1)

     ☆ ★ ☆ (16)


「私もリリアと二人で話したかったからちょうどよかった。そこに座って」

 シンシア様は部屋にあった椅子を勧めてくれる。


「ありがとうございます。今日はマーリストン様がいなくなった日ですね」

「ほんとにそうね。あれからもう八年も経ったのね。マーリストン様が生きていることが分かるまでは、私は悲しくて辛くて自分の体に大きな石が乗っているようで、動くことすら重苦しくて……朝布団の中から起きられなかったのよ。私が起きないと彼女たちが心配するし、最初はそのことも考えられなかった。言葉で言い表せない日々だった。自分が生きていくこと自体がどうでもよくなり、今思うと信じられない」


 彼女は笑みを浮かべて最初からそういう説明してくれる。私は王様から彼女の状況を聞いていたから、ある程度は理解していたつもりだが、ベッドから起き上がれなかったことは知らない。今だからこそ彼女の表情が緩やかになって話してくれるが、側室という立場でも色んなことがあったのだろうな、と考えてしまう。


「私も色んなことを考えましたが、そのような言葉をシンシア様の口から直接聞くとは、これは内緒話ではないのですか」


 私はそう言ってしまう。 最初に王様に会ったときに、自分が何度も部屋へ呼んで泣くだけ泣かせた、と言っていたことを思い出す。王様の前で泣くことで彼女の精神が救われたのだろうか。私がここにいてリストン様に何か起こると、私は耐えられるのだろうか。

 

「王様とリリアには話してもいいのよ。話したことで自分の気持ちが救われるからね。耐え難い怒りと絶望の気持ちだったことを、二人は理解してくれると信じているからね」


 彼女が二人と言うけどセミル様はその中に入ってないのだ。王様はセミル様が知らないと言っていた。やはり彼女はそういう現状を知らないのだ。


 それがリストン様であれば、所構わず鉄砲でも爆弾でもぶっ放しそうだな。私にはソーシャルがいるので安心しているけど、でも、私がリストン様のそばを離れていると行動を起こするのに時間がかかる。そう思うと不安でもある。


「私が周りの人たちのことをもう少し早く気づけばよかったのですね。最初から王子であるとは聞いていましたが、その時は自分のこともよく分からなくて、周りの人たちのことは考えられませんでした。マーリストン様は何も話さないし、でも、何を考えていたかは分かりませんが……元気に楽しく過ごしていました」


 私はそういうことしか言えない。もう終わったことだから楽しく過ごしていたと話せるが、働かずに食べていけていたから、あの洞窟では自由だけはあった、と私の意識が洞窟に向かう。


「それがいちばんよ。ここにいては子供であり彼の自由はなかったからね。リリアのお陰なのよ。話しが少しずれたわね。今日の私は何から話したらいいのかしらね。最初はルーシーのことよね。リリアが考えたことだから、ラデンとどうして話せるか答えられないのでしょうね。私はカーラの存在と同じだと考えればいいのかしらね」

 彼女がそう言ってくれたけど、カーラもブレスも説明するのが困りものだ。


 話題が彼のことに移ってしまったけど、今日は六月一日なのだ。

 私がここに転移して目覚めたのは次の日の午前中になると思う。

 向こうでは季節が晩秋だったのにここでは初夏だったものね。

 半年ずれて、季節が逆転していたのよね。

 私の記憶はまだまだ曖昧な部分もあると思う。


「そう思ってください。前にも説明しましたが頭の中で響く言葉は他の人には聞こえません。二人の会話は私には聞こえませんでした。ラデン様も私とルーシーの会話は聞こえないと言いました。お互いにそのことが確認できてよかったです。二人は気兼ねせずに話せます。ラデン様もよかったと言っていました」


 私は二人の会話のことをそう説明する。私は彼女には何でも話しているが、毎回頭の中が混乱していると思う。申し訳ないとは思っているが、どうしようもないよね。


「そのことを聞いてみようと思ったのよ。お互いに二人だけしか聞こえないのね。私もその方がよかったと思う。私はラデンのことは詳しく知らないけど、バルソンにはどう説明するつもりなの?」


 彼女からそう聞かれてしまう。ラデン様に子供がいるのはバルソン様も承知しているだろうし、編み紐を狙うときに彼の立場に悪い影響を与えないだろうか。そこがいちばん気掛かりなんだよね。


「……二人が落ち着くと、城の外で四人で会います。しばらくは秘密だと話しました」

「バルソンもルーシーの会話のことを知っているから、私が聞かれたらリリアの不思議が二人にも存在していたと答えておくわね。王様にもそう答えましょう。考えても分からないことはこの不思議で済ませましょうか。それ以外に言葉はない。マーシーにもそう話したのよ。彼女はルーシーのことをとても喜んでいた。ルーシーはリリアの配下なので今後のことはリリアに任せたけど、マーシーは私のそばにいるから私が考えましょう。切掛けはリリアで作ってくれたけど……リリアの考えはどう?」


 彼女からそう説明される。彼女たちが自分の部屋に入れば二人で何でも話せると思うけど、シンシア様は自分の立場を考えてそうした方がいい、と言っているのだろうか。それとも私の立場を考慮して話してくれるのだろうか。上司が部下の面倒をみる。恋愛に対してもそういうことをするのでだろうか。二人とも自分に任せてほしいと言われれば、スパッとお願いするんだけどな。男女の違い、上下の立ち位置の基準が分からないのよね。


「そのようにしていただきたいです。何かあれば私たちに相談してくれると思います。後は二人で考えればいいことだと思います」

 私はそう言って、やんわりと彼女の意見に賛成する。


「私は考えてもなかったけどね。あの二人にも女として春が訪れたということね」

「今後はどうなるか分かりませんが、ドーラン様とラデン様の子供にも、これから産まれるマーリストン様の子供たちを守っていただきたいと話しました」

「さっきのリリアの話しを聞いてそうだろうと思ったのよ。ルーシーとマーシーはリリアの子供たちのことは理解しているけど、あの二人もいずれは分かることだから、その時になればこの話しを思い出すわよね」


 ドーラン様とラデン様はマーリストン様の子供のことは知らない。彼らに対する説明はそれなりに違いがある。シンシア様には両方の立場で話したことを説明ができる。私のいちばん近くにいるのはシンシア様だから、私が彼女に何でも話せば、王様やセミル様やバルソン様にも大まかなことは伝わると思う。


「私は皆が幸せになってほしいと思いました。リストン様のために私は最善を尽くしたいと思います」


 私はそう言ったけど、彼らを利用しようとかそう言うことではない。自然にそういう流れになればいいと思っているだけで、私の考えは王様にも話したけど、こればっかりは相手がいることだからな。どこでどうなるかは分からない。それに、結末であるはずの答えは、十年も二十年も先のことである。今何かしなくては、私が動かなくては何も始まらないのだ。


「マーリストン様のことはリリアが命をかけて守ってくれたから、ほんとうに感謝しているのよ。もう大人になって自分のことは自分で考えられるからね。かわいいリストン様のことはこの命をかけて守るからね。マーリストン様と同じことよ。私たちのつながりは複雑だけど……王様だって同じことよ」


 彼女がそう説明してくれた。私にとってはとても頼もしい言葉で感謝はしているが、リストン様が産まれたことで、大人になったマーリストン様の存在がやや薄れているのだろうか。何だかよく分からないけど、小さい子供を守るのは大人の責任だからね。


「ありがとうございます。この場で王様の話しが出ましたから、私は一つだけシンシア様にお聞きしたいことがあります」

「えっ、何を聞きたいの?」

「王様はバルソン様のことをご存じなのですか」


「……いつかは聞かれるとは思っていたけど、マーリストン様が生まれた後に話したのよ。バルソンは知らないと思う。でも、今では知っているのかもね。このことは二人の秘密ね」

「やはりそうですか。私もいろいろ考えて王様はご存じだと思っていました」

「前にバルソンとは幼なじみだと話したでしょう。私が影ながらにバルソンの位置づけを王様に話したのよ。若い頃からバルソンは剣客だったからね。私たちの先生から導いていただいたのね。それを王様からも認めていただきました。特にバルソンは六歳前後からずっと先生のそばで育ち、リリアがマーリストン様を導いたように、物事の考え方を教えていただいたそうよ。先生の場合は直接の会話ではなくて、先生の言動すべてだとバルソンが言ってた。子供ながらに少しずつ理解できたと話したのよ」


「……なるほど」

「私の屋敷に行ったときに、今のフィッシャーカーラントの市場は二つの市場が合わさったと話しだでしょう。私たちの子供の頃はカーラントの市場と言っていたのよ。先生はそこに住んで剣を教えていたけど、先生は十歳にならないと実際には教えていただけなくて、私の父が先生と知り合いで、私は四歳前から連れて行かれて練習の様子を見ていたそうよ。最初は一ヶ月ほど見ていたころに、先生が私に棒を渡したそうで、それは何となく覚えていたけど、私はその棒を屋敷に戻ってから振っていたそうよ」


 彼女はこういうことも話してくれ、彼女の子供時代はこういう風になっていたのだ。誰しも子供時代はあるけど、私は大雑把にしか覚えてないけどな。シンシア様は母親から聞いたのだろうか。


「私も子供のときから棒を振っていたことを思い出しました。シンシア様と同じで私の父が習わせてくれました」

「その話しを聞くのは初めてね。リリアの昔話は聞いたことがないからね」

「申し訳ありません。私は自分のことを少し思い出しました。でも、説明ができないし彼にも話していません。ほんとうに申し訳ありません」

 私は一気に謝ってしまったけど、隠すというよりも私が話した所で、何もかもが理解できないよね。


「誰しも親がいて子供時代はあることだし、そういうことは関係ないわよ。私とバルソンの出会いも王様との出会いも、リリアとの出会いもすべて運命だと思ったのよ」

「ゴードン様も彼との出会いは運命だとおっしゃいました」

「ほんとうにそうよね。そこにはすでにバルソンがいて、これも母から聞いたことだけど前にも話したかしらね。先生は急にいなくなると思っていたら、毎回十日ほど旅に出ていたそうよ。その時に必ずバルソンと大人のお弟子さんを順番にひとりだけ連れていったそうよ。バルソンに後から聞いた話しでは、その旅で市場や色んな里を訪れてたくさんの人に出会い、先生のそばで話しを聞いていたので、とても役立ったと言っていたのよ」


 前に少し聞いた内容も含まれていたけど、彼女はそういうことまで話してくれたる。バルソン様の子供時代はこのようになっていたのだ。その旅で色んなことを学んだのだ。小さいころから教えられるのではなくて、自分自身の体で感じ取っていたのだ。マーリストン様も同じように教えてもらっていたのだろうか。


「バルソン様はそのような子供時代を過ごしてきたのですね。私は初めて知りました」

「バルソンは五人兄弟の一番下だそうよ。先生が旅に出たときに、ある里で見初められたみたい。この子はいい目をしているということで譲り受けたそうよ。これも母から聞いた話しだけどね。バルソンも自分の里の名前は忘れたと言っていた。一度も戻ったことがないとも話していたわよ」


 彼女はこういうことも話してくれたけど、彼は末っ子なのだ。いい目をしているのは表向きの言葉で、貧しくて食い扶持を外されたのかもしれない。この時代のことを考えるとあり得る話しだ。親兄弟と別れて孤独だったのだろうか。

 

「先生はその里の名前はご存じだったのでしょうね。でも、彼には話してないということですね」

「多分、そういう先生だったからね。私も父のことを言われたし、父が先生に話してほしいと頼んだのかもね。バルソンにはこれからは自分だけで生きていけるように、自分の両親も生まれた里も忘れろ、とか言われたのかもしれない。そこまでは聞いてないけどね」


 彼女はこういうことまで話してくれて、バルソン様はずっと孤独だったのだな。私は信じられない話しを聞いたと思い驚く。


「シンシア様のお父様の存在も、この城に入る前にお聞きになったのですか」

「そうよ。そういう先生だったのよ。私とバルソンとの出会いはそこから始まったけど、厳しく育てても子供だからね。先生も母親の存在が必要だと思ったのでしょうね。母は先生から頼まれたのかもしれない。母がたまにバルソンを屋敷に呼んで、私たちは剣の練習もしたけど色んなことを話して楽しかった。だから、私はバルソンのことは兄のような感じで、子供の頃からずっと好きだったのよ。今でも好きな気持ちは変わりないけど……リリアのお陰でバルソンの気持ちも聞くことができたし、お互いに感謝しているのよ」


 彼女はこういうことも話してくれ、ルーシーやマーシーの話しからの内容がずれてしまったけど、シンシア様やバルソン様の過去を聞けたことは、私に取っては重要なことだ。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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